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120 罪人との再会

 海水が全て毒に侵された海域【毒海どくうみ】。

 どう言った原理で毒が発生するのか解明されていなくて、それは突然に現れて、回避が不能だと言われている。

 でも、毒海は頻繁に発生するものではなく、それこそ宝くじの1等を当てる程度の確率でしか発生しないらしい。

 毒海が発生した海域には、凶暴な獣や虫、魔従まじゅうなどのモンスターも現れる。

 このモンスター達もピンポイントで現れる未だ謎の生物として知られている。


 わたし達を巻き込んだこの毒海は、その中でも最悪な部類のものだった。

 本来の毒海であれば、モンスターに襲われても、せいぜい数は十匹程度。

 だけど、明らかにそれ以上の数のモンスターが船を襲撃していた。

 モンスターは既に船内に侵入していて、わたし達がやって来た緊急脱出口にまで奇襲をかけていた。


 緊急脱出口は船内にあり、脱出用の潜水艦が収納されている場所にある。

 乗客や船員は今この場に集まっていて、潜水艦の中に逃げようとしていたけど出来ないでいた。

 それどころか、毒海蠍ポイズンシースコーピオンの奇襲を受けて、かなりの被害が出ていた。

 所々にサソリの毒にやられて倒れた人がいて、潜水艦に逃げそびれた人や、潜水艦自体もサソリに囲まれている状況。

 護衛騎士が1人でサソリと戦っていたけど、もう限界に近いと思える程に消耗しきっていた。



「ねえ? これってヤバくない?」


「どうしよう。こんな所にも毒海蠍ポイズンシースコーピオンがいっぱいいるよ」


「あそこに魔従もいる」


 ラヴィに言われて視線を向けると、二足歩行のワニがいた。

 いや、正確にはワニの顔をした怪獣……ゴジ○だ。

 お父さんが子供の頃に見た怪獣映画と言って、レンタルで借りてきた映画で見た事がある。

 あれは間違いなく、あの怪獣映画の主役の怪獣の顔を、ワニにした怪獣な見た目だった。

 数は一匹で、まるでサソリ達の司令塔の様な存在。


 わたしは直ぐにステチリングの青い光をあてて、ワニ顔の怪獣のステータスを確認する。




 ポイズンアリゲーター

 年齢 : 3533

 種族 : 魔従『魔族・毒海変異爬虫類(はちゅうるい)種・わに

 職業 : 無

 身長 : 187

 装備 : 無

 味  : 猛毒

 特徴 : 毒牙どくが

 加護 : 毒の加護

 属性 : 水属性『水魔法』上位『毒魔法』

 能力 : 『影食い(シャドウイート)』未覚醒




 ワニ頭の怪獣はラヴィの言った通り魔従だった。

 でも、そんな事より能力スキルが気になった。

 影食い(シャドウイート)がどんなスキルなのか分らないけど、なんだか嫌な予感がしてならない。

 だけど、だからってジッとなんてしていられない。

 わたしとラヴィは目を合わせて頷き合った。


