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108 お風呂場の決闘

「リングイさんの孤児院の場所が分かったって本当ですか!?」


 オリハルコンダンゴムシを連れてドワーフ城に戻って来たわたし達の耳に入ったのは、そんな嬉しい情報だった。

 城門で門番の人に教えてもらって、わたしは急いでサガーチャさんのいる研究室に向かい、そして今勢いよく扉を開けて大声を出したのところだ。

 王女様に対して失礼な態度ではあったけど、今のわたしの頭の中は孤児院の事しか入っていなくて、そこ等辺の礼儀が無くなっていた。

 だけど、サガーチャさんは寛大で心の広い器の大きい王女様。

 とくに気にした様子もなく、わたしと目がかち合うとニマァっと笑みを浮かべて、楽し気に口を開いた。


「その分だと走って来たのかな? お疲れ」


 サガーチャさんはそう言うと、わたしに紅茶をれてくれた。


「あ、どうも」


「孤児院の件は本当だよ。リングイ=トータス……彼、いや。彼女だったね。彼女の孤児院は【海宮かいきゅう】と言う名前の孤児院の様だよ」


「海宮……ですか」


「そう、海宮。これ程早く見つけ出せたのは、マナくんが水の都フルートと教えてくれたおかげだよ。それに、リングイ=トータスは男ではなく女。それを踏まえて情報を探したら、驚くほど簡単に見つかったんだ」


「そっか。男だと思っていたら、それっぽい情報を手に入れても、女って時点で無しになるんだ」


「その通り。彼女はそれも含めて男と名乗っているのかもしれないね」


「そうですね。男と名乗ると都合がいいみたいな事を言っていたような気もします。怖がられる的な意味だった気もしますけど」


「ははは。面白いね。まあ、とにかくだ。彼女の経営する孤児院の場所は分かった。それに条件も大丈夫そうだし、明日にでも行ってもらいたい。勿論、既に手紙は出しておいたよ。急に行くのは礼儀に反しているからね」


「ありがとうございます。……あの、ちょっと気になったんですけど」


「なんだい?」


「条件って何ですか?」


「ん? ああ。彼女の孤児院では女の子しか引き取ってもらえないみたいなんだよ」


「あー……」


 随分前の事だからそこ等辺の事は殆ど忘れているけど、リングイさんのあの感じを考えれば頷ける。

 普通だったら何故? なんて思うかもしれないけど、そうだろうな。って感じだ。


「明日か」


 呟いて、研究室の窓から時計塔を見た。

 既に時間は夜の8時を過ぎていた。


「急な話ですまないね」


「いえ。出来るだけ早い方が良いですし、本当に助かります」


 わたしが慌ててそう言うと、サガーチャさんが微笑した。


 サガーチャさんと一緒に城に戻る事になった。

 そして、まさかの地下通路を見せてもらい、驚くほど早く城の中に戻って来た。

 王族のみが使える隠し通路らしくて、急ぐ場合や歩くのが面倒な時は使っているらしい。


 お姉達が少し遅い夜ご飯を食べると言っていたから、早めに明日の事を伝える為に、いるであろう食堂に向かう。

 サガーチャさんも食事がまだと言っていたから連れて行く事にした。


「そう言えばマナくん、シュシュの具合はどうだい? 魔力欠乏症が治るまでは役に立ちそうかな?」


「はい。凄く助かってます。ラヴィに魔力をシュシュに入れてもらって、その魔力で今日も魔石が使えました。これなら魔法が使えなくても、魔石を持ち歩けば困らなそうです」


「それは良かった。まあ、残念ながら装備する本人が魔力を持っていないと、自動でサポートする機能が使えないから、そこは私の力不足で申し訳ない」


「いえいえ。魔力が無い状態で、魔力を使わないと使えない魔石が使えるだけで十分です。それに、思考を読み取ってシュシュの中にある魔力を使えるシステムって時点で、わたしから見たら凄すぎて力不足じゃなくて役不足って感じです」


「ははは、ありがとう。役不足か……そう言えば、この間モーナスくんが彼女(・・)に手紙を書いていたな」


「彼女?」


「そうだね。魔力欠乏症について調べると言っていたから、その事かもしれないよ?」


「そうですか」


 彼女って誰だろう?

