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014 氷雪の花の秘密

 夜空に輝く満面の星空は綺麗で美しく、わたしは感動して心を奪われていた。

 だけど、そんなわたしの心を一瞬にして現実に引き戻した人物が現れてしまった。

 その人物とは、モーナのストーカーのスタンプだ。


 スタンプを警戒して一歩だけ後退あとずさり、カリブルヌスの剣をつか――無い。


 わたしは気がついた。

 カリブルヌスの剣は、今はテントの中にあるのだ。 

 失敗したと後悔してももう遅い。

 もし、スタンプが襲い掛かって来たら、魔法を使って全力で逃げるしかないと覚悟を決める。


 わたしが魔法を使う為に魔力を集中しようとした時に、スタンプがニヤリと怪しげに笑みを浮かべた。


「聞いたよ。ラリューヌちゃんの為に、三つの宝を集めているんだろ?」


「だったら何?」


 わたしはスタンプを睨みつける。

 だけど、スタンプは気にする事も無く、怪しげな笑みを続ける。


「これが何かわかるかい?」


 スタンプが質問しながら、ランドセルより一回り小さい箱をわたしに見せる。

 わたしがそれを見て顔をしかめると、スタンプは箱についていた扉を開けて中を見せてきた。


「花――」


 わたしは箱の中身を見て呟いた。

 箱の中には、とても綺麗な花が入っていて、まるで氷の結晶の様な花の形をしていた。


「――っあ! もしかして!?」


「そう。この花は、三つの宝の一つ、氷雪の花だ」


 スタンプは箱の扉を閉めて、下卑げびた笑みを浮かべる。


「これとモーナちゃんを交換してあげるよ」


「はあ?」


「本当は異世界道具スマホも交換対象にしたいが、欲張って痛い目を見るのも嫌だしな。モーナちゃんだけで我慢する事にした」


「ふざけないで。モーナを道具と一緒にするな」


「モーナちゃんを道具なんかと一緒にしてはいないさ。だから交換をモーナちゃんだけにしたんだ」


 何こいつ。

 さっきと言ってる事が違うし、結局交換なんて言ってる時点で何も変わらない。

 こんな奴にモーナを渡して堪るもんか!


 わたしは、スタンプをより一層強く睨む。

 すると、スタンプは我が儘な子供を見て呆れる様な表情をして、首を横に小さく振った。


「仕方が無い。実力行使に出るとしよう。本当は君の様な可愛いお嬢ちゃんに暴力を振りたくはないが、俺とモーナちゃんの愛を邪魔するんだから仕方が無い」


「俺とモーナの愛? あんたの一方的な愛でしょ? モーナはあんたの事なんて、鬱陶うっとうしい位にしか思ってないよ」


「……本当にお仕置きが必要な様だな」


 スタンプが何処に持っていたんだと思えるような大きな斧を取り出して構える。

 わたしは魔力を集中して――


 あれ?

 魔力が溜まらない!?


 その時わたしはハッとなり気がついた。

 思い返せば、亥鯉の川で猪鯉と競争をして、その時に魔力を全部使い果たしていたのだ。

 それなりに時間が経ってある程度回復したとはいえ、今のわたしは加速魔法の中でも初歩の中の初歩『ダブルスピード』一回分しか使えない。


 問題は、この『ダブルスピード』と言う魔法の効果が、倍速で動ける様になると言う効果な事だ。

 わたしがいくら倍速で動けるようになっても、大人を相手に意味があるとは思えない。


 最悪の状況だ。

 わたしが戸惑う間にスタンプは接近していて、目の前で斧を振り上げていた。


「安心してくれ。殺したりはしない」


 この時、わたしは本当の意味で恐怖を感じた。

 この異世界に来て、何度か怖い思いもしたし、酷い目にも合って来た。

 だけど、わたしの周りには、いつもお姉とモーナがいてくれた。

 だからだろう。

 わたしは怖い思いをしても平気だったのだ。

 だけど今は違う。

 ここにはわたししかいない。


 わたしは恐怖で目を見開いてスタンプの振り上げた斧を見て、腰を抜かしてその場でへたり込んで震えた。

 そして、スタンプはわたしに向かって斧を振り下ろす。


「アイギスの盾!」


 スタンプが斧を振り下ろしたその時、お姉がわたしの目の前に立ち魔法の呪文を唱えた。

 その瞬間に、お姉の目の前に大きな光り輝く盾が出現して、鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音をたててスタンプの斧を受け止めるた。


「俺の攻撃を受け止めた!?」


 スタンプが驚いて後退る。


「妹に、愛那に酷い事する人は許しません!」


 お姉がスタンプを睨みつけると、魔法を解いて、へたり込んだ私を抱き寄せる。


「愛那、ごめんなさい。もっと早く気がついてあげるべきでした。怖かったですよね」


「お姉……」


 お姉に抱きしめられて、優しく話しかけられて、わたしの目からは堪らず涙が溢れ出る。


「おい、スタンプ。お前、マナに何をした?」


「モーナ?」


 モーナの声がして視線を向けると、そこには今まで見た事も無い程の怒気を全身から出すモーナが立っていた。


「モーナちゃん! 捜したんだよ! さあ、俺と村に帰って式をあげよう!」


「もういい。スタンプ、お前は敵だ!


