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125 メソメの秘密と騒がしい男

 メソメの父親にこれまでの事を伝えると、メソメの父親はわたしとラヴィに頭を下げた。


「そんな事が……。メソメが本当にお世話になったんだね。マナちゃん、ラヴィーナちゃん、2人とも本当にありがとう」


「いえ、わたし達もメソメのおかげで色々と助けられました」


「メソメがお父さんに会えてよかった」


「うん。マナちゃん、ラヴィーナちゃん、それにロポちゃんもありがとう」


 メソメが本当に嬉しそうに笑顔をわたし達に向けると、それを見てメソメの父親が何かを思いついたかのように手の平に拳を当てた。


「そうだ。みんな今日は家で泊まってくといい」


「え? でも、せっかく久しぶりにお父さんに会えたのに、わたし達がお邪魔したら――」


「そんな事ないよ! マナちゃん達は明日には村を出るんでしょ? もう今日で最後だし、少しでも一緒にいたい」


「メソメ……」


愛那まな、私も今日はメソメと一緒がいい」


「……そうだね。うん。それじゃあ、お邪魔させてもらおっか」


「うん」


「決まりだね!」


 ラヴィが口角を上げて微笑み、メソメも嬉しそうに笑うので、わたしもつられて微笑んだ。


「よしっ。今日はご馳走を作ろう……あ。しまった」


「どうしたの? お父さん」


「実は今から今晩のご飯の材料を買いに行く所だったんだよ」


「そうなんだ? それなら一緒に行くよ」


「でもなあ、流石にメソメのお友達を買い物に付き合わせるわけにもいかないし……」


「うーん。でも、マナちゃん達は気にしないよ。ね?」


「まあ、気にしないけど……」


 気にしない。

 確かに気にしないけど、メソメの父親の気持ちは解かる。

 もしお姉が我が家に友達を連れて来て、お茶菓子がなくて買いに行こうとなった時に、その友達に一緒について来てくれなんて言えない。

 だから、わたしから提案する事にした。


「それなら、メソメと私達で先に家に行ってます」


 うん。

 普通の事だけど、我ながら良いアイデアだ。

 本当はメソメと父親を2人っきりにさせてあげたいけど、流石に知らない土地で家の場所を聞いただけでわたし達だけでメソメの家に辿り着けるとは思えないし、アイデアとしてはこれが限界だろう。

