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127 昼食ときどき鳥のち恋バナ

「なあ、リネントさん。女の子がイチャイチャしてるのって、いいと思いません?」


「そうだな。子供が元気なのは良い事だ」


 港町に向かう途中の事だった。

 休憩がてら昼食をとっている最中にわたしとラヴィが仲良くお喋りしている姿を見て、ウェーブが変な事を言いだした。


「ちっげえよリネントさん! 全然俺の言いたい事をわかってないですよ!」


「違うのか?」


「そりゃ違うでしょ! 俺が言ってるのは子供じゃなくて女の子!」


「……違いが分からん」


「え? 何? リネントさん男の子もいけちゃうタイプ?」


「いけちゃう?」


「リネントさん、その馬鹿の言う事は真面目に聞かなくて良いですよ」


 2人の不毛な言葉のキャッチボールに呆れて口を出すと、ウェーブが不満気な顔をわたしに向けた。


「マナちゃんさ、いい加減俺も年上扱いしてくんない? 子供らしくいこうぜ。そんなんじゃ可愛くないよお?」


「可愛くなくて結構です」


愛那まなは可愛い。ウェーブの目は節穴」


 ラヴィが口をへの字にして、虚ろ目をウェーブに向けて睨み見る。

 わたしはと言うと、ラヴィに可愛いと言われてちょっと照れてしまった。

 ラヴィはよくわたしの事を褒めてくれるけど、お姉以外の人から褒められる機会があまりないので、実は未だに慣れない。

 だからわたしはそれを隠すように、目を逸らしてリネントさんに誤魔化しの抗議をする。


「リネントさんも何か言ってやってくださいよ」


「俺がか? そうだな。確かにマナは可愛い」


「うっ。そう言う事じゃなくて……」


 まさかのリネントさんからの言葉に顔が熱くなる。

 期待してたのはウェーブへのおとがめだっただけに、恥ずかしさも倍増した。


「リネントは分かってる。分かってないのはウェーブだけ」


「そうだな。もちろんラヴィーナも可愛いぞ」


「ん、ありがとう」


「ちくしょう、俺の周りには敵しかいないのかあああ!」


 ウェーブがいじけて何処かに向かって走り去る。

 今いる地域は凶暴な獣が多いらしいから危ないけど、まあ、放っておいて問題無いだろう。

 それよりもリネントさんにまで可愛いと言われて、顔が火照って仕方が無い。

 リネントさんみたいなしっかりとした大人の男性にそんな風に言われるなんて、わたしにはまだ早いのだ。

 それに比べてラヴィは可愛いと言われた事に気にした様子も無くて、自分では無くわたしが可愛いと言われた事に満足している。

 やっぱり本当に可愛い子は、可愛いと言われ慣れているだけはあるのかもしれないなと、わたしはお茶を飲んで心を落ち着かせながら思った。


「ウェーブが騒がしくしてすまないな」


「いえ。いつもの事ですし、もう慣れました」


「そう言ってもらえると助かる。彼は彼なりに場を和ませようと必死なんだ。どうかその想いだけは汲み取ってやってほしい」


「それはどうなんでしょう……」


「ウェーブは馬鹿なだけ」


「ははは。ラヴィーナは相変わらず手厳しいな」


 リネントさんは苦笑して、空になったわたしのコップにお茶をぎ足した。

 なんと言うか、本当にリネントさんは気が利く。

 おかげでラヴィも懐いているし、ダンゴムシすらも懐いていた。


 わたしはリネントさんにお礼を言って、会話をしている間に少し冷めてしまった目の前にある焼き鳥をパクリと口に含んだ。

 塩加減がちょうどよく、少し冷めていてもとても美味しい。

 ちなみにこれはウェーブが作った。

 この旅にウェーブがついて来た理由、それは、ウェーブが料理を担当するからだった。

 本人は獣や魔従まじゅうに襲われた時が本領発揮とか言っているけど、実際にはそんな強くなかった。

 それどころか足手纏いまである始末。

 だけど、料理の腕は一流だった。

 ステチリングで不味いと表示されたゲテモノすらも美味しく料理するその姿は、いつもの馬鹿騒ぎの姿とは打って変わって別人の様で正直少しかっこいい。

 その料理の腕を見込んで、思わず調理方法を教えてもらうくらいには本当に凄い。

 まあ、普段の馬鹿騒ぎが強すぎてプラマイでマイナスなんだけど。


「ぎゃああああああああ!! 助けてええええ!」


「――っ!?」


 焼き鳥を咀嚼そしゃくしていると、突然ウェーブの叫び声が聞こえてきた。

 わたしとラヴィは驚いて、リネントさんは剣を取り出して構える。

 叫び声のした方角に視線を向けると、ウェーブが鳥の大群から逃げる様にこっちに向かって猛ダッシュをしていた。

 鳥の数は十……いや、二十羽以上。

 しかもその鳥、ただの鳥じゃない。

 燃え盛る炎の様に、全身を包む赤色と黄色の羽毛が揺らめいている。

 わたしはその鳥を知っている。

 イラスト付きの本で見た事がある。


火渡鳥ひわたりどり!?」


 火渡鳥はわたしの世界で言うただの渡り鳥、と言うわけではなく、活火山を生息地として生きる鳥だ。

 群れで行動し、外敵からメスとヒナを守る為に、オスが全身を燃やして突進してくる。

 活火山で生きる鳥だけあって、火属性の魔法は効き辛く、食材として扱うのもあまりお勧めされていない。

 それに味も美味と言うわけではなく、それなりにと言った感じで、わざわざ危険をおかして活火山に近づいてまで狩りをする人がいない鳥だ。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。


