141 愛那ちゃんは可愛いです!
※今回は瀾姫視点のお話です。
お披露目会に参加する愛那ちゃんとロポちゃんを見送ってから、私とラヴィーナちゃんは一度この場を、庭園を離れました。
それにはもちろん理由があります。
今日は愛那ちゃんとラヴィーナちゃんのお友達のアタリーちゃんと、ラヴィーナちゃんが会う約束をしているからです。
お披露目会が始まるのはもう少し先なので、今の内に迎えに行ってまた戻って来る予定です。
待ち合わせの魚神像に近づくと、魚神像の前に立っていた小さくて可愛い女の子が笑顔で向かって来ました。
「ラビたん、おはようでち」
「おはよう」
アタリーちゃんめちゃくちゃ可愛いです!
近くで見るとその可愛さが際立ちます!
手のひらサイズで貝殻を被った女の子で、おめ目がパッチリとしてて、青と白のセーラー服を着ててラブリーです。
背中に背負っている甲羅もまるでランドセルみたいで可愛いです。
アタリーちゃんがあまりにも可愛いのでジッと見ていたら、アタリーちゃんと目が合いました。
そうしたら、アタリーちゃんが可愛らしく小首を傾げます。
めちゃくちゃ可愛いです!
「マナたん、つこち見ない間に大きくなったでちね~」
「違う。愛那の姉の瀾姫」
「この人がマナたんのお姉たんでちか。ナミキたん、はぢめまちてでち」
「はい。アタリーちゃん、はじめましてですー」
お行儀が良くて可愛いアタリーちゃんは挨拶を交わすと、辺りをキョロキョロと見回して、可愛らしく小首を傾げました。
「マナたんとフナたんはどこでち?」
「愛那はお披露目会。フナは子供の世話があるから後で合流」
「とうでちか。マナたんのお披露目会見に行きたいでち」
「うん。一緒に行こう。フナも来る」
「やったでち! 楽ちみでち~」
「可愛いですね~」
「でち?」
ここ水の都に来てから、色んな魚人の方々を見て来ましたし、アタリーちゃんの様に小さい魚人さんも今まで何度も見て来ました。
でも、ここまで可愛い子は初めてです。
流石は私の可愛い妹愛那ちゃんと、虚ろ目可愛いラヴィーナちゃんです。
可愛い子には可愛い子が寄って来るので、可愛い2人にはお似合いの可愛いお友達です。
と、そんな事を考えていたら、アタリーちゃんが私の顔を見上げて話しかけてきました。
「ナミキたん、おっぱい大きいでちね。ちょっと良いでちか?」
「はい?」
何が良いのか分からなくてハテナをつけて返事をしたのですが、アタリーちゃんは良いと受け取ったようです。
その小さな体からは想像出来ない程のジャンプ力で私の胸元まで跳んで、そのまま私の胸の上にしがみ付くように着地しました。
「ひゃうっ」
「フカフカでち~。やっぱり巨人の大きいおっぱいはフカフカで気持ちいいでち」
「あわわわわわわわ」
「瀾姫しっかり。アタリー、いきなりそれは失れ――」
「可愛いですううう!」
「――っ!? 瀾姫……?」
なんと言う事でしょう!?
今までおっぱいが大きくて、重いし肩がこるし愛那ちゃんから睨まれるしで良い事がありませんでしたが、まさかこんな所で役に立つとは思いませんでした!
つまり、私のおっぱいは小人専用クッションと言う事です!!
光栄です!!!
「アタリーちゃん、好きなだけそこにいて良いですよ~」
「本当でちか!? 嬉ちいでち! ありがとうでち!」
「いえいえ、こちらこそありがとうございますー」
「瀾姫、そろそろ行こう」
天にも昇る気分でしたが、それはラヴィーナちゃんの言葉で遮られて戻ってきました。
ラヴィーナちゃんにステータスチェックリングの時計を見せてもらうと、もう直ぐでお披露目会の開演時間でした。
アタリーちゃんに胸の谷間に入ってもらって、先を急ぎます。
「リングイさん達はもう来てますかね?」
「分からないけど多分来てる。リングイが結局一番楽しみにしてた」
「そうですね」
「他にも誰か来るでちか?」
「そう。フナの住む孤児院の皆」
「フナたんのご家族でちたかあ」
お話をしながらお城の庭園前の城門の所までやって来ました。
城門の前は人がいっぱいいて、長~い行列が出来ていました。
「おーい! ナミキー! ラヴィーナー! こっちだー!」
不意にモーナちゃんの声が聞こえて振り向くと、行列から少し離れた場所にモーナちゃんとリンちゃん達がいました。
皆の姿を見つけたので、ラヴィーナちゃんと一緒に皆の所まで駆け足します。
「アタリーちゃんおはよ」
「フナたんおはようでち」
「このちっこいのがアタリーとか言う魚人か?」
「はいでち。あたり亀の魚人のアタリーでち。よろちくでち」
「あさり亀か。私はモーナ、猫の獣じ……魔族だ」
「モナたんでちね」
モーナちゃんが猫の獣人と言いかけてやめました。
きっと愛那ちゃんと喧嘩してしまった事が、よっぽどショックだったに違いありません。
ちゃんと魔族って本当の種族を言って偉いです!