 と、思っていたのだけど……。


「あのね、マナちゃん。私もマナちゃんと一緒で、この村に来たの初めてだから道が分かんないよ」


「へ? そうだったの?」


「うん」


 メソメが頷いて、わたしは気がついた。

 よく考えなくても分かる事だった。

 この村にもしメソメが住んでいたら、村長であるリネントさんの事を知っている筈だし、何よりこの村に来た時に自分の住んでいた村だとわかる筈だった。

 だけど、そんな事は決してなかった。


 メソメの顔の表情がみるみる暗くなっていき、次第に目尻に涙を浮かべだした。

 そんなメソメの姿を見てわたしは焦った。

 失言あったとは思うけど、泣くほどに酷い事を言ってしまったと思わなかった。


「ごめん」


「違うの。マナちゃんは悪くないの」


 謝ると、メソメは首を横に振って、涙を流して父親の顔を見上げた。

 メソメの父親もメソメが悲しそうに泣く姿を見て困惑して、直ぐに膝を曲げてしゃがんで、メソメと目を合わせた。


「メソメ、どうしたんだ?」


「お母さ……ん……が…………お母さんが……殺されちゃっ……たの」


「――っ!?」


 衝撃的だった。

 それはわたしだけでなく、メソメの父親も一緒で、目を見開いて驚いていた。

 そして、メソメの父親は段々と目尻に涙を浮かべながら、顔を歪ませてメソメを抱きしめた。

 わたしとラヴィは手を繋いで、2人を見守る事しか出来なかった。







 魚人の国の海の中。

 人間である母親と、魚人である父親の間に生まれた子供。

 それがメソメだった。

 今にして思えば、お風呂に一緒に入りたがらなかったのは、自分がハーフだと言う事を隠していたから。

 そしてそれは、メソメの過去が大きく関係していた。


 魚人は他種族をあまりよく思っていない。

 でも、それは既に昔の事。

 そうでなければ、魚人であるメソメの父親は、人間である母親と結婚なんてするわけがない。

 だけど、それでもごく一部の魚人は、今も尚それをよく思ってない者もいる。

 メソメが生まれた場所は、そのごく一部の魚人が住んでいる場所だった。

 そして、そのごく一部の魚人は、魚人と他種族のハーフにはより一層冷酷でメソメ達親子は迫害された。

 それでも、メソメの父親は頑張っていたけど、母親には限界がきた。

 母親は人間で、住んでいた場所は海の中。

 それが母親を追い詰めるには十分な環境だった。

 メソメの母親は陸に上がって生活する事を望んで相談して、メソメの父親はそれを受け入れた。

 でも、悲劇は起こった。


 陸に上がって新生活を始める日に、父親だけ仕事の事情で出発が遅れる事になった。

 それでメソメと母親だけで先に陸に上がり、そして、直ぐに盗賊に襲われた。

 その時、メソメの母親はメソメを護って盗賊に殺されて、メソメは魚人と人間のハーフだと知られて奴隷商人に売り飛ばされてしまった。


 メソメが泣きながら話したのは、そんな辛い過去だった。

 この辛すぎる過去を知って、メソメの父親は声を殺して泣いた。




 メソメの父親が今住んでいる家に辿り着くと、メソメの父親は「いってきます」と言って、買い出しに出かけた。

 家は1階建てで、キッチンの付いた学校の教室一個分の大きさの部屋と、玄関とお風呂とトイレだけが別にあるといった家だった。


「えへへ。ごめんね、2人とも。さっきは重いお話しちゃって」


「何言ってんの。謝る事なんて無いよ」


「うん……ありがとう」


 メソメが鼻をすすって、再び目尻に溜まった涙を拭う。

 ダンゴムシがメソメの側に行って、元気づけようとしているのか、体をメソメにくっつけてスリスリしていた。


「それにしても可笑しいよね、私のお父さん。お仕事が終わってから新しいお家に行って、私とお母さんがいなかったから、捨てられたと思ってたなんて」


「ああ……まあ、うん。確かに捨てられたって発想は可笑しいかもね」


 メソメが明るく振る舞おうとぎこちない笑いを見せたので、わたしもそうしようと笑ってみせ、ラヴィも口角を上げて頷いた。

 本当は、メソメの父親の気持ちも少し分かる。

 母親が自分達家族を、娘に酷い事をする魚人と同じ種族の自分と距離を置いたのだと考えたのかもしれない。

 だからこそ捜さなかったんだろう。

 妻と娘を傷つける魚人と同じ種族である自分は、もう2人に会わない方が良いと考えて……。

 まあ、わたしがそう思うだけで、もっと他に考えがあるかもだけど。

 とは言え、メソメにわたしの持論を言う気にもなれないので、わたしは苦笑しながら別の事を話す。


「捨てられたと思ったショックで、その新しい家を売り払って、今のこの村に来たって行動力は凄いけどね」


「うん」


 と、メソメが笑って頷くと、玄関の扉がトントンと叩かれる。

 わたしとメソメとラヴィが目を合わせて、「誰だろう?」と首を傾げた。


「カールさーん! リネントさんが魚人と人間のハーフの子を連れて来たらしいぞー! もしかしたらカールさんの娘さんかもしれないし見に行かないかー?」


 知らない男の大声が聞こえた。

 カールさんとは、恐らくメソメの父親の名前だろう。