 モーナがスタンプに向かって跳躍ちょうやくする。


「モーナちゃ――――っがは!」


 瞬きをする間もなく、スタンプは一瞬にしてモーナの爪に切り刻まれて、その場で倒れた。

 わたしは涙を流すのも忘れて驚きモーナを見ると、モーナが眉根を下げて心配そうにわたしに近寄って来た。


「マナ、マナ、大丈夫か? 変な事されなかったか?」


 一瞬でスタンプをやっつけてしまったモーナが、わたしを見てオロオロと心配そうにするので、何だかそれが可笑しくてつい笑ってしまう。


「あはは。うん。うん。大丈夫だよモーナ。ありがとう」


「それなら良かったわ!」


「うん。お姉もありがとう」


「良いんですよ、そんな事。それより、愛那が無事で良かったです」


 お姉がわたしに微笑む。

 するとその時、ラヴィがテテテとわたしの許に走って来た。

 そして、わたしの腕に抱き付いて、私の顔を少し眉根の下がった虚ろ目で見つめる。


「愛那、怪我は無い?」


「うん。無いよ。心配してくれてありがとう」


 わたし、この世界に来てから皆に護られてたんだな。


 その事に気がついたわたしは、心の中でもう一度お姉とモーナに感謝して、それからスタンプを見た。

 スタンプは完全に目を回して気絶していて、モーナがスタンプに近づいた。


「マナ、こいつ殺しておくか?」


「え? 殺す?」


 わたしは聞き間違いかと思い、涙を拭いながら聞き返す。

 すると、モーナはスタンプに片足を乗せて、得意気に胸を張りながら答える。


「そうだ! 爪で千切りにするのと、重力で押し潰してミンチにするのと、どっちがいいか決めていいぞ!」


「いや、どっちもしなくていいよ」


 わたしがモーナの言葉にドン引きして答えると、モーナは首を傾げてスタンプを見た。


「なら仕方が無いな! 生き埋めにして殺すわ!」


「殺さなくていいってば!」


「そうなのか?」


「そうだよ!」


 まったく、モーナは物騒で仕方が無い。

 確かに怖い目に合ったし、もう二度と顔も見たくないけど、別に殺す必要はないだろうに。


「殺さないと、マナがまた狙われる。そんなの嫌だ!」


「モーナ……」


 ホント、仕方が無いな~。


「今度は返り討ちにするから大丈夫。もう絶対こんなストーカー野郎なんかに負けないよ」


 今回の事でわたしは気付き学んだんだ。

 異世界に来て、知らぬ間にお姉達に護られていた。

 きっと、わたしは自分はお姉より何でも出来ると、いつも慢心していたんだ。

 護られていたのはわたしの方だったのに。


 だから三つの最大のミスを犯してしまった。

 それは、自分から一人になった事、カリブルヌスの剣を持ち出さなかった事、魔力が殆ど無くなっているのに忘れていた事、この三つだ。

 最低でもカリブルヌスの剣は肌身離さず持っていなければならなかった。

 わたしは深く反省し今後は気をつけようと心に決めて、そして、強くなろうと決心した。


 こんなストーカーなんかに、負けたくないからね。


「そうか。それなら、今回だけ見逃すわ!」


「ありがと、モーナ」


 わたしはモーナに笑顔を向ける。

 モーナもわたしの笑顔を見て、スタンプを蹴り転がして笑顔を私に向けた。


 モーナ相当怒ってるな~。

 って、あ。


 わたしはモーナに蹴られて転がるスタンプに視線を移して、スタンプが持っている箱の存在に気がついた。


 そう言えば、氷雪の花を持ってたよね。


「モーナ、そのストーカーが氷雪の花を持ってたんだ。箱の中に入ってるのを見たの」


「本当か!?」


「うん」


 わたしが返事をすると、モーナは転がり終えたスタンプの所まで行って、スタンプが気絶しながらもがっちりと掴んで離さない箱を奪い取る。


「これか?」


「うん。それだよ。その中に氷雪の花が入ってた」


「おお!」


 モーナが目を輝かせながら箱を開ける。

 わたしは苦笑しながらモーナを見ていたのだけど、箱を開けた後のモーナの表情が曇りだしたので、それを見てわたしは首を傾げた。


 どうしたんだろ?

 あ、まさか、さっきので花がめちゃくちゃになっちゃったとか?


「マナ……」


 モーナはわたしの名前を呟いて、箱の中身をわたしに見せる。


「え?」


 箱の中身を見てわたしも驚いた。

 何故なら、箱の中には何も入っていなかったからだ。


 違う。

 入ってはいた。

 ただ、入っていたのはシナシナになって水浸しになった茎だけで、他に目立つものと言えば箱の中が水浸しになっている位だ。


 わたしが驚いて何も言えずにいると、ラヴィがわたしの腕を掴む手に力を込めた。


「どうしたの?」


 何となくだけど、何か言いたげな雰囲気だったので訊ねてみた。

 すると、ラヴィは目を何度か泳がせてから、意を決したかの様にわたしと目を合わせた。


「氷雪の花は……氷で出来た花。特別な保存方法が必要」


「え!?」


 わたしが驚いて目を見開くと、ラヴィが一度俯いてから、わたしの腕を掴む手にグッと力を込める。

 そして、顔を上げてわたしと目を合わせて言葉を続ける。


「必要なのは『礼雀らいじゃくのつづら』。氷雪の花の咲く雪山、アイスマウンテンのふもとにいる雀の鳥人が持ってる」


 礼雀のつづら……か。

 うん。


「ラヴィ、教えてくれてありがとう」


 わたしは笑顔をラヴィに向けてお礼を言った。

 ラヴィは相変わらずの虚ろ目だったけど、口角をあげて頷いた。



 次の目的地は氷雪の花が咲くアイスマウンテンの麓。

 そして目的は、そこにいる雀の鳥人から礼雀のつづらを貰う事だ。

 夜が明けて朝日が昇る頃、わたし達は目的地に向かって歩き出した。


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