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122 姉は妹の無事を祈る

※時はだいぶ遡り瀾姫視点のお話です。


「た、大変だ! おたくの嬢ちゃん、マナって子が別の船に乗って行っちまったぞ!」


「別の船ですか? ……って、ええええええええ!?」


 私の名前は豊穣瀾姫ほうじょうなみき

 可愛い可愛い愛那まなちゃんのお姉ちゃんです。

 今日は朝早く起きて、大好きな愛那ちゃん達と一緒に朝ご飯を食べました。

 それから、今日は船に乗って、次の目的地に向かう予定です。

 でも、乗船場に向かってる途中で、メソメちゃんが何処かに行ってしまいました。

 手分けをして捜したのですが、決めていた時間までには見つける事が出来ませんでした。

 他の方が見つけてくれる事が祈って乗船場に来たら、モーナちゃんが先に来ていました。

 ラヴィーナちゃんも既にいる様で、出港する船を念の為に見に行くと言って、この場からいなくなっている様です。

 愛那だけがまだ来ていなかったので、愛那を皆さんと一緒に待っていたのですが、とんでもない事になってしまいました!


 大事件発生です!

 その可愛い可愛い愛那ちゃんが、今日乗る予定だった船とは別の船に乗ってしまったようなんです!

 冒険者の方が息を切らして教えてくれました。


「ナミキ落ち着け」


「モーナちゃん!? でも、愛那が!」


 慌てる私と違って、モーナちゃんは落ち着いていました。

 またもや愛那ちゃんと離れ離れになってしまったというのに、まるで何でもないかの様な落ち着きです。


「多分ラヴィーナが追いかけて行った船だ」


「どう言う事ですか?」


「マナがメソメとロポを連れて船に乗る姿と、ラヴィーナが魔法で足場を作って船に乗りこんでいく姿は見たわ」


「本当ですか!?」


「それなら良かったです」


 安心しました。

 愛那ちゃんはメソメちゃんを見つけて、今頃は無事にラヴィーナちゃんと合流しているに違いありません。

 ラヴィーナちゃんも幼いながらもしっかりとしたいい子なので、これで――


「――って、良くないです! なんでその時連れ戻してくれなかったんですか!?」


「ナミキが言ったんだぞ。引いて押すの引くは、距離をおく事だって。だから、とりあえず距離をおいてみた」


「言いましたけどそう言う物理的な意味じゃないですし、それは方法の一つとして言った例え話です! それに何でそれを今実行しちゃったんですか!?」


「思い出したからだ!」


 モーナちゃんが得意気に胸を張って言いました。

 なんて事でしょう!

 モーナちゃんがこんなにもボキャブラリーに溢れた天才だとは思いませんでした。

 今度からは気をつけます。

 って、そんな事言ってる場合じゃないです!


「追いかけましょう!」


 そう言って私は海に向かって走りました。

 でも、直ぐにモーナちゃんに肩を掴まれて止められてしまいます。


「大丈夫だろ」


「何でですか!?」


「同じカニの絵が描かれてた船だったわ。きっと同じ目的地だ」


「そうなんですか……? それなら良かったです」


 安心しました。

 そう言う事なら、一緒に船の旅を楽しめないのが少し残念ですが、次の目的地に着いてから合流すれば良いです。

 なんて思っていた時でした。

 私とモーナちゃんのお話を聞いていたデリバーさんが、とても気まずそうに私とモーナちゃんに「すまねえ」と言って、話し始めました。


「言い辛いんだが、あの絵は同じ会社が造った船についてるだけで、目的地が全然違う。それによ、多分さっき出た同じ絵の船だと、高速船だろうからもう追う事も出来ねえ」


「……ええええ!? どどどどど、どうしましょう!? モーナちゃ――っ!?」


 大変です!

 焦ってモーナちゃんの肩を揺らしたら、モーナちゃんが顔を真っ青に染めて、全身からいっぱい汗を流し始めました。

 それを見て私が驚くと、モーナちゃんは機械の様にぎこちなく首を回して、私と目を合わせました。


「ヤバいわ、ナミキ。今直ぐ泳いで追いかけたいけど、お腹が痛いわ」


「ええええええええええっっ!?」


 大変です!

 こんな時に腹痛です!


「さっき食べ過ぎて、直ぐ走ったせいだわ……」


 なんと言う事でしょう!

 そう言えば、モーナちゃん滅茶苦茶お魚を食べてました。

 お腹ポッコリどころか風船みたいな勢いだった気がします。

 でも、不思議な事に、今はお腹が出ていません。

 生命の神秘です。


「う……うまれそう…………」


 全然神秘じゃ無かったです!

 滅茶苦茶ピンチです!