 そう言えば自己紹介がまだだったな。と、そんな事を考えたけど、まあ、それは今は置いておくとしよう。


「メソメのお父さんの知り合いっぽいね。どうする?」


「……開けてくる」


 メソメは少しだけ眉根を上げて、緊張した面持ちで玄関へと向かう。

 それを見て、何だか心配になって、わたしとラヴィもメソメの後に続いた。

 扉は未だに叩かれていて、外からは「おーい!」と男の声が聞こえてくる。

 緊張した空気が充満して、メソメは唾を飲み込んだ。

 そして、玄関の扉のドアノブを掴み、ゆっくりと扉を開ける。


「おー。やっと出て来た。カールさん、早く見に行きま……子供?」


「こ、こんにちは。お父さんの娘のメソメです」


「…………」


「…………」


 続く沈黙。

 メソメと男が見つめ合い、ゆっくりと時間が流れているかのような錯覚を覚えた。


 男は恐らくだけど魚人と獣人のハーフだ。

 豚の様な鼻と耳に、手には水かきがある。

 ちなみに体型もぽっちゃりとしていて、パッと見はそのまま豚の獣人にしか見えない。

 いや、その言い方だと色々と失礼だけど……って、まあ、それは今は置いておくとしよう。


 男は暫らくメソメと見つめ合うと、わたしとラヴィに視線を向けて、それから更に後ろに視線を向けた。

 その途端に、男の顔からは滝の様な汗が流れ始めて、顔も蒼白となっていく。

 そして、口をパクパクとさせてから、大声で叫んだ。


「ぎゃああああああああああああ!!!!」


「ひっ」


 メソメが驚いて身をちぢこませて、無理もない。と、わたしは頷いた。

 何故そう思ったなのかと言うと、答えは簡単だ。

 わたしの、と言うよりは、ラヴィの背後にはダンゴムシがいるからだ。

 そう、身長2メートル越えの恐ろしい程にデカい、不気味に青白く光るオリハルコンダンゴムシが。


「カールさんが虫に食われちまったあああああ!」


 って、頷いてる場合でも無かった。

 男が慌てふためいて走り出そうとしたので、わたしは直ぐに前に出て、男の腕を掴んで止めた。


「落ち着いて下さい。食われてないですよ!」


「ひいい! 食われた女の子の幽霊だああ!」


「誰が幽霊だ!」


「お助けええええ! 食われ――――っうぼぁ!」


「煩い」


 騒ぐ男にラヴィが水の魔法を使い、男の顔が水の塊に包まれた。

 と言うか、容赦がなさ過ぎる。

 あれでは息が出来ない。

 と、思ったけど、そんな心配はいらなかったらしい。


「助けてえええ」


 流石は魚人の血が流れていると言った所だろうか?

 普通に水の中で喋れているし、全然平気なようだ。

 と言うか、水で声が響かなくなっただけで、煩いのは変わらなかった。


 さてどうしようか。

 なんて事を考えていると、「何事だ!」と誰かがこの場にやって来た。

 いや、誰かではない。

 その声はつい先ほどに別れた人の声で、わたし達をこの村に連れて来てくれたリネントさんだった。


「誰かと思ったら君達か。ところで、君達は何をしているんだ? まさか、その男を襲っているわけではないだろうな?」


「ええっと、そう言うわけではないんですけど……」


 疑われても仕方が無い状況だけに、なんて説明しようかと困っていると、わたしの前にラヴィが出る。

 そして、顔と視線はリネントさんに向けながら、人差し指で男に指をさした。


「愛那を見て幽霊扱いして騒いだから静かにさせただけ」


「そうか」


 リネントさんはそれだけ口にすると、ラヴィに向かって頭を下げた。


「どうか無礼を許してやってほしい。彼はとても良い人間だ。きっと彼も悪気はなかった筈だ」


「……そう。わかった」


 ラヴィは頷いて、男にかけた魔法を解いた。

 男は魔法が解かれると、慌てた様子でリネントさんの背後に回った。


「ウェーブ、子供とは言え相手は女性だ。お前も男なら女性にみっともない所を見せるな。あまり失礼な事はしないでくれ」


「リネントさん、助けてくれてありがとうございます。でも、男ならとか、そう言う男だとか女だとかで差別するなんて考えが古臭いですよ。そんな糞みたいな考えを俺に押し付けないで下さい」


「む? そうか? それはすまない。以後気をつけよう」


「分かればいいんです。許しましょう。それが偉大な男ってやつですからね。ま、女には出せない俺の魅力ってやつです。このおとこウェーブ、男の中の漢ですからね。ネチネチと小うるさい女とは違いますってなもんですよ。ぼくちんやっさすぃ~」


 などと言いながら、わたしやラヴィにチラッとだけ視線を向ける。

 正直少しイラッとした。


 差別するなとか言っておきながら、自分から真っ先に差別してる。

 って言うか、この人……ウェーブさん? が、全然良い人に見えない。

 リネントさんは本当に良い人だし、この人に騙されてるんじゃ?

 絶対このウェーブって人ヤバい系の人だわ。

 メソメのお父さんの知り合いみたいだし……なんだか心配になるな。

 はあ、頭が痛くなってきた。

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