モーナちゃんとアタリーちゃんが自己紹介をしてから、リンちゃん達も自己紹介をしました。
それからリンちゃんから説明を聞きました。
これからお城の庭園で開かれるお披露目会の参加者の関係者は、関係者用の観客席が用意されているので、そこの行列に並ぶ必要がない様です。
でも、お披露目会の参加者は貴族の方が多いらしくて、目を付けられない様に注意する必要があるそうです。
何を注意すればいいのか分からなかったので聞きますと、貴族の方の機嫌や状況によって注意するべき事が変わるので、とにかく近くによらない方が良いとの事で難易度が高そうです。
門番さんではなくお披露目会のスタッフの方に愛那ちゃんの関係者だとリンちゃんが説明すると、スタッフさんの内の1人から案内を受けて席に向かいます。
城門を通って庭園に出ると、大きなステージが庭園の真ん中に建てられていました。
既に観客の方達がいっぱいいましたが心配いりません。
わたし達は関係者用の特等席に案内してもらえるからです!
特等席は最前列だと思っていたのですが違いました。
観客席は映画館などでよくある階段式になっていて、遠すぎず近すぎない真ん中にありました。
出来れば一番前で愛那ちゃんの可愛い姿を見たかったのですが仕方ありません。
それからケモ耳さん達の国で見た【えーぞー君】もありました。
アレで生中継するようです。
異世界に来たのに異世界じゃないみたいです。
とにかくです!
最前列じゃないのを我慢して横断幕を広げます。
この横断幕は愛那ちゃんに内緒でラヴィーナちゃんと昨晩作りました。
他にも、応援用のアイドルグッズを皆の分も用意してあります。
準備は万全です!
◇
「愛那ちゃああああああああっっ! 世界一可愛いですううううううっっ!」
「愛那頑張れ」
「マナ! 今の所一番可愛いぞ! 私の方が可愛いけどな!」
「かっかっかっ! それ応援になってないぞ!」
「モーナちゃん何言ってるんですか! リンちゃんの言う通りです! 世界一可愛いです!」
「マナたん頑張るでちー!」
「マナちゃーん! こっち見てー!」
「「「マナお姉ちゃんがんばれー!」」」
お披露目会が始まって愛那ちゃんの出番になりました。
私達は全力で愛那ちゃんを応援します!
モーナちゃんだけ空気が読めてませんが、それでも構いません。
見て下さい愛那ちゃんのあの姿!
ラヴィーナちゃんが貸したうさ耳も良いアクセントになってとってもキュートです!
うふふ。
まるでうさぎの獣人みたいですね~。
あれ?
愛那ちゃんが何やらスタッフのお姉さんと話しています。
あ、指をさされました。
きっと私達の応援に感動して、自分に向けている【えーぞー君】を私達にも向けてほしいと頼んでいるに違いません。
流石は愛那ちゃん、なんと言う心優しいお姉ちゃん子なんでしょう。
だけど、スタッフのお姉さんに断られてしまったみたいで、愛那ちゃんは驚いた顔で審査員の人達を見て首を傾げました。
このままでは愛那ちゃんが審査員さんへの不満で本領発揮できません!
今こそお姉ちゃんパワーで応援して盛り上げる時です!
「愛那ちゃあああああああああん!! ロポちゃあああああん!! ファイトですよおおおお!!」
私のお姉ちゃんパワーが愛那ちゃんに届きました。
愛那ちゃんが私と目を合わせて、耳を赤くして眉根を上げます。
きっと戦う意思が……準備が整ったに違いありません!
頑張れ愛那ちゃんです!
愛那ちゃんの歌声が、ラヴィーナちゃんが愛那ちゃんの為に作ったマイクに乗ってステージに響きます。
とっても可愛くて綺麗な歌声で、天にも昇る気分になります。
めちゃくちゃ可愛いです!
アイラブ愛那ちゃんです!
ロポちゃんも愛那ちゃんの歌と踊りに合わせて踊ります。
めちゃくちゃ可愛いです!
昇天しちゃいそうです!
「聞いた事ない歌だな? なあフナ、なんて言う歌なんだ?」
「えーと……なんか、マナちゃんとナミキさんが住んでた所では女の子と大きいお兄さんに有名な歌らしいよ? プリなんとかって言うシリーズがどうのこうの言ってた。リン姉も知らないんだ?」
「プリなんとか? 知らねーな。ってか何で女の子と大きいお兄さんなんだ? 極端にかたよってねーか?」
「そんなん知らないよ。プリなんとかなんて私も初めて聞いたもん」
「プリなんとかじゃないです。プリキ――――」
「おまえ等煩いぞ! マナの歌が聞こえないだろ!」
「へぅ。すみません」
やってしまいました。
モーナちゃんの言う通りです。
愛那ちゃんの晴れ舞台を邪魔しちゃう所でした。
「お前の方が煩いだろ。つうか、なんかよく分からんけど声が響いてるし十分聞こえるだろ」
「あれってラヴィーナちゃんが作ったって言うマイク? って道具だっけ?」
「そう、小さい拡声器。声量を上げる装置。ドワーフの国で博士に色々教えてもらったマジックアイテムの一つ」
「すげえな。そんな物まで作れるのか」
「それより愛那に集中」
「あ、悪い」
リンちゃん達が何かを話していましたが、ラヴィーナちゃんが止めて終わったようです。
流石はラヴィーナちゃん、しっかり者です。
ラヴィーナちゃんにも本当はステージに立ってもらいたかったんですが、あの曲は愛那ちゃんにしか歌えませんし踊れません。
私の英才教育の賜物なのです!
