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013 打ち出の小槌

「マナ、本当にこんな所に打ち出の小槌があるのか?」


「多分……あると思う。この滝って落激の打水と呼ばれてるでしょ? それに、モーナが言ってたじゃない。打ち出の小槌は亥鯉の川の上流にあるって」


「わかったわ。つまり私が天才だったって事だな!」


「……うん。それで良いよ」


 モーナの馬鹿な発言に、わたしは考えるのがめんどくさいので適当に答えると、モーナはご機嫌になって川の中に潜って行った。


 お姉を助けたわたし達は現在亥鯉の川の上流にある滝の、落激の打水まで戻って来ていた。

 と言っても、今は競争をしていないので、わたしとお姉とラヴィは川のほとりに立っている。

 そして、ここに来た理由は『打ち出の小槌』だ。

 モーナと話していた通り、私はここに打ち出の小槌があると考えている。

 これは、モーナの親父ギャグから発想を得て出た考えだ。

 落激の打水から出た小槌。

 だから打ち出の小槌なのではないかと、馬鹿みたいな事を真剣に考えてみた結果だった。


「見つかると良いですね」


「うん」


 わたしはお姉に背後から抱き付かれて、お姉の胸の重みを感じながら、ラヴィと手を繋いでモーナを待つ。


 重い……。


 モーナは息継ぎを長い間しなくても大丈夫な様で、全然川から顔を出さなかった。

 わたしは、このまま待つとお姉の胸の重みで疲れてしまいそうなので、適当に草の上に座る事にした。


 待っている間は暇だし、本でも読んでようかな。


 そう考えたわたしは、ランドセルから本を取り出して読み始める。

 この本は、この世界の国について書かれている本だ。

 わたしはこの世界で生活するうえで、それぞれの国の風習と言うか、ルールと言うかが気になったのだ。

 郷に入っては郷に従えとも言うし、その国その国の決まりなどを知っておいて損はない。


 わたしは座りながら本を読み始める。

 ラヴィがわたしの左横に座りながら腕に抱き付いて、わたしが読んでいる本に顔を覗かせた。

 お姉もわたしの右横に座って、川の方をじっと見つめる。


 暫らくの間モーナを待っていると、モーナが川から顔を出した。


「それっぽいのがあったわ!」


 わたしは本のページを捲るのを止めて、モーナに視線を移して呟く。


「何よ、それっぽいって」


 モーナは勢いよく川の中からジャンプして、私の目の前に飛んできた。

 それから、モーナは身を震わせて全身についた水を飛ばして、そのせいでわたしは少しだけ濡れた。


 冷たい……。


「マナ~。多分これが打ち出の小槌だ!」


 モーナが笑顔で、わたしの目の前に打ち出の小槌を出して見せる。


「ホントにあったんだ……」


 ここにあるかもしれないと、わたしから言っておいてなんだけど、本当にあった事に驚いてわたしは打ち出の小槌を見る。

 打ち出の小槌は綺麗な装飾がされていて、可愛いデザインだった。


「可愛いですね~。触ってみても良いですか?」


「いいわよ!」


 お姉がモーナから小槌を受け取って、目をキラキラと輝かせながら観賞する。


「可愛い」


 ラヴィもお姉の側に寄って、小槌をお姉と一緒に見た。


「モーナ、座って」


 わたしはランドセルからタオルを取り出して、モーナを座らせて頭をごしごしと拭き始めて、わたしはモーナに話しかける。


「思ったより簡単に手に入ったね。後は氷雪ひょうせつの花だっけ?」


「そうね! 次は寒いとこだ」


「寒い所か。まあ、氷雪って言うだけあって、そうなるとは思ってた。でも、三つの宝の内、二つがこれだけ拍子抜けするほど簡単に手に入ったし、この分なら直ぐに手に入りそうだね」


