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116 食料問題

 間違えて乗り込んでしまった船でラヴィと再会して、ラヴィから既に港に戻れない程に船が進んでいる事を教えてもらった。

 このままだと密航になってしまうし、色々と問題だと言う事で、直ぐに事情を説明しに船の責任者の許へ向かった。

 責任者は最初ダンゴムシに驚いていたけど、事情を説明すると「このまま船の外に追い出すなんて出来ないし、仕方が無いから特別に乗船を許可してあげるよ」と言ってもらえた。


 そんなわけで、船に乗せてもらえる事になったので、船の説明を受ける事にした。

 デリバーさんの船と違い、この船の船室は四人部屋のみ。

 基本3人以下の乗船だと相部屋になるらしい。

 1人で一つの船室を使うのなら、1人で4人分の支払いをする必要があるようで、殆どの人は知らない人と長い船旅を過ごすのだとか。

 知らない人とだなんて危ないんじゃとも思ったけど、男女で部屋は別々にするから、鍵かけすれば安全だと言われた。

 食堂は広く、パーティー会場までついていた。

 結構な豪華客船と言った所だろうか?

 わたしは少しだけ場違い感を覚えた。

 それから、船の護衛は冒険者ではなく専用の護衛騎士が6人同乗していて、二人一組の3組に別れて、朝昼晩の8時間ごとに交代して船の安全を護るようだ。


 説明を終えると、客室まで用意してもらえて、お礼を言って客室に向かって今は休憩中。

 わたし達は3人と一匹だからと言う事で、3人と一匹で一つの部屋を使わせてもら得る事になった。

 船室に炭酸水が置いてあって、自由に飲んで良いらしいので、椅子に腰かけてそれを飲んだ。

 責任者の人が良い人で本当に助かったと思いながら、わたしは一息つくと、ラヴィとメソメに頭を下げた。


「ごめん、わたしが勘違いして2人を巻き込んだ」


「問題無い。次の港で乗り換えればいい」


「うん。元はと言えば私が1人で走って皆から離れたのが原因だし、マナちゃんは悪くないよ」


「……2人とも、ありがと」


 頭をあげると、ラヴィが首を左右に少しだけ振って口角を上げた。


愛那まなは悪くない。デリバーが今朝同じ種類の船が入港したって言ってた」


「同じ種類……だからか」


「そう。だから皆で待ってた。私は偶然海を見ていて、愛那が船に乗った所を見た。皆に知らせに行こうと思ったけど、船の速度が速かったから船を追いかけた」


「そっか、ありがと」


「いい。それより、愛那とメソメとロポが無事で良かった」


 ラヴィが再度口角を上げて、メソメも微笑み、ダンゴムシが触角を左右に揺らした。


「あの時の事、言わないとだよね」


 メソメがそう呟いて、真剣な面持ちを見せる。

 あの時と言うのは、メソメが1人で走り出した時の事だろう。

 メソメの顔は真剣で、そして何処か寂し気だった。


「あの時、お父さんの姿が見えたの。それで追いかけたんだけど、人が多くて見失っちゃった」


「見間違いじゃなくて、本当にお父さんだったの?」


「……分からない。でも、見間違いじゃないと思う」


「そっか。……メソメ、リングイさんの所に行った後、一緒にお父さんを捜そうよ」


「え? でも……」


「私も協力する」


「ラヴィーナちゃん……」


 メソメが瞳をうるませる。

 すると、ダンゴムシがメソメにすり寄って、触角でちょんちょんとメソメに触れた。


「みんなありがとう」


 メソメは笑顔で涙を流し、わたしとラヴィは微笑んだ。

 そうと決まれば今から計画を立てよう、と言う事になり、お姉達と合流した後の事を皆で考えた。







 オカリナを出港してから早くも1週間が経った。

 船旅は今の所とくに何か問題が起こる事も無くて、結構毎日が平和だった。

 何度か魔従まじゅうと呼ばれるモンスターの襲撃を受けたけど、護衛騎士の6人が強くて問題無く撃退していた。

 とは言え、実は少し困った事があった。


 わたしとメソメ、それからラヴィは急いでこの船に乗った。

 だから、荷物が殆ど無い。

 と言うのも、実は最初から乗る船が分かっていたので、デリバーさんの船に乗せていた荷物を、全て本来乗る予定だった船に積んでしまっていたのだ。

 おかげでわたしの今の持ち物と言えば、カリブルヌスの剣と短剣とシュシュとステチリングと今着ているいつもの服。

 他の荷物は全部ランドセルと一緒に置いて来てしまった。

 ラヴィとメソメも似たようなもので、着替えすら出来ない状態だった。

 唯一の救いと言えば、お金は常に持ち歩いていたので、この船にあったお店で下着やらが買えた事。

 洗剤も売っていたので、何とか清潔は保てていた。

 でも、一つだけ問題が起きていた。


「ダンゴムシの餌が無い?」


「そう。昨日の魔従に家畜用の餌の倉庫が襲われた」


「それでね、船の人がモンスターに餌をめちゃくちゃにされて、もう殆ど残ってないって言ってたよ」


「……はあ」


 ダンゴムシの餌なんてどうでもいい。

 と言いたい所だけど、そんなわけにもいかない。

 わたしは虫が苦手だけど、それは死んじゃえとか絶滅しろだとか、そんな風に思っているわけじゃない。

