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130 船代は意外と高い

 シェルポートタウン。

 小さな貝の魚人達が暮らす人口およそ100万人の港町。

 そこはジオラマの世界、もしくはお人形ハウスの世界にやって来たような感覚を覚える場所。

 見下げれば、子供のわたしよりもずっと小さな小人たちが所狭しと道を歩いている。

 観光客や行商人、それに冒険者、色んな人ももちろんいる。

 小人たちは汗を流して、外から来る客人達を忙しそうにもてなしていた。


「可愛い」


 お気に入りのうさ耳カチューシャを頭につけたラヴィは、そう言って虚ろな目を輝かす。


「そうだね。リネントさん達と別れちゃったし、予定を変更して今日は観光して行こうか? 出発は明日でも良いしね」


「任せる」


「じゃあ、とりあえず今日はここで泊まっていくとして、先に船を見に行こっか」


「わかった」


 ステチリングで時間を見ると、時刻はお昼の3時過ぎ。

 まだまだ明るい時間帯ではあるけれど、ずっと歩き続けてたから休めるなら休みたい気分はあった。

 だから、観光がてら今日はここで宿をとってゆっくり休む事にした。

 でも、船の都合で直ぐ乗る事になるかもしれないので、まずは船を見に行く。


 乗船場は他種族なども利用出来るようになっていて、それなりに大きく広いスペースが使われていた。

 出入口の直ぐ近くに掲示板があり、これから出る船の予定がそこに書かれていたので、目的地の水の都フルート行きの船の情報を探す。


「あ、あった。えーっと何々? 出発時刻は……明後日の13時? うわあ。って事は、ここで2泊かあ。だったら結局今日は船に乗れないね」


「私は構わない。ここ好き」


「うん、そうだね。貝の魚人って小さくて可愛いもんね。よしっ、それじゃあ宿を探そっか。って、その前に明後日の船のチケット買って来るから待ってて」


「わかった」


 やはり先に船の予定を見に来て正解だった。

 先に宿をとっていたら、宿に戻ってから宿泊日数の変更をしなくちゃいけないし、問題はないだろうけど面倒だ。

 わたしはそんな事を考えながら、ラヴィとダンゴムシを待たせてチケット売り場に向かう。


「明後日の水の都行きの乗船券を子供2人と……ペット一匹分で下さい」


 ダンゴムシは果たしてペットの部類に入るのだろうか?

 なんて事を疑問に思いながらも、受付の小人のお姉さんに話しかけた。

 受付の小人のお姉さんは、何かの資料の様な本をペラペラとめくって、二度程頷いてからこっちを見た。


「はいはい。水の都行きで子供2枚とペットねー。ペットは種類によって金額変わるけど、なんの種類?」


「ダンゴム……オリハルコンダンゴムシです」


「オリハルコンダンゴムシ……? ちょっと待っててね」


「はい」


 小人のお姉さんが再び本を凝視ぎょうしして、何か考える様にあごに手を当ててから頷いて、本を閉じてわたしと目を合わせた。


「子供用の乗船券は1枚で銅貨30枚だから、乗船券2枚で60枚ね。オリハルコンダンゴムシは希少種になるから高くなっちゃうわね。大きさ次第だけど、少なくとも銀貨5枚は必要よ」


