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126 再会の宴と酔っぱらい

 陽が沈み、海面が満天の星を綺麗にいろどる。

 ハグレに並ぶ木造の家の煙突からは、料理の匂いを乗せて良い香りのした煙が流れていく。

 窓越しに様々な虫が見え隠れして、わたしは恐怖で血の気の引いた顔を室内に向けた。


 わたしは今、メソメの新しい家で開催中のパーティーに参加している。

 何のパーティーかなんて言うまでも無く、もちろんメソメと父親のカールさん2人の再会パーティーだ。

 主役2人にわたしとラヴィとリネントさんとウェーブと言う騒がしい男、それからわたし達を助けてくれた人達もいて、参加者は20人程。

 メソメの家は学校の教室一個分の広さがあるので、この大人数でも問題無く入る事が出来た。


 料理はわたしがカールさんに手伝って貰いながら作った。

 カールさんには「お客さんにそんな事はさせられない」と最初断られたけど、メソメとは最後のお別れになるかもしれないから、わたしがどうしてもとお願いして押し切ったのだ。

 そうして用意したのは、いつぞやの鬼ごっこ大会で景品にされていた高級魚鳥(ぎょちょう)類のシビケイを使った料理の数々だ。

 メソメの為にと奮発して市場で買って来たから是非これで、とカールさんが言ってくれたからありがたく使わせてもらった。

 シビケイの調理方法は既に知っていた。

 鬼ごっこ大会で万が一にもお姉とモーナが優勝した時の為に、フロアタム宮殿の書庫でこっそり調理方法の書かれた本を見て勉強したからだ。

 結局鬼ごっこ大会があんな事になってしまって、覚えた事が無駄になってしまったと思ったけどって、まあ、それは今は置いておくとしよう。


 シビケイのお刺身、シビケイの骨付き炙り焼き、シビケイの唐揚げ、シビケイのあら汁、の全部で4種類のシビケイ料理を用意した。

 気になる味の方は、以前読んだ本に書いてある通りのものだった。

 上半身のにわとり部分と下半身のまぐろ部分に、プリプリコリコリの食感。

 このプリプリコリコリの食感は、この鶏と鮪のちょうど中間部分の食感だった。


 シビケイのお刺身は鮪の部分で料理した。

 もっちりとした食感の赤身と、脂がちょうどよくのった中トロのお刺身。

 どちらも美味しくて、醤油に似た調味料があったので、それをつけて食べてもらっている。


 骨付き炙り焼きは鶏の部分で、骨を掴んでお手軽に食べられる様に料理した。

 肉厚でとてもジューシーで、一噛みする程に口の中で肉汁が広がってとても美味しい。

 お手製のタレと薬味を作ったので、好みに合わせてつけて食べてもらっている。


 シビケイの唐揚げは鶏と鮪の両方と、中間のプリプリコリコリの部分を使っている。

 カリッと揚げた衣に香辛料で味を付けて、そのまま美味しく食べられる様に料理した。

 鶏は炙り焼きの様にジューシー、鮪は唐揚げなのにヘルシー、プリプリコリコリの食感はぼんじりやなんこつの様に癖になる食感。


 シビケイのあら汁は余ったシビケイの肉や骨を全て使って料理した。

 一緒に入れた野菜に出汁がよくしみていてとても美味しい。


 シビケイ関係の料理はこんなラインナップだ。

 もちろん他にも材料があるので、色んな料理を用意した。


「マナは凄いな。その年でこんなにも美味い料理が作れるなんて」


 不意にリネントさんに褒められて、わたしが嬉しくて微笑むと、隣にいたラヴィが機嫌良さげに口角を上げる。


愛那まなの作るご飯は美味しい」


「ありがと」


 ラヴィと一緒に目を合わせて微笑み合う。

 すると、騒がしい男、ウェーブが来なくていいのにやって来た。

 と言うか、酒臭い。


「俺には分かっちゃうな~。よっぽど親が優秀なんですよ。ほら、獣族は10歳で成人でしょ? だから出来て当然なんですよ」


「あの、わたしは別に獣人じゃないんですけど?」


「関係無い関係ない」


「はあ……」


 本来であれば、髪の毛が黒い人間が珍しいので隠すべきだけど、わたしはそれをしていなかった。

 何と言うか、命を助けてくれた人達を騙す事に気乗りしなかったと言う単純な理由で。

 それにリネントさんはとても良い人だったので、信頼していると言うのもあった。


「あまりマナを困らせるな。飲みすぎなんじゃないか?」


「良いじゃないですか。今日は無礼講! カールさんの愛娘がカールさんの許に帰って来た日ですよ? めでたい日には沢山酒を飲み騒いで楽しむ。それが人生ってもんですよ!」