 虫だってわたし同様で生きてるんだし……って、まあ、それは今は置いておくとしよう。


 この船の責任者に相談をして、運んでいた家畜用の餌をダンゴムシに食べさせていた。

 そしてそれが昨日のモンスターの襲撃で大量に無くなってしまったらしい。

 一応このダンゴムシは草食なので、わたし達が食べる野菜なんかも食べられるには食べられるけど、少し問題がある。

 元々わたし達はこの船に乗船する予定の無かった人間で、ダンゴムシももちろん予定になかった。

 でも、わたしとラヴィとメソメは子供だし、そんなに食べないからまだ良かった。

 だけど、ダンゴムシは結構食べる。

 体が大きいのもあって、本当に沢山食べるのだ。

 少なくとも、申し訳なくてダンゴムシの分の餌はお金を払っている程に。

 問題はここからだ。

 今まで払っていたのが家畜用の餌、つまり草の代金を支払うだけだから安くすんで良かったけど、これがわたし達と同じ野菜となると話は別になってくる。

 手持ちのお金は銅貨18枚。

 この船の1人当たりの一日分の食事代が銅貨7枚。

 そして、この船の目的地である港町までは残り22日。

 わたしとラヴィとメソメの食事はお金を免除してもらってるから、気にしなくて良い。

 ダンゴムシの食事で野菜だけをわけてもらったとして、1日銅貨1枚で済んだとしても絶対にお金が足りない。


「船の人に頼んで、ロポちゃんのご飯……お野菜をどうにかして安くして売ってもらえないかな?」


「元々ロポのご飯は港までギリギリの計算だった。これ以上は迷惑」


「だねえ。港に着いたらそこ等辺で草を大量に確保して、次の船に乗ろうとしてたけど考えが甘かったかあ」


「ロポちゃんがお魚を食べれたら、お魚を釣ってご飯に出来たのに……。ロポちゃん、お魚じゃダメだよね?」


 メソメがダンゴムシに質問すると、ダンゴムシは触角をらした。


「魔法」


「魔法?」


 不意にラヴィが呟いて、わたしは繰り返して聞いた。

 すると、いつもの虚ろ目がキラリと光り、ラヴィは口角を上げた。


「乗客の中に生物魔法が使える人がいないか捜す」


「生物魔法を使える人? えっとお、どうして生物魔法を使える人を捜すの?」


「生物魔法は植物を生み出せる魔法がある」


「あっ、そっか」


「成る程ね。魔法で草を作って貰うのか。それ、良いかもね」


「うん。ラヴィーナちゃん賢い」


 メソメに褒められて、ラヴィが少し頬を赤らめる。

 ダンゴムシもラヴィの提案が嬉しいのか、ラヴィにすり寄って触角を左右に揺らし、ラヴィはダンゴムシを優しく撫でた。


 魔法を使える人捜しは護衛騎士から始まった。

 理由は生物魔法が上位魔法だからだ。

 上位の魔法はかなり難しく、使える人が殆どいない。

 どちらかと言えば、上位魔法は戦闘方面で実力のある人が使える可能性が高い。

 と言うわけで、護衛騎士に聞き込みする事になった。


「生物魔法? 悪いがうちの団員にはいないよ。だいたい上位の魔法なんて使えたら、船の護衛騎士なんてやらんだろうな」


 駄目だった。

 護衛騎士の団長からこの後教えてもらったけど、上位なんて言う強力な魔法が使える騎士は、基本もっと別の、例えば王族や貴族の護衛をするらしい。

 と言うわけで、ついでにこの船の乗客に上位の魔法が使える人がいない事まで聞いてしまった。


 落ち込むラヴィとメソメを連れて船室へと戻ると、ダンゴムシが明るく? わたし達を出迎えた。

 ダンゴムシに食料問題が解決できなかった事を話すと、やっぱり言葉が解かるのか、悲しそうに触角を垂らした。


「振り出しに戻っちゃったけど、どうしようか?」


「困った」


「うん、何か良い方法はないのかな……?」


 ダンゴムシが落ち込んでいるラヴィとメソメを元気づけようとしているのか、その大きな体で2人の頬を撫でた。

 すると、ラヴィは少しだけ口角を上げて、ダンゴムシを優しく撫でる。


「ありがとう」


 ラヴィがダンゴムシにお礼を言うと、ダンゴムシが触角を左右に揺らして、体をくねくねとさせた。

 それを見て、ラヴィが首を横に振った。


「手伝いはいらない。ロポはここにいて」


 どうやら、ダンゴムシは手伝うと言いたかったらしい。

 ダンゴムシの言いたい事なんてよく分かったなと、ラヴィに感心する。

 と、そこで、メソメが何か思いついたのか、顔の表情を明るくさせて両手をパチンと合わせた。


「そうだよ。ねえねえ、私達で船のお手伝いするのはどうかな?」


「船のお手伝い……そっか。働いてダンゴムシの餌を貰えばいいんだ」


「うん。あそこでメイドさんしてたんだもん。きっと上手くいくよ」


「私も頑張る」


 ラヴィはメソメからよく奴隷……と言うか、メイドだった頃の話を聞いていて、それで興味を持ったのか、メイドと聞いてやる気を出した。

 とにかく、まずはこの船の責任者に話をしないといけない。

 わたし達はダンゴムシにいってきますをして、善は急げと責任者の許へ向かった。

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