 そう言えな、ダンゴムシに“リリー”って名前つけようとしたら怒ってたな。

 彼女って“リリー”って人なのかな……って、別にどうでもいいか。

 そうそう。

 モーナが誰を好きかなんて関係ないし。

 もうあんな奴絶交したし。


 食堂に辿り着いて中に入ると、そこは勢揃いだった。

 お姉、モーナ、ラヴィ、メソメ、クク、フープ、カルル、ペケテー、モノノ、ポフー、グランデ王子、とダンゴムシ……。

 ダンゴムシをこんな所に入れたら駄目だろ。と言いたかったけど、この国の王子様のグランデ王子がダンゴムシの丸い背中を撫でているから何も言えない。

 一応サガーチャさんの反応が気になったので視線を向けると、目を輝かせていた。


「かなりの希少種で滅多に見れないオリハルコンロリポリじゃないか! しかもそんなに大きいオリハルコンロリポリなんて驚きだよ! こんなに大きいオリハルコンロリポリなんて存在していたのかい!? これは凄い事だよ! いったい誰が連れて来たんだい!?」


 大絶賛だった。

 そんなに凄いのかこのダンゴムシは。

 ただの巨大な虫じゃないかと言いたくなる。


「ロポちゃんです。私と愛那まなちゃんの愛の結晶です」


「愛の結晶?」


「愛那になついて、瀾姫なみきが名付けて連れて来た」


「へえ、そうなのかい? 素晴らしいね」


「そう、愛那は凄い」


 ラヴィが心なしか誇らしげにわたしの事を褒めてくれるけど、わたしとしてはダンゴムシに好かれるなんて本気で嫌なので喜べない。

 それに、ラヴィだけは味方してくれると思ったのに軽くショックだ。


 何はともあれ、わたしとサガーチャさんも食事をして、皆に明日からリングイさんの孤児院に向かう事を話した。

 そして、ククとフープとカルルとペケテーとモノノとポフーの6人とは明日で最後の別れになるので、お姉の提案で最後に皆でお風呂に入る事になった。

 その時、グランデ王子が「も一緒に」と言いだして、サガーチャさんに睨まれて顔を引きつらせて逃げて行った。

 そんなわけで、今日は最後に皆でお風呂だ。となったのだけど……。


「私は疲れたから後で1人で入るね」 


「へ? それなら、わたしもメソメと一緒に入るよ。まあ、わたしもメソメと一緒にリングイさんのとこ行くけどね」


「ううん、マナちゃんは皆と一緒に入ってあげて? マナちゃんとお別れするのが、皆一番悲しいだろうから」


「そんな事ないと思うけど……」


 呟きながら、わたしは思いだしていた。

 実はと言うか、メソメは今まで誰とも一緒にお風呂に入った事が無い。

 皆で入ろうと言う話になっても、いつも1人だけで入ってしまうのだ。

 何でかは分からないけど、人には言えない秘密があるか、それとも恥ずかしいのか。

 メソメの性格を考えるとどっちもありえるし、理由は聞けなかった。

 恥かしいからとかなら良いけど、体の何処かに大きな傷痕だとか火傷痕だとかの秘密があったら、絶対に他人がふれちゃいけない事だ。

 だから、わたしは深く詮索しない事にしているし、今回も同じ様にするのが一番だ。


「分かった。じゃあ、休んでからゆっくり入ってね」


「うん、ありがとう」 


 メソメと別れて風呂場に向かい、先に行っていたお姉達と脱衣所で合流して服を脱ぐ。

 ダンゴムシはグランデ王子と一緒らしい。

 流石に虫だからお風呂には一緒に来ないかと安心していたけど、虫だからってわけではなかった。


「ロポちゃんは男の子だったんです」


「……は?」


「ロポはオス。愛那を追いかけてたのも頷ける」


「いやいや、頷けない頷けない」


「ロポちゃんは紳士です」


「偉い」


「ええー…………」


 しかしそうか……オスか。


 そんなわけで、オスだから一緒にはお風呂に入らないとの事だった。

 ならメスだったら一緒に入るのかって思うと寒気がした。

 と言うかだ。

 聞きたくないのに聞いた所、ダンゴムシはこの後グランデ王子と一緒にお風呂に入って、グランデ王子に背中を流してもらうらしい。

 一国の王子に背中を流させるって、どんな虫だよ。って思ったけど黙っておいた。


 浴室に入ると、わたし達も背中の流し合いをする事になり、皆で並んでごしごしと背中を流す……筈だったんだけど。


