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113 海ではナンパに気をつけよう

 港町オカリナに辿り着く頃、事件は起きた。

 いや、正確には魔従まじゅうに襲われた時に起きていた事だった。

 港町オカリナに辿り着く前に、モーナが「ロポがいない!」と騒ぎ出した事から、それは判明した。


 ダンゴムシがいない理由。

 それは、ラッコリラと血珊瑚ブラッドコーラルの襲撃を受けた事に繋がっていた。

 この時、わたし達が知らないうちに船底に穴を開けられていた。

 それをダンゴムシが見つけて、身を丸くして穴をふさいでくれていたのだ。


 今までわたし達が気がつかなかったのは、幾つか理由がある。

 ラヴィの体調がよくならなかった事。

 お姉がわたしと一緒にラヴィにつきっきりになっていた事。

 モーナは兵隊長とドンナさんに「強い」とおだてられて、ドヤ顔で海上の警備活動をしていた。

 ダンゴムシは子供達から謎の人気があったけど、元々お姉とラヴィとモーナだけで面倒を見ていたから、いなくても誰も疑問にも思わなかった。

 そもそも、ラヴィが寝たきりだったので、みんなラヴィの側にいると思っていたらしい。

 そんなわけで、ダンゴムシがまさかそんな事になっているなんて、誰も想像つかなかったわけだ。


 まあ、ダンゴムシの話はどちらかと言うと、わたしからしたらどうでもいい。

 そんな事より、船底に穴が空いてしまっていた事の方が問題だ。

 デリバーさんが言うには、港町オカリナは元々造船所のある港町だけど、わたし達が乗っていた船は特別で材料がないらしい。

 材料さえあれば直ぐに直せるけど、現状ではどうにもならないとの事だった。

 とは言え、不幸中の幸いと言うべきか、オカリナは造船所のある港町。

 そして、船の乗り換えが出来るそうなので、わたし達は乗り換えで次の目的地に向かう事になった。







「海が綺麗ですねー!」


 お姉が砂浜で海を眺めながら叫んだ。


 港町オカリナに到着すると、乗り換えは明日の朝に出港する船でとなり、自由行動になった。

 ここが造船所のある港町だったおかげで、大きな船も沢山あって、思いのほか簡単に乗船可能な目的地域行きの船を見つける事が出来たからだ。

 それに、次に乗る船でもデリバーさんの計らいで、デリバーさんやドンナさんを含めた冒険者が同乗してくれる事になった。

 おかげで心配事もないので、折角だからと遊ぶために砂浜にやって来た。


 わたし達の格好はもちろん水着。

 近くに水着を売っている売店があったので、そこで買って早速着替えた。

 わたしはヒラヒラの付いた水色のワンピース。

 お姉は紐の付いたピンクのビキニ。

 ラヴィは白のフリルビキニ。

 モーナはいつもの黒のビキニ。

 メソメは青のワンピース。

 他の子供達は造船所の見学に兵隊長達と行っている。

 ドンナさんや冒険者は宿で休憩すると言っていた。

 デリバーさんは明日の準備と、船の修理の依頼だ。


 砂浜で遊ぶ子供達や海で泳ぐ人、それに日光浴をしている人達がいて、砂浜はそれなりに盛況だった。

 お姉ははしゃいで海に向かって走り出し、モーナはデカい魚を捕って来ると走り出し、ラヴィとメソメは砂のお城を作り始めた。

 わたしはとりあえずお姉の後を追いかけようとしたけど、お姉が魚人に早速ナンパされてしまった。


「君、見たところ獣人にも魚人にも見えないけど、何の種族なの?」


「私ですか? 私は……お猿さんの獣人です」


 勿論嘘だ。

 わたしとお姉は珍しい黒い髪の人間。

 今後の為にも、念の為にお姉に猿の獣人と言ってほしいとお願いしたのだ。


「へ~、ここ等辺じゃ見ないよね。観光?」


「いえ。船にトラブルがあって、たまたま来たんです」


「そうなんだ? それならさ、今から俺と一緒に――」


「行きません。さようなら」


 ナンパ男がお姉を誘う前に、わたしは2人の間に割り込んでナンパ男を睨んだ。


「何この子? もしかして君の妹ちゃん?」


 ちっ。

 まだ粘るか。


「はい、可愛かわい――」


「貴方に教えるような者ではありません。さようなら」


「やっぱ妹じゃん。可愛いね」


「お姉、行こ」


愛那まなちゃ――」


 全然引き下がる気配がないので、ウザくなってお姉の腕を掴んで歩き始める。

 するとその時、ナンパ男の仲間らしき魚人の男が3人近づいて来て、ナンパ男に「おーい」と言って手を上げた。


「おっ。いい所に来た」


 面倒な事になったな。と、わたしは思い嫌気がさした。

 どうせこいつ等はお姉の体目当てだ。

 さっきからこのナンパ男の視線がお姉の胸にばかりいってるから間違いない。

 と、そんな事を考えている内に、わたしとお姉はナンパ男4人に囲まれてしまった。


「へえ、可愛いじゃん」


「うっひょお。大物じゃねえか。なんの獣人?」


「猿だってさ。俺、猿の獣人の子初めて見たけど、人間とあんま変わらないし尻尾も無いんだな」


「名前なんて言うの?」


「言う必要ありません。あっち行ってください」


 誰がお姉の名前を教えてやるもんか。

 さっさとどっか行け。


「その子マナちゃんだってさ」


「はあ? 違います」


「でもさっきマナちゃんって」


「愛那はわたしの名前で、お姉の名前じゃないです」


「ほら、やっぱりマナちゃんじゃん」


「は?」


 これは流石に予想外だった。

 聞かれたのがお姉の名前ではなく、わたしの方だったなんて思うわけない。

 まさか、こっちのナンパ男はロリコンか? と、わたしは顔をしかめて睨んだ。

 するとその時、またもや「よお、お前達。ナンパでござるか?」と別の男の声がした。


 なんなのさっきから、どんだけ増えれば――――へ?