「へ? 銀貨5枚!?」


 まさかの金額に驚いて、わたしは財布の中を確認する。

 ハグレの村を出る時に、メソメの父親からお礼だと言って渡され受け取ったお金が銀貨5枚。

 そして、元々持っていたお金と、この港町に来るまでに消費した分を引いて、今手元にあるのは銀貨4枚と銅貨27枚だった。

 全然足りない。


「あの……ちなみに、200センチ越えのオリハルコンダンゴムシってお幾らですか?」


 念の為、どの位の値段がかかるのか確認しようと考えて聞いてみた。

 明後日までにお金を用意できたとして、銀貨5枚では足りませんでしたなんて事になってしまったら悲惨だからだ。

 だけど、思った以上に悲惨かもしれない。

 わたしが尋ねると、小人のお姉さんは「200!?」と驚いて、何かが書かれた紙を取り出して凝視しした。

 そして、気まずそうにわたしに視線を戻して、申し訳なさそうに答える。


「それだと、金貨1枚必要ね」


「金貨1枚!?」


 金貨1枚……それは、日本円にすると100万円。

 まさかの大金に驚いて声をあげると、周囲に視線がわたしに集まった。


「ごめんね、お嬢ちゃん。どうする?」


「……出直します」


 まさか、ダンゴムシを連れて船に乗るだけで金貨が必要になってしまうとは。

 こんな時にモーナがいてくれれば、何も気にせずに乗れたのになんて事も思ってしまう。

 今更だけど、モーナと旅をしていた時にお金で困る事が一度も無かった。

 本当は今までもこんな風に、結構なお金を支払っていたのかもしれない。


 ラヴィとダンゴムシを待たせている場所に向かう。

 足取りは重く、自然と視線も下になり、今後の事を考える。

 ダンゴムシを置いて行くと言う選択も考えたけど、きっとラヴィが悲しんでしまう。


「とにかく、ラヴィと相談しないとか」


 ラヴィの許へと戻ると、ラヴィとダンゴムシの他にもう1人、見知った顔がそこに一つ。

 わたしは驚いて駆け出して、2人と一匹に近づいた。


「フナさん!」


「あ、マナちゃん来た。久しぶり」


 そう。

 見知った顔とは、リングイさんの孤児院で暮らすフナさんの事だ。

 フナさんはふなの魚人で、スキルは【迷宮攻略マップクリア】。

 お姉と同い歳で、魚人だけどパッと見は人、ヒューマンに見える。

 一度見せてもらった事があるけど、背中には背びれ、足には水かきがそれぞれついていた。

 ちなみに水中では、口の中にある水中用の呼吸器官があるので、それで呼吸が出来るらしい。


 フナさんはわたしが近づくと笑顔を浮かべて、小さく手を振ってわたしを迎えた。


「ラヴィーナちゃんから聞いたよ。お姉さん達とはぐれちゃったんだってね」


「はい。お姉は今頃リングイさんの孤児院についてると思うんですけど……」


「そうなの? 最近帰ってないからなあ」


「帰ってない?」


「うん。リン姉じゃなくて私がね。トラブルがあってさ」


「フナはここに避難しに来た」


「へ? トラブル? 避難?」


「そうなのよ。この近くの海で“レブル”が出たらしくて、たまたまその時に乗ってた船がこの港町に逃げて来たんだよ」


「レブルってそんなに危険な人物なんですか?」


「そりゃねえ。国家反逆集団のトップだもん。出会ったら殺されるよ。そうじゃなきゃ船が針路を変更してこの港町に来たりしないって」


「確かに……」


 ウェーブは英雄だと言っていたけど、やはりレブルと言う人物は危険人物なのかもしれない。

 出会ったら殺されるってのが本当ならだけど。

 でも、少なくとも船が針路を変更してしまうくらいには危険なのは間違いなく、正直あまり関わりたくない。

 と言っても、モーナが三馬鹿の1人だからと言って捜している相手だし、その内に関わらなきゃいけないのだけど。


「とにかくレブルのせいで災難よ。必要な買い物の為とは言え、遠出が必要な場所は避けるべきだったよ」


「何かを買おうとして船に乗ったんですか?」


「そうなの」


 フナさんは頷いて、可愛い亀の形をした小さな魔石をわたしとラヴィに見せた。

 それは青く輝き小石程の大きさ。

 普通の魔石とどこか違う。


「可愛いですね」


