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012 川上り競争 後編

 亥鯉の川の上流で見つけた先頭集団の猪鯉の数三匹。

 わたしとラヴィを乗せたイカダを押して泳ぐモーナが、その猪鯉達に追いついた。


 追いついたわたし達に気がついた猪鯉達が話し出す。


魚魚ぎょぎょー! 追いつきやがったぞお!?」


「構わねえ。所詮相手は猫の獣人だ。俺達の敵じゃねえ」


「よしっ。お前等任せたぞ。俺は先に行く」


「「はーっ!?」」


 猪鯉達が突然喧嘩を始め出し、わたしは呆れながら猪鯉達を見た。


「何やってんのあいつ等」


 わたしが猪鯉達の喧嘩を馬鹿だなぁと思いながら見ていると、わたしの視界に大きな滝が映りこんだ。

 大きな滝は、今わたし達が競い合っている亥鯉の川の先にあり、近づけば近づくほどに滝が大きいものだと感じさせられる。


「何あの滝? 凄く大きい」


 わたしが思わず視界に映りこんだ大きな滝を見つめて呟くと、モーナが聞き取って説明する。


「あれは亥鯉の川の名物だ! 落激らくげきの打ち水って言われている滝よ!」


「落激の打ち水……」


 モーナの説明を聞いて、わたしが滝の名前を口にした頃には、わたし達の前を泳ぐ3匹の猪鯉達は滝を上り始めていた。

 だけど、滝を目の前にして、モーナは一度泳ぐのを止めてしまう。


ぎょぎょぎょーっ! 我等猪鯉は鯉の如く、滝を上る事が出来るのだ!」


「猫の獣人は滝を上れるとは思えない。勝負あったな」


「念の為お前等はここに残って、美少女ガールズの邪魔をしろ! 俺は先に行く!」


「「はーっ!?」」


 わたしは、また喧嘩を始めた猪鯉達を見上げながら、モーナに話しかける。


「どうするの? このままだと負けちゃう」


「それは大丈夫だ。この位の滝は上れるわ!」


 わたしが心配するとモーナが自信満々に答えたので、わたしは首を傾げて訊ねる。


「え? でも、じゃあ何で止まったの?」


「パンツが脱げたわ!」


「へ?」


「パンツが脱げたわ!」


「二回も言わないでいいよ」


「困ったわ。このまま滝を上ると、私のお尻が丸見えになっちゃうわ! そんな事になったら、この世の男が私のお尻に魅了されて、大変な事になる!」


「なるかっ」


 わたしはガクッと力が抜けて座り込み、そのまま座りながら、ランドセルから着替え用のパンツとスパッツを取り出した。


「はい。これ貸してあげるから、さっさと穿きなさい」


「流石マナ! 備えが良いな!」


「良いから早く穿く」


 そう言って、わたしが取り出したパンツとスパッツをモーナに渡すと、モーナは川に入ったまま、器用にパンツとスパッツを穿き始めた。


「って言うかさ。モーナは何で着替えを持ってこなかったのよ。遠出になるって分かってたでしょ?」


「寝る時はパンツを穿かないから、寝る前に上着と一緒に洗って干しておけば問題ないわ!」


「上着……? はあ。まあ、確かにそうだね……」


 モーナは、普段は相変わらずの乳バンドとカボチャパンツだけの服装だ。

 乳バンドを上着と言っちゃうあたりが、最早アレな感じで、女の子としてどうなのかと言いたく……まあ、それは今は置いておくとしよう。


 モーナがイカダを再び掴んで、勢いよく滝を上り始める。

 滝を上り始めた最初は、わたしはついイカダにしがみついてしまったけど、その必要は無かった。

 モーナの使う重力の魔法は、こんな時こそ本領発揮と言った感じで、わたしもラヴィも何もしなくても落ちる事は無い。

 まるで滝では無く川を進んでいるだけの様な感覚で、滝を上って行った。


 そして、わたし達は再び先頭集団の猪鯉三匹に追いついた。


「いた。モーナ、もう直ぐだよ」


「ふんにゃーっ!」


 わたしがモーナに教えると、モーナは雄叫びを上げて加速する。

 すると、モーナの雄叫びを聞いて、猪鯉達がチラッと一瞬わたし達の方へ振り向き声を上げる。


魚魚ぎょぎょーっ!? 何なんだあの猫の獣人はーっ!?」


「馬鹿な!? このままだとぬかされるぞ!」


「こうなったら最後の手段だ! おまえ等足止めしろ! 俺が先に行く!」


「「はあーっ!?」」


「またやってる……」


 相変わらず喧嘩を始める猪鯉達を見て、わたしは呆れて呟いた。

 そして、わたしが呟いた瞬間、モーナはついに猪鯉達を追い抜いた。


「「「ぎょえーっ!? しまったああああーっ!」」」


 わたし達に追い抜かれた猪鯉達の声が、背後から響き渡る。

 そして、ついに滝の終わりが見えてきた。


「モーナ。このまま行っちゃえ」


「モーナス頑張れ」


「ふんっにゃあーっ!」


 わたしとラヴィの声援を受けて、モーナが雄叫びを上げた。

 モーナの滝を上るスピードは増し、ついに滝を上りきる。


 滝を上りきるとわたし達は勢いよく宙に浮かび、そして、わたしの目に綺麗な湖の姿が映りこむ。

 湖の水面に青空が広がり、キラキラと光っていて、わたしは一瞬目を奪われる。

 そしてその湖の中心で、お姉が小さな岩山の上に座って、驚いた表情を浮かべてこっちを見ていた。


「お姉」


 わたしが呟くのと同時に、モーナが宙に浮かんでしまったわたしとラヴィとイカダに魔法をかけて、湖の上に無事に着水した。


「愛那~っ!」


