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137 生存報告

 ドワーフの国から連れて来た子供達の受け入れ条件として出された内容は、明日開かれる祭り【踊歌祭ようかさい】の歌と踊りで競い合うお披露目会で、1位を取って景品の金銀財宝を手に入れる事。

 そのお金を孤児院の経費……と言うより、子供達の生活費に割り当てるのだから、当然と言えば当然。

 わたしは覚悟を決めて、お披露目会に参加する事を決めた。


「かっかっかっ。流石はマナちゃん話が分かる。っつっても、参加するのは既に決定事項だけどな」


 リングイさんがニヤリと笑んで、フナさんが追加でれた紅茶を飲んだ。

 そしてその横ではフナさんが肩を落として、リングイさんに軽蔑的な視線を向けている。


「ごめんね、マナちゃん。本当に良いの?」


「はい。大丈夫です。やるだけやってみます。……あ、でも、アタリーに一緒に祭りを見て回れないって伝えないとか」


「ああ、うん。そうだよねえ。それは私が伝えとくよ」


「お願いします」


「あれ? もしかして予定あったのか?」


「そうだよ。リン姉のせいで最悪。せっかくシェルポートで仲良くなった子とお祭りを楽しもうとしてたのに」


「そりゃ悪い事したな」


「そう思うなら今直ぐ参加を取り消せば?」


「それは駄目だ」


「リン姉っ」


 フナさんがリングイさんを睨んで威圧して、リングイさんは両手を前に出して苦笑しながら一歩下がる。

 と、そこで、わたしの視界にとある物が映った。

 偶然だった。

 リングイさんが一歩下がった事で、壁に立てかけられていたそれが視界に入ったのだ。


「――嘘?」


「どうしました?」


 思わず声を漏らしたわたしに気が付いて、お姉が不思議そうに首を傾げる。

 わたしは目に映ったそれに近づいて手に持った。


「カリブルヌスの剣? どうしてここに?」


 そう。

 わたしの目に映ったそれとは、あの時、レオさんに貸してそのまま無くしてしまったカリブルヌスの剣だったのだ。

 カリブルヌスの剣は大切に鞘に納められていた。

 まさかここにカリブルヌスの剣があるなんて思わず、わたしは驚いた表情のままお姉に視線を向けた。

 すると、お姉はわたしに近づき微笑む。


「後でゆっくり説明するつもりだったんです。その剣はレオさんから返して貰いました」


「レオさんに会ったの?」


「はい。とっても良い人でした。実は、愛那ちゃんが心配だからと言って、捜しに行ってくれてるんですよ」


「そうだったんだ……」


 良かった。

 レオさんも生きてたんだ。


「あ、でも、捜しに行くって何処に?」


「ハーフの方達が住んでいる集落があるらしいので、まずはそこに向かうと言ってました」


「へ? レオさんすご。わたしとラヴィはそのハーフの人達の住むハグレの村から来たんだよ」


「そうなんですか?」


「うん。それでそこの――」


 村の村長のリネントさんにシェルポートタウンまで連れて来てもらったんだ、と言いかけてやめる。

 何故なら、リングイさんには言わないでほしいと、リネントさんから口止めされているのを思い出したから。

 直ぐそこ目の前にリングイさんがいるこの状況で、リネントさんの話題を出すわけにはいかなかった。


「そこの?」


 話を途中でやめたものだから、お姉が首を傾げて疑問を口にした。

 それに対して、どうしようかと考えると、ラヴィがわたしの隣に立って代わりに答える。


「そこの村でメソメの父親を見つけた」


「そう言う事なんですね。本当に良かったです」


「……うん。それよりさ、お姉。明日のお披露目の準備したいんだけど、何すれば良いの?」


 ハーフの……混血の人々が暮らす村で父親を見つけた事を疑問に思わないお姉に少し引っかかりを覚えたけど、これ以上話を続けたらボロが出そうで正直怖い。

 と言うわけで、お姉が納得してくれたところで、ここぞとばかりに話題を変える。

 すると、お姉ではなくリングイさんが身を乗り出してきた。


「いいね! やる気があるのは良い事だ。明日に向けて特訓するぜ」


「特訓……ですか?」


 特訓はいいけど、たかが1日で意味があるのか疑問が浮かぶ。

 だけど、ここで否定して特訓の話が無しになり、話を戻されても嫌なのでわたしはこの方向で話を進める事にした。


「でしたら、まずは何を歌うか決めてからですね」


「そうだな。何歌うか決めないと特訓が――」


「はい! はーい!」


 突然お姉がリングイさんの言葉を遮る様に元気に手を上げる。


「お姉?」


「お、どうしたナミキ?」


 リングイさんがお姉に指をさして指名すると、お姉は更に元気よく「はい!」と返事して、胸を弾ませ揺らした。


「特訓も大事ですけど、衣装の方がもっと大事だと思います!」


「いや、そんなのどうでも良いよ」


「確かに大事だな」


「へ? リングイさん?」


「大事」


「盲点だったわね」


「ラヴィ? フナさん?」


「悩殺だな」


「……」


 お姉、リングイさん、ラヴィ、フナさん、そしてモーナの悩殺発言の流れ。

 最早わたしは何も言えない。

 と言うか、呆れ果てて言葉を失った。

 いったいこの人達はなにを考えているんだろう?