「でしょ? 孤児院の皆で集めたお金で買ったリン姉へのプレゼントなんだ。もう直ぐでお祭りだから、その時にいつもありがとうってお礼を言って渡そうって皆で決めたんだ」


「素敵ですね。もしかして、これを買いに行った時に?」


「そうなのよ。本当困っちゃうよね。リン姉には内緒だから助けてもらうわけにもいかないし、だから今頃みんなが隠すのに大変だと思うよ」


「案外今頃フナさんを捜してるんじゃないですか? そんな危険な人に襲われたかもって話なら」


「それはない……と思う。私が乗船した船が無事だってのは都にも伝わってると思うし」


「成る程」


「それにプレゼントの事もあるから、下手に言えないから」


「あ~。まあ、そうですよね」


「フナ」


「あっ、そうそう」


 ラヴィがフナさんの名前を呼ぶと、フナさんが何かを思い出したかのような表情を見せて、わたしに笑顔を向けた。


「明後日の船に乗って水の都に向かうんだよね? それ私も乗るから、孤児院まで一緒に行こうよ」


「ああ、ええっと……実は……」


 わたしはお金が足りなくて船に乗れない事を話した。

 それを聞いて、ラヴィは眉根を下げ、フナさんは気まずそうな表情を見せた。

 だけど、フナさんは直ぐに何かを思いついたように手を叩き、笑顔で提案する。


「ならさ、私が明後日の船に乗れるように割引してって頼んであげるよ」


「へ? そんな事出来るんですか?」


「やってみないと分からないけど……。私が乗っていた船がトラブルで路線変更したでしょ? だから、明後日の船とかその間のここのホテルの宿泊費は無料だったの。だから、難癖つければいけるかも?」


「いや。それはちょっとよくないかと」


「頼もう」


「いやいや、流石によくないよ」


「マナちゃんは真面目だね。大丈夫だって。ペットにそんな金額出させる方が頭おかしいんだから」


「頭おかしいって……」


「とにかくさ、ラヴィーナちゃんも賛成みたいだし、そうしようよ」


「……分かりました。フナさんに迷惑かけたくないけど、甘える事にします」


「え? 何々? マナちゃんもしかして、私に気を使ってくれたの?」


「まあ、難癖つけさせるなんて事になったら、絶対に迷惑かける事になりますし、わたし達のせいでそんな事させたくないので。それに――」


 受付の人に迷惑もかけたくないので、と答えるつもりが、答える前にいきなりフナさんがわたしに抱き付いた。

 お姉と比べて肉付きは少なく細いけど、それでもふんわりとした柔らかな感触に身を包まれて、なんだか恥ずかしさを覚えて顔が熱くなる。

 言葉の途中を言える雰囲気でもなくなって、わたしはフナさんの突然の行動に慌ててしまう。


「ふ、フナさん?」


「マナちゃんって本当にいい子だね。前会った時はあまり話せなかったけど、私、もっとマナちゃんと仲良くなりたいな」


「私もフナと仲良くなりたい」


「もちろんラヴィーナちゃんも一緒だよ」


 うう……何だこれえ?


 ラヴィがわたしの背後から抱き付いて、フナさんがラヴィも一緒に抱きしめる。

 わたしは2人からサンドウィッチさっれて、身動きが取れなくなって、恥ずかしさを堪えるのに必死になった。

 と言うか、周囲にいる人達の視線が痛い。

 往来の真ん中……って事は無いけど、乗船目的などで来た人達で溢れる場で、抱きしめ合ってるわたし達は目立っていた。

 近くで休憩している人や待ち合わせをしているであろう人達、それに何よりここは出入口付近だから人通りも多く注目されやすく、ただでさえオリハルコンダンゴムシが目立つので尚更周囲の視線を集めるには十分だった。


「あの……そろそろ離してほしいんですけど…………」


「マナちゃん抱き心地良いから、もう少し堪能させて」


「わかる」


「ええ…………」


 ラヴィまで……。

 って言うか、フナさんってこういう人だったの?


 まさかのフナさんの人となり。

 お姉やモーナが相手であれば無理やりにでも引き剥がすけど、相手はラヴィとフナさん。

 わたしは抗う事も出来ずに、周囲の視線を浴びながら、恥ずかしさで顔が沸騰しそうになった。

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