 ウェーブはリネントさんの肩に手を回して、左右に体を揺らして楽しそうに大笑いする。

 駄目な大人の例がここにあるって感じで、とにかく面倒臭い。

 関わりたくないので、ラヴィを連れて席を外そうとすると、ウェーブがわたしを後ろから抱きしめた。


「――っきゃ! ちょっ、ちょっと! 何するんですか!?」


「ぼくちんの為に毎日飯を作ってくれー!」


「はあああっ!? いっやっでっすっよっ!!」


 よく見ると、ウェーブはいつの間にか骨付きのシビケイの炙り焼きを頬張っていた。

 と言うか、拭いていないだろう手で触られてかなり不快だ。


「愛那から離れて」


 ラヴィが珍しくハッキリと分かるほど目を吊り上げてウェーブを睨む。

 すると、ウェーブが大笑いしながらラヴィまで抱きしめた。


「リネントさん見て下さい! これがモテる男のさがってやつですよ! いやあ、こんな子供にまでモテるなんて、ぼくちんは罪作りなやつですね!」


「違う」


「なんなんですかこの人!」


「……すまん」


「どうにかして下さい!」


 困り顔のリネントさんに訴えると、周りから笑い声が聞こえてきた。

 笑い声を聞いて周囲に視線を向けると、パーティーに参加している皆がわたし達を見て笑っていた。

 その笑いは人によって様々で、苦笑だったり失笑だったり爆笑だったり色々だ。

 その中には「また始まってるよ」だとか「いいぞー。もっとやれー」だとかの声も聞こえてくる。


「みんなありがとう! 今日は俺の新しい家族が作ったご馳走を存分に味わってくれ!」


「誰が新しい家族だ! いい加減離せ!」


「愛那、この男凍らせる」


「待っ……たなくていいや。お願い、ラヴィ」


「了解」


「凍らせる? 何言っ――――っぎょおおおおおおおおお!」


 ラヴィの氷の魔法がウェーブを襲う。

 ウェーブは一瞬で氷漬けになり、わたしとラヴィはようやくウェーブから解放された。

 ウェーブには申し訳ないけど、もう少し凍らせておいて、少し反省してもらおう。

 と、そこで、このパーティーに集まった人達が何人もやって来た。

 それを見て、流石にやり過ぎたかとわたしは焦る。

 だけど、そんな焦りはいらないものだった。


「ぎゃははははは! 嬢ちゃんすげえな!」


「ウェーブが死んだぞお。墓には酒でも備えてやるかあ」


「じゃあ俺はその酒で一杯やるかな」


「あ、それ私も交ぜてよ」


「だったらウェーブ抜きで酒飲もうぜ」


「「「いいねえ!」」」


 なんなのこの人達……。


 周囲の反応に呆気にとられまくりなわたしは、肩を落としてため息を吐き出した。

 本当に疲れた。

 ラヴィと一緒にその場を少し離れて、端っこの方で2人で一緒にソファに座る。

 氷漬けになったウェーブを取り囲む皆は凄く楽しそうに笑っている。

 ダンゴムシの上に座るメソメと、その隣にいるカールさんもそれに気付いたらしくて、なんだか困惑した様子を見せていた。

 そんな姿を眺めていると、リネントさんが飲み物を3人分持ってやって来た。


「騒がしくてすまんな」


「あ、いえ。どうもです」


 リネントさんが持って来たのはオレンジジュースで、謝りながらそれをわたしとラヴィの前に出したので受け取った。

 オレンジジュースを少しだけ口に含んでから、小さく息を吐き出してからリネントさんに視線を向ける。


「まあ、わたしのお姉と知り合いに1人あんな感じなのがいるんで、慣れてますけどね」


瀾姫なみきもモーナスもあんなのじゃない」


「はは。まあ、うん。そうだね。って、ウェーブさん、あのままだと不味いですよねえ」


「……そうだな。恐らく大丈夫だろう」


「へ? 大丈夫なんですか?」


 リネントさんの答えに驚いて質問すると、リネントさんは苦笑交じりに答える。


「彼には魚人の血が流れている。魚人は他の種族より水や氷の魔法に強い特徴があるからな」


「あー。本で読んだ事あります」


「本? そうか。君は本が好きなのか?」


「好きって言うか、わたしは……」


 この世界の住人じゃないので。と言える筈も無く、わたしは言いあぐねて焦る。


「なら、これも本に書いてあったのか?」


「へ?」


 リネントさんが右手に炙り焼きした骨付きシビケイを見せてきた。


「この肉に使っている調味料だ。俺はこの海で色んな物を食べてきたが、こんなに美味い調味料は食べた事が無い。酒にも合うし、ウェーブが君にちょっかいを出したのも頷ける」