 ラヴィが打ち出の小槌こづちを構えて、護衛騎士が戦っているサソリに向かって氷の針を繰り出した。

 氷の針はサソリに命中して貫いて、サソリを絶命させた。

 それによってラヴィの存在に気付いたサソリが、二匹同時にラヴィを襲う。

 メソメが水の網でサソリを一匹絡め取り、ラヴィが残りの一匹に氷の針をぶつけて絶命させる。


 走ると吐き気や気持ち悪さが悪化する思いだけど、今は四の五の言ってられない。

 わたしは走って襲われている人達の前に出て、サソリを真っ二つに斬り裂いた。


「早く逃げて下さ――は?」


 乗客の1人に顔を向けて、わたしは驚いた。

 何故なら、わたしが助けた乗客の1人が……。


「チュウベエ? へ? え? なんで?」


「そ、それがしはチュウベエなどとかっこいい名前ではない」


「……かっこよくはないでしょ」


「むむ。そ、それより、何故なにゆえお主がこのような所に」


「やっぱりチュウベエじゃん」


 そこにいたのはバーノルド邸で戦った奴隷商人兼護衛のネズミの獣人チュウベエだった。

 今は丸腰の様で、武器は何も持っていない。

 ボロボロになった和服の様な服に身を包んだ姿だった。


「って言うか、それはこっちの――」


「愛那!」


「――っ!」


 サソリの毒針がわたしに迫る。

 わたしは紙一重で毒針を避けて、わたしを襲ったサソリを真っ二つに斬り裂いた。


「あぶな。ありがと、ラヴィ!」


 本当に危なかった。

 ラヴィがわたしの名前を呼んでくれなかったら、間違いなく刺されていた。


「危ない所であったな」


「貴方に心配される覚えは……って、そうじゃなくて、本当になんでこんな所にいるの? チーと一緒にフロアタムに行った筈だよね?」


「逃げたのだ」


「は?」


それがしには【一度限りの初期化(リセットチャンス)】と言うスキルがある。それゆえドワーフの国でかけられた呪いをスキルで解く事が出来たので逃げたのだ」


「うわ、マジか。最低だな」


「むむ、それより前を見よ!」


「は? ――っぶな」


 前を見た瞬間にサソリが迫って来ているのが見えて、わたしは間髪入れずに短剣を振るって真っ二つにする。


「って言うか、貴方って強かったよね? 何で戦わないの?」


「武器を持っておらぬ。刀も銃も何も無いのだ」


「魔法くらい使えるでしょ?」


「それは何かあった時の為にとっておこうと」


「その何かあった時が今でしょうが!」


「むむ……確かに」


 頭が痛くなってきた。

 あの時、バーノルド邸で戦った時は苦労させられたってのに、まさかこんな馬鹿な奴だったなんてって感じだ。


「しかし、オーク殿と約束したのだ。今後、無暗な殺生はしないと」


「オーク? って、もしかしてマッサージ店の店長?」


「知っておるのか? あやつはそれがし……拙者せっしゃの兄弟分。昔酒を交わし、兄弟の契りを結んだ同志。オーク殿は今も昔も変わらぬお人好しで、二つの国に追われる拙者を助けてくれたのだ」