「大変です! 上と下が大惨事になってしまいます! デリバーさん! おトイレどこですか!?」


「お、おう。それなら……」


 愛那ちゃんを追いかけたいけど、こんな状態のモーナちゃんを放っては置けません。

 デリバーさんにおトイレの場所を聞いて、急いでモーナちゃんを連れておトイレに直行しました。







「すまん……、ナミキ」


「気にしないで下さい。私もたまになって愛那ちゃんに怒られます」


「お前も苦労してるんだなあ」


 お涙ちょちょぎれるモーナちゃんにハンカチを渡します。

 そんなわけで、おトイレから無事に生還したモーナちゃんと一緒に、デリバーさんがいる所まで戻ってきました。


「どうでもいいけどよ、お前さん等。結局あの子達はどうするんだ?」


「へう。そうでした」


 モーナちゃんのお腹事件ですっかり忘れちゃっていました。

 でも、愛那ちゃんは優しいのできっと許してくれます。


「今から追いかけ……れませんよね? 流石に……」


「そうだな。仮に追いかけても、高速船に追いつけるような船なんてここには無いな」


 デリバーさんからお話を伺うと、高速船は私と愛那ちゃんの世界で言う新幹線みたいな船でした。

 普通の旅客船と比べて速くて、長距離移動で利用されている様です。

 なので、私達が今から乗る予定の船で追いかけたとしても、絶対に追いつけないそうです。


「それなら、私1人で泳いで追いかけるわ」


 デリバーさんのお話を聞いて落ち込んでいると、モーナちゃんが顔をキリリとさせて言いました。


「そんな事出来るんですか?」


「当たり前だ! 私は泳ぎのプロだからな!」


 モーナちゃんがかっこよく胸を張ります。

 頼もしすぎて惚れちゃいます。

 でも、デリバーさんが困り顔をモーナちゃんに向けて言います。


「猫の嬢ちゃん、それはやめとけ。最近は“レブル”って犯罪者が海に出るって話だ。風の噂じゃ、【毒海どくうみ】もそいつのせいなんじゃないかって話だぜ」


「レブル!? おいお前! レブルが出るのか!?」


 レブルと言う名前は、私もモーナちゃんから聞いた事があります。

 モーナちゃんが捜しだして、懲らしめる予定の三馬鹿さんのお1人です。

 確か魔族さんで、悪い人のようです。

 でも、毒海? は知りません。

 聞いた事も無い名前ですが、毒の海だなんて聞いただけでも恐ろしいです。


「あ? ああ。奴は魔族の魔人らしくてな、だから魔従まじゅうやら凶暴な獣を従えてるんじゃないかって言われてるよ」


「だったらマナが危ない! 直ぐに追いかけるわ!」


「待て待て。高速船の向かった先を調べるのは簡単だが、出港してからもう随分と時間が経ってるんだ。追いつけるわけない」


「私の泳ぎを甘く見るな! そんな船直ぐに追いついてやるわ!」


 モーナちゃんとデリバーさんが言い合いを始めてしまって、私は少しだけ頑張って考えました。

 そして、愛那ちゃんの事を考えて、一つの考えにいきつきます。


「待って下さい、モーナちゃん」


「なんだ?」


 デリバーさんと言い争うモーナちゃんを止めました。

 モーナちゃんは少しイライラした様子で私に視線を向けて目が合いました。

 私はモーナちゃんの目をしっかりと見て、私が考えた事を伝えようと思いました。


「私達は予定通り、このままリングイさんの孤児院に向かいませんか? 愛那はとっても賢い子です。きっと助けに行かなくても大丈夫です」


「駄目だ。レブルが出るなら話は別だ。レブルは三馬鹿の最後の1人だぞ。何かがあってからじゃ遅いわ!」


 モーナちゃんが私を睨みました。

 気持ちは分かります。

 私だって、今直ぐ大切な愛那の許に向かいたいです。

 でも、それでも駄目なんです。

 私は愛那の姉として、愛那の為にしてあげなければならない事があります。


「何かが起きてしまってからでは遅いのは、私もわかってます。でも、モーナちゃん。ここには、愛那がリングイさんの孤児院に連れて行きたいと言って連れて来た子供達がいるんですよ?」


「――あ」


 私の言葉を聞いて、モーナちゃんは気が付いてくれたようです。

 モーナちゃんは猫尻尾をだらんと下げて、とってもしょんぼりした顔をしました。


「ナミキの言う通りだわ。マナの為にも、マナの代わりに子供をちゃんとあいつの家まで届けないと駄目だ」


「はい。モーナちゃん、私達で愛那ちゃんの代わりに連れて行きましょう」


 モーナちゃんをギュッと抱きしめました。

 レブルと言う人がどんな人かは分かりませんし、その人の事なんて関係なしに愛那の事が心配です。

 でも、だからって、子供達を置いてなんていけません。

 愛那の為にも、子供達の為にも、私は最後までやり遂げるべきなんです。


「そろそろ船が出る時間だよ!」


 不意にドンナさんの私達を呼ぶ声が聞こえてきました。

 私達が乗る船も出港する時間の様です。

 結局、出航時間を遅らせてもらえましたが、愛那ちゃんとラヴィーナちゃんとメソメちゃんとロポちゃんがいない状態の出港になってしまいました。


 私達は船に乗り込んで、ドンナさんや兵隊長さんや子供達に愛那ちゃん達の事を説明しました。

 愛那ちゃんが別の船に乗ってしまった事を教えてくれた冒険者の方が、あらかじめ説明してくれていた様で、思っていたほど皆さんは動揺していませんでした。

 でも、やっぱり子供達は不安な様で、顔を曇らせていました。

 子供達は愛那ちゃんが奴隷にされていた頃からの付き合いで、とっても仲良しさんだったので無理もありません。

 だから、私がこの子達を愛那の分まで護ってあげようと思います。

 私は空を見上げて、強く、強く願いました。




 愛那、ラヴィーナちゃん、メソメちゃん、ロポちゃん……どうか無事でいて下さい。

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