 わたしがその火渡鳥の名前を叫んだと同時に、ラヴィが打ち出の小槌こづちを取り出して構え、リネントさんが走り出す。

 ウェーブとリネントさんがすれ違い、それを合図にするかの様に、リネントさんが地面を蹴り上げて空高く舞う。

 火渡鳥が狙いを変えて、自分達の目の前に空高く舞い現れたリネントさんに向かって勢いよくくちばしを突き出した。


「許せ」


 リネントさんが呟き、次の瞬間、大量の火渡鳥が真っ二つに斬り裂かれる。

 二十羽以上いた火渡鳥は、一瞬にして残すところ三羽となり、生き残った火渡鳥は一斉に逃げ出した。


「流石はリネントさん。わたしとラヴィの出る幕がないね」


「ない」


 わたしとラヴィは構えていたそれぞれの武器を収める。

 すると、目の前まで走って来て、息を切らせて死にそうな顔をしたウェーブがわたしの肩を掴む。


「み、水……」


「はいはい」


 仕方が無いので水筒から水をコップに注いで与えると、ウェーブはそれを受け取って一気に飲み干した。

 そして、口元を袖で拭って大きく息を吐き出す。


「ふい~。危ないとこだったぜえ。俺が村一番の足の速さを持っていなかったらどうなってた事か」


「どうでもいいけど、なんで火渡鳥なんかに追いかけられてたの?」


「あれ? 気になっちゃう? どうしよっかなあ。教えちゃおっかなあ」


 思わず苛立ち、顔を殴ってやろうかと考えるけどやめておく。

 と、そこへリネントさんがやって来た。


「ウェーブ、怪我はないか?」


「おかげ様で無事です。ありがとうございました。この恩は今日の晩飯で返します!」


「ああ、期待しておこう」


「リネントさん、あまり甘やかさないで下さい。益々調子にのります」


「甘やかしているつもりはないのだが……」


「ちょっとさあ、マナちゃん。余計な事言わないでくれる? 俺とリネントさんはマブダチなんだぜ? 男と男の熱い友情なわけ。女の子のマナちゃんには分かんないだろうけど、男同士の友情ってのは……」


 めんどいな。


 と言うわけで、何やら熱く語り出したウェーブを無視して、わたしは食器の後片付けを始める。

 ラヴィもウェーブの馬鹿な話を聞く気が全くない様で、食器の片付けを手伝ってくれた。


「おお! ロポ虫! お前は中々見所があるなあ!」


 ダンゴムシと打ち解けてる……。


 食器の片付けを終える頃。

 ウェーブの話を聞いてあげていたリネントさんに、そろそろ出発しようと言いに行くと、何故かウェーブとダンゴムシが仲良さそうにしていた。

 あんなわけのわからない馬鹿なウェーブと打ち解けるなんて、あのダンゴムシは意外と中々コミュ力が高いのかもしれない。

 わたしが1人と一匹に呆れていると、リネントさんがわたし達に気が付いて微笑んだ。


「いつもありがとう」


「いえ。とんでもないです。道案内だけじゃなくて、護衛と食事を任せちゃってるんで、このくらいは当然です」


「ふっ、そうか。マナはしっかりした子だな。若い頃のあいつにそっくりだ」


「へ? あいつ?」


「ん、ああ、すまない。なんでもないんだ」


 わたしが首を傾げて聞き返すと、リネントさんは苦笑して答えた。

 すると、ウェーブがリネントさんの肩に手を回してニヤリと笑う。


「あいつってのはリネントさんの元彼女だよ、マナちゃん」


「え!? 元カノですか?」


「おい、ウェーブ。その話は……」


「良いじゃないですか! 恋バナは女の子のバイブルですよ、リネントさん」


 バイブルかどうかはともかくとして、正直リネントさんの元カノには興味がある。

 わたしは身を乗り出して、自分では分からないけど恐らく輝いているであろう目をリネントさんに向けた。

 そして、興味を持ったのはラヴィも同じで、わたしの横で真剣は虚ろ目をリネントさんに向けている。


「困ったな……」


「それなら、ここは紳士かつジェントルマンな俺がお話して進ぜよう」


 ウェーブはドヤ顔でそう言うと、リネントさんの肩に回した手で、そのままリネントさんを地面に座らせる。

 それからリネントさんの頭に膝を置き、めちゃくちゃ偉そうな態度で話し出す。


「リネントさんの元カノは凄い人でさ。俺達の憧れなんだ。今俺達が住んでる村の殆どの奴等が、昔彼女に世話をして貰った事がある。言わば恩人さ」


「へえ。何て名前の人なんですか?」


「名前は…………鬼婆?」


「は?」


 ウェーブの口から出たリネントさんの元カノの名前が鬼婆。

 どう考えても違うと分かるその名前に、わたしだけじゃなくラヴィも一緒に呆れた。

 ウェーブ自身も気まずそうに冷や汗を流して、わたしとラヴィから視線を逸らしている。

 この男、憧れていた世話になった恩人の名前を忘れて、あろう事か鬼婆と言ったわけだ。

 最低すぎて最早何も言えない。


「はははっ。ウェーブはよく怒られていたからな」


「リネントさん、この事はどうかご内密に! 知られたらまたケツを叩かれちまう」


「流石に無いだろう。が、分かった。黙っておこう。まあ、もう会う事も無いだろうがな」


 リネントさんはそう言うと、少しだけ寂しげな表情を見せた。

 そして、わたしとラヴィを交互に見てから、懐かしむように、優しい声で告げる。


「彼女の名前はリングイ=トータス。慈愛に満ちた、とても優しい女性だ」

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