 わたしが楽観視して話すと、モーナは尻尾をだらんと下げて、眉根を下げた。


「どうしたの?」


「私は寒い所が苦手だ……」


 ああ。猫だもんね。

 猫って、おこたで丸くなるイメージ。


 尻尾をだらんと下げて眉根を下げるモーナを連れて、わたし達は次のお宝の氷雪の花を手に入れる為に歩き出す。


 次に目指す氷雪の花は、『アイスマウンテン』と呼ばれる雪山に生えている花のようだ。

 モーナが川の中を潜って打ち出の小槌を探していた時に、待っている間読んだ本にも書いてあった事なのだけど、その雪山には雪男や雪女が住んでいるらしい。


 雪女と言えば、ラヴィも雪女だ。

 ラヴィの家はアイスマウンテンにあるのかもしれないと、わたしが思った時だ。

 急にラヴィがわたしの手を握って、力を込めた。

 わたしは驚いてラヴィの顔を見ると、相変わらずの虚ろ目の表情をしていて、何となく悲しそうにしていたので、わたしはラヴィの手をギュッと握ってあげた。


 それから暫らくアイスマウンテンに向けて歩いていると、お姉が受け取ってからそのまま持っていた打ち出の小槌を、モーナに返しながら訊ねる。


「モーナちゃん。打ち出の小槌を使って見せてもらっても良いですか?」


「良いわよ!」


 モーナが答えるとお姉が目を輝かせる。


「ありがとうございます~!」


 お姉がお礼を言うと、モーナはお姉に笑顔を向けてから、周囲をキョロキョロと見回した。

 モーナは立ち止まってから、首を傾げて考える素振りを見せた後、何かを思いついた表情を見せてわたしと目を合わせる。


「マナマナ。ぺアップルを貸しなさい!」


「ん? あ~。良いよ」


 わたしはお姉から貰った果物ぺアップルをモーナに差し出すと、モーナはそれを地面に置いた。

 そして、魔力を打ち出の小槌に集中して、ぺアップルを打ち出の小槌で軽く叩く。


 ぺアップルは打ち出の小槌で叩かれると、リンゴ位の大きさから一瞬でスイカ位の大きさになった。


 おー。凄い。

 本当に大きくなった。


「凄いです! 感動しました!」


 お姉が大袈裟だと思える位に目を輝かせて喜ぶと、モーナが得意気に胸を張る。


「モーナ、これって小さくも出来るんだよね?」


「そうだ! やってみるか?」


「うん。お願いしたい物があるんだよね」


 わたしは返事をして、ランドセルから本を取り出した。


「これを小さくしてほしいんだよ。持ち歩くには重いし、小さくなれば収納も楽だから」


「良いわよ!」


「ありがとう」


 わたしはお礼を言って、モーナに本を差し出した。

 本当は、モーナに貰ったカリブルヌスの剣も小さくして貰いたいのだけど、もし何かあったら直ぐに対応できなくなるし困るのでやめておいた。


 そうして、モーナがわたしが渡した本を打ち出の小槌で小さくしてくれたおかげで、わたしの荷物は少し軽くなった。

 わたしはもう一度お礼を言ってモーナから本を受け取り、アイスマウンテンへ向けて再び歩き出す。

 とも思ったんだけど、ラヴィがお腹が空いたと言いだしたので、大きくなったぺアップルもあるしご飯休憩する事になった。


「凄いですね。大きくなっても、ぺアップル美味しいです。打ち出の小槌があれば、食べ放題ですね」


 お姉がぺアップルを頬張りながら幸せそうに話すと、それを聞いたモーナが首を横に振った。


「打ち出の小槌を使うのには大量の魔力の消費が必要だから、常人だと一回使っただけで魔力を全部持ってかれるわ」


「え? そうなの?」


「どの位の魔力を取られちゃうんですか?」


「そうだな~……。これ位だ!」


 モーナが両手を大きく広げて楽しそうに笑う。

 正直全然わからないけど、凄く魔力を取られてしまうという事は理解した。

 だけど、流石は馬鹿なお姉だ。


「私が使ってみても良いですか?」


「良いわよ!」


 お姉はモーナから打ち出の小槌を受け取って、自分が食べている切られたぺアップルに狙いを定める。

 そして、打ち出の小槌に魔力を集中して、ぺアップルを叩いた。


「――っ!」


 瞬間、切られたぺアップルがちょっとだけ大きくなり、お姉がその場に倒れる。


「お姉っ!?」


 わたしは慌てて倒れたお姉に駆け寄る。

 すると、お姉は目を回しながら呟いた。


「魔力を全部持っていかれちゃいました~」


 はあ……。

 良かった。


 わたしはお姉に意識があり無事なのを確認すると、ホッと胸を撫で下ろして、モーナとラヴィに視線を向けた。


「お姉が動ける様になるまで、もう少しの間休もうか」


「わかったわ!」


「うん」


 それにしてもと、私は思う。


 モーナの時と違って、お姉が打ち出の小槌を使った時は魔力を全部使い果たしたのに、モーナの時程の効果が得られなかった。

 正直な所、この打ち出の小槌はかなり燃費が悪いマジックアイテムなんだなと思った。

 そう考えると、ぺアップルとわたしが渡した本二冊に打ち出の小槌を使ったモーナは、かなり凄いんじゃないかと思う。

 ちなみに、わたしはお姉と同じ位の魔力しか持ってないので、絶対に打ち出の小槌を使わないと心に決めた。



 結局お姉の魔力は中々回復出来ず、わたし達はこの日、ここでテントを張って野宿をする事になった。

 そして、それがきっかけで、めんどくさい事になってしまう。


 テントの中で四人仲良く川の字で眠っていたのだけど、わたしは中々寝付く事が出来なくて、気分転換にテントの外に出た。


「わぁ……」


 外に出ると、夜空には満面の星空が綺麗に輝いていて、わたしは感動して声を上げた。

 夜空を遮る木も何も無い所で、こんな風に夜空を眺めるのは初めてだったので、余計に感動したのかもしれない。


 わたしが綺麗だと思いながら暫らくの間眺めていると、不意に背後から誰かに話しかけられる。


「見つけたぞ」


「――っ!?」


 その声は大人の男の人の声で、わたしは驚いて体をビクリと震わせて振り返る。

 すると、そこに立っていたのは、最早忘れてしまった存在。


「モーナちゃんは何処だ? 俺は彼女に会いに来たんだ」


 そこに立っていたのは、モーナをストーカーしていた木こりの男、スタンプ=ウドマンだった。

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