メロディーが流れてないのに歌える愛那ちゃんはきっとアイドルの才能がありますね。
しかも私の要望に応えてアドリブでロポちゃんともいっぱい触れあってます!
流石は愛那ちゃんです!
お姉ちゃん鼻が高いです!
今日からでもアイドルデビュー出来ちゃいます!
でも、お姉ちゃんとしてはアイドルな愛那ちゃんも見てみたいですが、愛那ちゃんは皆のアイドルでは無くて、私のアイドルなので独り占めの為にさせたくありません。
愛那ちゃんが大人になるまで独占します!
そんなわけで愛那ちゃん凄いです!
愛那ちゃんが歌い終わって大きな拍手が生まれます。
感動です!
これは最高得点間違いなしです!
「品の無い歌だな」
「…………?」
聞き間違いでしょうか?
私の目の前に座っていた河童頭のおじさんから、不思議な言葉が聞こえた気がしました。
「歌もそうだが、なんだあの舞いは? 優雅さの欠片もない。目と耳が腐る。どこの下民だアレは?」
河童頭のおじさんがそう言うと、横に座っていた女性がおじさんを見てクスリと笑いました。
「さっきから背後でうるさい孤児の1人ではなくて?」
「そうかそうか。どうりで品の無いクズなわけだ。娘を見に来たと言うのに、まさかこんな酷いものを見せられるとはな」
「そうね。せっかくの踊歌祭のお披露目会も、下民のせいで台無しだわ」
「まったくだな。女王様もこんなゴミクズども、さっさと追い出せばいいものを」
河童頭のおじさんがため息を吐き出して、愛那ちゃんに指を差します。
「まずは手始めにあの小汚い小娘だな。女王にあのゴミを処分してくれと頼むとするか」
私は腹を立てて、それでも何も言わず我慢しました。
愛那ちゃんを間違いなく侮辱している河童頭のおじさんに怒って文句を言いたくなりました。
でも、リンちゃんに関わっちゃダメと言われています。
私は今1人では無く、孤児院の子供達と一緒にいるんです。
ここで怒ってしまったら、きっと私と一緒にいる孤児院の子供達が、いつか貴族である河童頭のおじさんに酷い事をされてしまうかもしれません。
そんなのは嫌です。
何も言い返せなくて、私は愛那ちゃんに心の中で謝りました。
お姉ちゃん失格だと思いました。
でも、孤児院の子供達を巻き込むわけにはいきません。
だから私は我慢しようと思いました。
ふと視線を向けると、ラヴィーナちゃんも眉根を上げて河童頭のおじさんをジッと見て、我慢していました。
きっとラヴィーナちゃんも私と同じ気持ちなんだと思います。
だけど、モーナちゃんは私やラヴィーナちゃんとは違っていました。
モーナちゃんはわなわなと震えて、「もう一回って見ろハゲ頭」と河童頭のおじさんを睨みつけます。
そして、河童頭のおじさんがモーナちゃんに振り向いて怪訝そうに顔を顰めます。
「何だ貴様は? 失礼なガキだな。まったく……身の程を知れ。ここで貴様を始末しても良いが、問題は無いと思うが、この後出番のある娘に影響を与えてしまうかもしれないので今回は見逃してやる。寛大な心を持つ私に感謝すると良い。貴様はあの醜い歌と踊りを披露した下民のうさぎの獣人のゴミの仲間だろう? さっさとあの汚らわしいゴミを連れて帰るんだな」
モーナちゃんはわなわなと体を震わせます。
気持ちは痛いほどわかります。
愛那ちゃんをここまで侮辱されて、私だって我慢出来ないくらいに怒ってます。
でも、それでも我慢できているのは、ラヴィーナちゃんが打ち出の小槌を取り出して河童頭のおじさんに何かしようとしてくれたからです。
ここで感情に任せて河童頭のおじさんに何かをしてしまったら、きっと後で後悔します。
だから私はそれを見て見逃さず、ラヴィーナちゃんを後ろから抱きしめました。
ラヴィーナちゃんはそれで止まってくれて、持っていた打ち出の小槌を引っ込めてくれました。
でも、私に出来るのはそれだけです。
「ぶっ殺してやるわ!」
モーナちゃんがブチ切れて、河童頭のおじさんに飛びかかってしまいました。