「はあ……」


 わたしはそれだけ呟いて、わたしに襲いかかろうとしていたサソリ一匹を真っ二つにした。

 そう言えばオークとチュウベエの話し方が似てるな。なんて思ったりもしたけど、今はそんな事はどうでもいい。

 聞いてもいないのに、何だかどうでもいい情報を入手してしまった。

 と言うか、あまりにも衝撃的な嫌な再会のおかげで、いつの間にか吐き気や気持ち悪さが治まっていた。


「貴方の事情はどうでもいいけど、状況見れば分かる通り結構ヤバいんだから戦ってよ」


「どうでもいいとは手厳しい。が、その話は乗るとしよう」


 チュウベエが手に魔力を集中させて、目の前に茶色の魔法陣を浮かび上がらせる。

 そして、魔法陣から木刀ならぬ石刀が飛び出して、チュウベエはそれを手に取った。


「憎きさそりどもを、この石刀のさびにしてくれるわ」


「そういうの出来るなら最初からやれ!」


 わたしとチュウベエが左右に別れてサソリに斬りかかる。

 とにかく今はこの状況を何とかしないといけない。

 ラヴィだけじゃなく、メソメも水の網の魔法でサソリの動きを封じてくれている。


 サソリを何度も斬り裂いて、わたしが次のサソリを斬り払おうとした時だ。

 ポイズンアリゲーターが本物のワニの様に地面にい、わたしに向かってもの凄いスピードで走ってきた。

 そのスピードは凄まじく、わたしは焦って後退する。


 瞬間――わたしの目の前にいたサソリの体が、何かに食われたようにえぐられる。

 それはあまりにも突然で、決してポイズンアリゲーターに食われたわけではなく、本当に突然抉られたのだ。

 何が起きたのか分からなかったけど、その瞬間をラヴィが見ていたようだ。

 ラヴィがわたしの隣まで移動してきて、ポイズンアリゲーターに視線を向けながら緊張した面持ちで話す。


「愛那、気をつけて。ワニがサソリの影に噛みついたら、サソリの体が食べられた」


「マ!? ワニに影を食べられたら本体も食べられるって事!? ヤバすぎでしょ!」


 何かあるとは思っていたけど、【影食い(シャドウイート)】と言うスキルがヤバすぎる。

 影が食べられない様に戦うなんて、戦闘の素人が出来るようなものじゃない。

 わたしは焦り、緊張で唾を飲み込んだ。


「ならば、拙者が相手しよう」


 焦ったわたしを見て、チュウベエが石刀を上段に構えて前に出る。

 そして、一気にワニとの距離を詰めて、石刀を振り下ろした。

 だけどワニの方が速かった。


「――っくう!」


 チュウベエの横腹、影がワニに食われる。

 一瞬にしてチュウベエの横腹か抉られて、チュウベエは血反吐を吐いて膝をついた。


 不味い!


 わたしはスキル【必斬】を短剣に乗せて、ワニに向かって横一文字に振りきる。

 瞬間――ワニに向かって斬撃が飛び、ワニを真っ二つに――出来ない。

 ワニにわたしの斬撃が届くより先に、大量のサソリが肉の壁となって斬撃を防いでしまった。


 威力が弱い。

 実力不足だ。

 でも、今はそんな事よりも!


 気持ちを切り替えて、直ぐにチュウベエを助けようと視線を向ける。


「マナ殿、気をつけられよ。奴は思った以上に素早い」


「うん。って、あれ? 傷……は?」


「む? 横腹の傷は【一度限りの初期化(リセットチャンス)】で無かった事にしたまでよ」


「ああ……。そう言うのもありなんだ」


 チュウベエの横腹は、着ていた服も含めて綺麗さっぱり元に戻っていた。

 どうやら、チュウベエのスキル【一度限りの初期化(リセットチャンス)】はかなり優秀らしい。

 あの時の戦いで使われなくて良かった。

 と言うか、何であの時に使わなかったのか疑問が残る。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。


「しかし、次は無い。拙者のスキルは最初の一度だけ。二度目は無い」


「成る程。それなら貴方を盾にして戦うって選択肢は無いって事か」


「お主、小童と思って油断出来ぬわけだ。中々に恐ろしい事を言うな」


 チュウベエが冷や汗を流して、わたしに呆れるような視線を向ける。

 それを一瞥してから、わたしはサソリの死骸の向こう側にいるワニに視線を向けた。


 いつまでも呑気に話している場合でも無い。

 サソリの数は減ったと思っても次々に増えてくる一方だった。

 緊急脱出口には出入口が3つある。

 わたし達が入って来た一般的な出入口と、潜水艦用の出入口と、甲板まで一直線で通じる非常口。

 そして、その非常口の扉が破壊されていて、そこから次々とサソリが入ってきていた。


「きゃあああっっ!」


「――っメソメ!」


 メソメの悲鳴が聞こえて振り向くと、ダンゴムシが端っこまで追い詰められていて、ダンゴムシに乗っていたメソメと一緒にサソリに囲まれてしまっていた。


 この距離!

 間に合え!