「ああ、それですか」


 なんだか焦って損をした気分だ。

 わたしが焦ったのは、この世界の常識とも言えそうな魚人の特徴を本で読んで知ったと言う事を、怪しまれてしまわないかと言う事。

 だけど、そんなのは杞憂きゆうで、別に気にする事でも無かったのだろう。

 リネントさんはそんな事よりも、わたしが作った料理の方に興味があるらしい。


「本じゃない。これは愛那が作ったネギと油を混ぜたもの」


「ほお」


 わたしが安心していると、わたしに変わってラヴィが答えた。

 その顔はどこか誇らしげで、機嫌良さげにオレンジジュースを飲みほした。


「ネギと油だけでこんなに美味い調味料が作れるのか」


「はい。油と言ってもごま油です。ネギと塩とごま油があれば簡単に作れますよ」


「それだけで作れるのか」


「はい」


 リネントさんが興味深そうにネギとごま油で作った薬味を見る。

 わたしとしては、この世界にもごま油があった事の方が驚きだったけど、それは言わない事にした。


「これだけじゃない。本当にどれもこれも美味い。あいつにも食わせてやりたいな……」


 不意にリネントさんが小さな声で呟いた。

 その声は気のせいかと思う程に本当に小さくて、周りの喧騒にかき消された。

 それでもわたしの耳にはハッキリと届いて、リネントさんに視線を向けると、遠くを見つめて何かを懐かしむように小さく微笑んでいた。







「ええ。ウェーブさんも来るんですか?」


「もっちろん。俺はこう見えてつえーんだぜえ」


「いらない」


「うさみみちゃんは相変わらず冷たいなあ。仲良く行こうぜ」


「無理」


 朝陽が昇り、海面が陽の光に照らされて綺麗に輝く。

 一夜を通して適度な気温になった外の空気は、少し生温かくはあるけど、たまに流れる潮風が頬を撫でて気持ちが良い。

 このハグレの村の住人達は朝早くから動き出すようで、まだ朝陽が昇りきってないと言うのに皆が家を出て仕事に向かっていた。

 もちろんそれは大人だけでなく、子供達も親の手伝いをしている。

 学校では無く親の手伝いと言うのも理由がある。

 このファンタジーな世界の学校は、大きな町に行かなければ無い。

 だからこういった田舎の村の子供が学校に通う事はまず無くて、これが普通だったりするのだ。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。


 リネントさんとウェーブが道案内兼護衛をしてくれる事になり、ハグレの村から旅立つ時が来た。

 ちなみにウェーブが言ったうさみみちゃんとは、今ラヴィが頭につけているカチューシャの事だ。

 昨日のパーティーで参加したお姉さんが、変装グッズと言って持って来ていて、それをラヴィが譲り受けていたのだ。

 よっぽどうさ耳が気に言っているらしくて、ラヴィは昨日そのお姉さんともの凄く仲良くなっていた。

 と言うわけで、そのお姉さんも見送りに来ていて、ラヴィと涙ながらに挨拶を交わしていた。


「マナちゃん、ラヴィーナちゃん、ロポちゃん、みんな元気でね」


「うん。メソメも元気で」


「メソメ、また会おう」


 わたしとラヴィとメソメで抱きしめ合う。

 そこにダンゴムシが加わって、メソメの体にダンゴムシが己の体を寄せた。

 そんな3人と一匹の姿を見て、カールさんが鼻をすすって目尻に溜まった涙を拭う。


「本当に今まで娘と一緒にいてくれてありがとう。いつか絶対この恩を返すよ」


「じゃあ、せっかくだから楽しみにしてます」


 わたしはこの世界の人間ではないし、そのいつかはこないかもしれない。

 だから、もう二度と会わないかもしれないけど、カールさんが目を潤ませながら話すのでわたしは笑顔で答えた。


 こうして、わたしとラヴィとダンゴムシはメソメと別れて、新たな冒険の旅へと出発した。

 向かう先は水の都フルートへ向かう船の出る港町。

 聞いた話では、その港町はこの国の中でも特殊な町らしい。

 今から行くのが楽しみだ。

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