 お姉がわたしの名前を呼んで手を振る。

 わたしはお姉の無事な姿を確認して、ホッと胸を撫で下ろした。


 モーナがイカダを押して、お姉のいる小さな岩山まで辿り着く。

 岩山に辿り着くと、お姉は岩山からジャンプして、イカダの上に尻餅をついて着地した。


「痛いです~」


 お姉は目尻に涙を溜めて、お尻をさすりながら立ち上がる。

 わたしは呆れながらもお姉に近づき、お姉を見上げて話しかける。


「お姉。変な事されなかった?」


「美味しいフルーツをいっぱい頂きました」


「フルーツ?」


「はい。とても美味しかったんですよ。あっ、そうだ。これは愛那にプレゼントです」


 お姉はニコニコしながら、リンゴと梨に似ている果物を取り出した。

 わたしがお姉から果物を受け取って首を傾げると、ラヴィがぺアップルに視線を向けて呟く。


「ぺアップルだね」


 ぺアップル、ぺアップル……あ。


「そうそう。ぺアップル。これ、モーナの家の本で見たやつだ」


 モーナがイカダの上に上って、わたしの横に立ってぺアップルを見つめる。


「それ、結構美味しいぞ」


「へー。そうなんだね」


 その時、わたし達が話していると、お姉を攫った猪鯉がイカダの上に上った。

 そして気が付くと、モーナが滝で追い越した猪鯉達までイカダの上にいて、合計四匹の猪鯉達にわたし達は囲まれる。


「嬢ちゃん達。俺達の神聖な川上り競争を、めちゃくちゃにしてくれた礼はたっぷりしてもらうぜ」


「こうなったら何でも構わない。嬢ちゃん達一人に対して、俺達も一人ずつだ。全員嫁になってもらう」


「お前等、おっぱいのデカい子は俺に任せろ」


「「はあー!?」」


「あ。じゃあ俺は一番小さい子を頂きますね。実は好みなんです」


 相変わらず喧嘩する三匹と、ロリコンらしい一匹は、じりじりとわたし達との距離を詰め始める。

 わたしは呆れながら、モーナに視線を向け質問する。


「こいつ等って、一応食用なんだっけ?」


「そうね! 猪の肉と鯉の魚肉を一度に味わう事が出来るって、一部には人気があるわ」


「そっか。じゃあ、捌いて売りに行こう」


 わたしが微笑みながらモーナに話すと、猪鯉達の様子が一変した。


「俺達を捌くだと!? そんな事をされたら、美味しく頂かれちまう!」


「困ったな。俺が一番美味いって事がバレてしまう」


「おっしゃー! そこのおっぱいちゃん! 俺を食べろ!」


「あ。じゃあ俺は一番小さいその子に食べてもらいたいです」


 え?

 何言ってるの?


 思わぬ猪鯉達の反応を見て、わたしは驚愕して顔を引きつらせる。

 すると、モーナが胸を得意気に張って、説明してくれる。


「猪鯉は食べられる事に快感を持つ種族でもあるのよ! こいつ等は食べられる事で、少女達の一部となる事に興奮する変態達だ!」


「え? 何それキモイ」


「気持ち悪いから、普通は皆食べない。食べるのは野生の獣だけ」


「……そうなんだ」


 でも、言われて納得。

 確かに、こんな奴等気持ち悪くて食べれない。


 ラヴィの補足説明に、わたしが納得していると、お姉がわたしの前に出て目を光らせる。


「美味しいなら、私は食べてみたいです!」


「は? え? お姉?」


 お姉が目を輝かせながら、わたしに振り向く。


「食べられる事に生き甲斐を持っているなら、可哀想な事も無いんです! だったら、美味しく頂くのが礼儀だと思うんです!」


「お姉、言いたい事は分かるけど、気持ち悪いから止めた方が良いよ」


「そうなんですか? 猪と鯉なんて、食べた事ないから分からないです」


「食べた事あるとかないとかの話じゃなくて、それにほら、人語喋るし気持ち悪いじゃん」


「愛那。それは偏見ですよ。お姉ちゃんは、偏見はいけない事だと思います」


「えー……」


「「「「魚魚魚ぎょぎょぎょえーっ!」」」」


 わたしがお姉の説得に苦戦していると、突然猪鯉達の悲鳴が聞こえてきた。

 わたしとお姉は悲鳴に驚き猪鯉達に視線を向けると、猪鯉達は一か所に集められ、白目をむいて倒れていた。

 よく見ると爪で引っ掻かれた傷が、違う。

 爪で斬られた痕があり、そこから血が噴き出している。

 そして、白目をむいて倒れている猪鯉達を椅子にする様に座って、モーナがわたしと目を合わせた。


「食料確保したわ!」


「するな」


「やりましたね!」


「私はそれいらない」


 モーナの言葉にわたしがツッコミ、お姉が喜んで、ラヴィが顔を青くさせながら虚ろ目で呟く。

 こうして、お姉を突如襲った猪鯉達との決着がついたのだけど、その後にモーナから聞いた話でわたしは更に気持ちが悪くなった。

 その内容はこんなものだ。


「猪鯉の赤ちゃんは、口から生まれるのよ」


「く、口……?」 


「そうだ! 口から吐く様に生まれるんだ! あれを一回見ちゃうと、流石に食欲無くすわ」


「聞いただけで気持ち悪いんだけど……」


 何でそんな事になるのかは、正直怖くて聞き出す勇気は無かったけど、分かった事が一つ。

 猪鯉の子を宿すと、一週間ご飯を食べられなくなるらしい。

 その間の栄養は、身籠る前にとるそうだ。


 わたしはモーナからその話を聞いて、異世界の生物は本当に怖いなと実感した。

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