 わたしは急いで短剣を振るう。

 スキル【必斬】を乗せた斬撃が、メソメとダンゴムシを囲むサソリに向かって飛翔する。

 だけど、駄目だった。

 あまりにも多いサソリの数に邪魔されて、メソメとダンゴムシを囲むサソリに届くまでに他のサソリに当たり斬撃が消えた。

 だけど、それでも意味はあった。


 わたしの斬撃がサソリを斬り裂くと、そこをラヴィが駆け抜けてメソメ達を囲むサソリの背後に接近する。

 瞬間――ラヴィが魔法で大きな氷のつちを出現させて、それを豪快に横払いしてサソリを一掃した。


「良か――っ!?」


 ラヴィのおかげでメソメが助かってホッとしたその時だ。

 突然船が大きく揺れて、緊急脱出口の床の中心が大きく盛り上がる。

 そして、盛り上がった中心から熱気が伝わり、黄色と赤色を帯びて更に膨れ上がって、高熱を帯びた一本の光の柱が飛び出した。


「きゃああああっっ!」


 わたしや乗客、そこ等中の人々が悲鳴を上げて、その凄まじいまでの勢いで吹っ飛ばされる。

 光の柱はサソリも人も巻き込んで、そのまま天井を突き破って消え失せた。

 周囲は鉄の焼けた臭いや生物の焼けた臭いが入り混じり、とてつもない異臭を漂わせ、視界も煙で見えなくなった。


 ただでさえ最悪な状況だったのに、事態は更に悪化する。

 突然訪れたわけのわからないこの状況下で、それでも生き残ったサソリ達は容赦なくわたし達を襲い出した。

 視界は煙に塞がれて見えなくて、サソリに襲われている人の悲鳴がこの場に響く。


「ラヴィ! メソメ!」


 わたしは2人の名前を叫んだ。

 焦りがどんどん膨れ上がっていく。

 2人は端っこにいたから、さっきの光の柱には巻き込まれていない筈。

 だけど、この視界の悪さでサソリに襲われでもしたら、どうなるかなんてわからない。


「マナちゃん! 私とラヴィーナちゃんは無事だよ! 今、ラヴィーナちゃんがロポちゃんの傷を治してる!」


 メソメの声が聞こえた。

 さっきの衝撃でダンゴムシが怪我をしたのかもしれないけど、とりあえずは皆無事らしい。

 とりあえず一安心…………なんて思ってる場合でも無い。


「マナ殿、無事か?」


「うん、そっちも無事だったみたいだね」


 チュウベエも無事だったようで、わたしの隣に立った。

 それにしても、まさかチュウベエに心配されるとは思わなかった。

 なんて事も考えている場合ではない様だ。

 わたしが返事をすると、チュウベエが何処か焦った様な表情を見せて、深刻な面持ちで話す。


「不味い事になった。先程の光、船の下から放たれたものだ。直ぐに船が沈む」


「――っうそでしょ!?」


 次の瞬間、海水が船内に流れ出す音が聞こえた。


「今って、毒の海にいるんだよね? これってかなりヤバいんじゃないの? 早く潜水艦に――」


 天井に穴が空いたおかげで煙は薄くなって、周囲の状況が見えるようになっていた。

 だからこそ、だからこそわたしに非情な現実がつきつけられてしまった。

 早く潜水艦に乗らないと。と、言おうとしていたわたしが見たのは、もうその手段が使えないと言う現実。

 潜水艦はさっきの光の柱の影響で大破して、潜水艦内がむき出しになるほどに破損していたのだ。


「どうすんのよ、これ……?」


「愛那、甲板に行こう」


 大破した潜水艦を見て、若干放心状態に陥ってしまったわたしの目の前にラヴィが来て言った。

 ラヴィはまだ諦めていない。

 相変わらずの虚ろ目は、わたしと違ってしっかりと力強く前を見ていた。

 それを見て、わたしは真剣な面持ちで頷く。


「そうだよね。まだ諦めるには早い」


 船は傾き、かなり状況は不味い事になっている。

 光の柱が開けた天井の穴から逃げ惑う人や、必死に抵抗する護衛騎士。

 逃げる人達を襲うサソリ達、次の獲物に狙いを定めようとしているワニ頭。

 この場所も既に浸水は始まっていて、最早一刻の猶予も無い。


 わたしはラヴィとメソメとダンゴムシ、それからチュウベエと一緒に、甲板へと向かった。

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