 新たに来たナンパ男に視線を向けて驚いた。

 その男は、魚人ではなく豚の獣人だった。

 いや、正確には豚の獣人ではない。

 と言うか、漫画やアニメやゲームで見た事のある【オーク】の様な見た目の男だった。

 わたしの目に映ったそのオークの様な男は、体重が100キロは越えてそうな太い体に海パン姿だった。


「店長、見て下さいよ。店長好みの女の子を見つけましたよ。早速連れて行きましょうよ」


 はあ?

 まさかこいつ、お姉をどっかに連れて行こうとしてたの!?


「なんと!? 確かにこれは拙者好みの幼女でござるな。でかしたでござる」


「幼女……って、わたし!?」


 思わず声を出してしまった。

 すると、ナンパ男4人から、何を今更とでも言いそうな表情を向けられた。


「待って下さい! 愛那ちゃんは私の大事な妹です! 貴方達の様な人には渡しません!」


「お姉……」


 お姉がわたしを護るように前に出て両手を広げた。

 すると、お姉の胸が激しく揺れたらしく、オークの様な男意外の4人……いや、3人がお姉の胸に注目してごくりと唾を飲み込んだ。

 オークの様な男と、店長好みの女の子とオークの様な男に言っていた男は、お姉ではなくわたしを視界に入れている。

 正直背筋に悪寒が走っていた。

 本気で視線が気持ち悪い。


「ねえ、お嬢ちゃん。俺がマッサージしてあげるから、今からあっちにある建物の中に行かないかい?」


「ひっ」


 オークの様な男じゃない方が、手を怪しくわきわきと動かしながらわたしに迫る。

 それを見て、お姉が眉根を上げて、わたしを庇おうと抱きしめてくれた瞬間だった。

 突然オークの様な男が、その男を殴り飛ばす。

 殴られた男は豪快に吹っ飛んで砂浜を転がって、そのまま海水にダイブして尻だけを海水から出して倒れた。


「ばっかもおおん! 幼女を怖がらせるでないと、いつも言っているでござるぞ!」


 オークの様な男はそう叫び、わたしに振り向いて笑顔を見せる。


「拙者の店の従業員がとんだ失礼をしてしまい申し訳ないでござる。拙者はオーク。とあるマッサージ店の店長をしている者でござる。皆の者から店長と呼ばれてるが故、是非“パパ”とお呼びして下され」


「あっ! ずっりいんだ店長! 自分ばっかいいカッコして“パパ”なんて呼ばせようとして! 俺だって幼女に“お兄ちゃん”って呼ばれたい!」


 海水に尻だけ出して倒れていた男が立ち上がって、文句を言いながら戻って来た。

 そして、何やら気持ち悪い言い合いを始めてしまった。

 つっこみどころ満載な言葉の数々だったけど、わたしは今それどころじゃなかった。

 2人を見て、と言うか話を聞いて、わたしはドン引きしてしまっていた。

 もう言葉も出ない。

 なのにこんな時、砂のお城を作っていたラヴィとメソメが、わたし達の騒ぎを聞きつけて来てしまった。


「愛那、どうしたの?」


「マナちゃん、この人達……だれ?」


「あっ。2人はこっちに来ちゃ――」


「幼女の追加……だと?」


「ぶひいいいいいいいい! 幼女追加はいりましてゅぁあああああ! デュフフ。胸が高鳴るでござる!」


「――ひぇっ」


 引く引かないではなく、最早怖かった。

 わたしはこの変態2人に怯えて、ラヴィとメソメを連れて、ついにお姉の後ろに自ら隠れてしまった。


「ほらあ、店長たちは興奮するとキモいんですから、ちょっと黙ってて下さいよお」


「だまらっしゃい! 拙者は紳士。悟りを開いた仙人のようなもの。拙者の文字に、キモいと言う俗っぽい言葉などないでござる」


「気持ち悪い」


 そんな直球を口走ったのは、わたしが背後に隠したラヴィだった。

 ラヴィはいつにも増して虚ろ目な目でオークを見て指を差した。


「気持ち悪い」


「ぐはああっっ!」


「「「店長ぉおおおおおおおおおっっ!!」」」


 ……なんなのこの人達?


 ラヴィに2回も「気持ち悪い」と言われたオークは、吐血してその場で倒れた。

 最早、わたしはこのノリについていけなかった。

 わたしだけじゃない。

 メソメもよく分からないなりにドン引きしていて、ラヴィの虚ろな目の奥底にも、関わりたくないと言う思いが詰まっていた。

 だけど……。


「ラヴィーナちゃん! あんまりです! 気持ち悪い人に気持ち悪いって本当の事言っちゃ駄目なんですよ! 哀れで可哀想です!」


「気持ち悪い」


 何故かお姉だけがこの謎なノリについていけていた。

 と言うか、今言ったお姉の言葉とラヴィの追加の「気持ち悪い」でとどめをさして、オークが追加で吐血して白目をむいた。


「「「店長ぉおおおおおおおおおっっ!!」」」


 いや、ホント何これ?

 関わりたくないんだけど?

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