 正気なの?

 って感じだ。


 いやまあ確かに衣装も大事だろうけど、特訓はともかくとして、それより何をするか決める方が大事だと思う。

 しかし、この5人はそうは考えない。

 今直ぐ準備に取り掛かろうとなって、お金はモーナから受け取り、わたしとお姉とラヴィとフナさんの4人で都に行って衣装を仕入れる事になってしまった。

 何故この4人で行く事になったのかと言うと、わたしは本人だからで、お姉とラヴィは単純に付き添いと言うか希望してでフナさんは道案内。

 モーナはリリィさんと話があるそうで残り、リングイさんは晩御飯の準備だ。

 尚、猫になったダンゴムシは子供達に人気で忙しそうだった。


「とくに行きつけのお店があるってわけじゃないし、適当に見て回ろうか」


「わかりました! 行きましょう!」


「可愛いの見つける」


 3人がはりきる中、わたし1人困惑したまま都への移動が開始される。

 ただ、困惑してばかりもいられないので、わたしはとりあえず気分を変える為に話題を探し言葉にする。


「そう言えばお姉、お姉は船旅の途中で毒海どくうみに遭遇しなかったの?」


 毒海、それは、わたしとラヴィの船旅で悲劇を生んだ元凶。

 レブルが原因と噂される毒が侵食する恐怖の海域。

 これのせいで初めて人が死ぬ姿を見てしまった。

 今思いだすだけでも不快で……でも、やっぱりわたしは恐怖しても、思っていたより平気だった。

 多分、多分だけど、本当だったらわたし位の歳の子供なら恐怖で震えて動けなくなるだろう。

 あんな風には動けないし、トラウマになったっておかしくない。

 なのに、わたしにはそれがない。

 だからきっとこんな風に話題にも出せる。

 シェルポートタウンで発生した毒海の時のフナさんを見れば、自分が如何に異常か分かる。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。

 考えていたらキリがないし、わたしはそんな冷たい自分が嫌になりそうだから。


「毒海ですか? はい。お話は聞いた事ありますけど滅多に出ないようですし、私はしてません」


「あー、やっぱりそうだよねえ」


 わたしの返事を聞いてお姉が首を傾げると、フナさんが苦笑する。


「この子達、毒海に2回も遭遇してるのよ」


「に、2回!? 本当ですか!?」


「そう、1つはフナもいた」


「あわわわわわわわわわわわ!!」


「お姉慌てすぎ。こうして無事会えたって事は問題無かったって事だから」


「だ、だって2回ですよ!? 1回はレオさんに聞いたので知ってましたけど、まさか2回だなんて!」


「運が悪かった」


「運が悪いってお話じゃないですよラヴィーナちゃん!」


「いや、運が悪いとしか言えないじゃん」


 わたしもラヴィと同意見なのでそう言うと、フナさんが苦笑する。


「ナミキさんが驚くのも無理ないけどね~。毒海なんて、一生に1回遭遇するかどうかだし。それにマナちゃん達が最初に遭遇した毒海って、大量のモンスターに襲われたんでしょ?」


「はい。数えきれない程の……。シェルポートタウンの時と一緒ですね」


「へぅっっ!?」


 お姉が驚いて歩みを止めて立ち止まる。

 それに合わせてわたし達も一旦止まってお姉を見た。


「おかしいです! 普通そんなに出ないって聞きました!」


「ああ、そう言えばそうだね。わたしもせいぜい十匹くらいって聞いたな」


 言われてみればと思いだす。

 そう考えると、2回ともあの数はおかしい話だった。

 ただでさえ滅多に遭遇しないのに、モンスターの数も尋常では無いなんて、お姉が驚くのも無理ないかもしれない。

 とは言え、現実に起こった事には変わりない。


「シェルポートタウンには騎士や冒険者が沢山いたから良かったけど、普通は毒海に遭遇したら生き残る方が珍しいからね。マナちゃんとラヴィーナちゃんってよっぽど悪運が強いんだと思う」


「悪運……」


 あまり嬉しくない感想。

 悪運より幸運をくれと言いたくなる。


「こうしてまた会えたから良かったですけど、そんな事なら、レオさんにお話を聞いた時に私も愛那ちゃんとラヴィーナちゃんを捜しに行けば良かったです」


「いや、そしたら会えないじゃん」


「へぅ。そうでした」


 お姉が肩を落としてトボトボと歩き出し、わたし達もそれを見て歩きを再開した。


「それにしても、レオさんかあ。無事で良かった」


「はい、レオさんもチュウベエさんも元気です。ハーフさん達の集落で愛那ちゃんの事を知れば、きっと戻ってきます」


「そっか…………は? チュウベエ?」


「はい? チュウベエさんです。言いませんでしたっけ? レオさんと一緒に会いました」


「言ってない。って言うか、そうか。生きてたんだ」


 まさかのチュウベエの生存報告。

 そしてわたしはそれを聞き、密かに思い、胸の奥にしまった。


 チュウベエの存在忘れてた。


 と。

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