「愛那の背中は私が流す。これは譲らない」


「えー。私だってマナの背中を流したいぞ。ラヴィはいつも一緒なんだから譲れよ」


「私もしたーい」


「私もマナさんにはお世話になってるし、感謝を込めてごしごししたいな~」


「わ、私も……マナちゃんとは最後だから……」


「モノノもするー!」


 ラヴィ、クク、フープ、カルル、ペケテー、モノノ、の6人は誰一人譲る気配がない。

 6人は睨み合い……って程ではないけど、真剣な表情で見つめ合った。

 その姿をお姉が微笑ましそうにニコニコと見つめて、モーナはさっさと体を洗って湯船に浸かり、何か考え事をしているのか珍しく真剣な顔をしていた。

 ポフーは流石のしっかり者で、6人の争いには参加せずに座って見守みまも……っていたと思ったけど、何かしていた。


 おけにお湯を溜めてる……?

 ポフーもモーナみたいに先に体を洗うのかな?


 なんて事を考えたけど違うらしい。

 桶にお湯が溜まると、ポフーはそれを持って皆の前に出た。


「マナねえさんの背中をかけて勝負しましょう」


「「「――――っ!?」」」


「勝負方法は簡単です。この桶に入ったお湯に顔を浸けて、一番長く息を止めていられていた者が勝者となります!」


「「「おおー……」」」


 皆が感嘆かんたんの声を漏らす。

 そして、皆が緊張した様な真剣な面持ちで唾を飲み込んだ。

 どうやら皆この勝負に乗ったようだ。

 そして、勝負が始まる。


 ラヴィは水の魔法を使えるけど、それと長く息を止めれるかどうかは別なので43秒。

 とは言っても、5歳と考えれば43秒は凄いのかもしれない。

 ククは28秒。

 フープは30秒ジャスト。

 カルルは21秒。

 ペケテーは22秒。

 モノノは31秒。

 ポフーは発案者だけあって、5分17秒と言うとんでもない記録だった。

 そして……。


「ぜえ、ぜえ……はあ、はあ…………。ど、どうでしたか?」


「お姉……」


「すげえ。ナミキさんはやっぱりすげえな」


「ほ、本当ですか? やりました!」


「いや、お姉5秒だから」


「ええええええっっ!? たったの5秒ですかああ!?」


「一番年上なのに一番短いなんて、やっぱナミキさんはすげえぜ」


「そんなああ……」


 お姉が両手と両膝を床につけて項垂れる。

 哀れだ。

 って言うか、途中まで微笑んで見てたのに、まさか参加してダントツでドベとは。

 短すぎるにも程がある。

 なんと言うか、流石はお姉って感じだ。


「完敗した。ポフーは強い」


「くそっ。乗るんじゃなかったー!」


「ポフーさんズルい!」


「ポフーさんの作戦勝ちか~」


「うぅ……負けちゃった」


「モノノもっかいやる! 次は10分息止める!」


「モノノちゃん凄いです。私はそんなに息を止めてたらお星さまになっちゃいます」


「無駄な事はおやめなさい、モノノ。勝負ありましたわ。それでは、皆さんには悪いですけど、私がマナねえさんのお背中を流します」


 勝者ポフーは余裕の笑みを浮かべて、わたしに向かって歩き出す。

 だけどその時、わたしの目の前に1人の人物が飛び出した。


「その勝負。私も参加させてもらおうか」


「サガーチャさん!?」


 そう。

 わたしの目の前に現れたのはサガーチャさんだった。

 サガーチャさんとポフーの目がかち合って火花が散る。ように見えた。


「博士……いいえ、サガーチャ殿下。お言葉ですけど、一国の王女である貴女が、下民の背中を流すなんて良くないと思います」


「ポフーくん、君の言う事は正しいかもしれない。だけど、私の愚弟はこの後、虫であるオリハルコンロリポリのロポくんの背中を洗ってあげるようだよ?」


「そ、それは……っ!」


 言い返せない様だ。

 それもそうだろう。

 サガーチャさんは人の背中で、グランデ王子様は虫の背中を流そうとしているんだ。

 虫が良くて人が駄目だなんて……って、なんで背中を流す流さないで、こんな緊張感ある空気が流れているのだろうか?


「では、私も勝負を挑ませてもらおう」


 サガーチャさんが不敵に笑い、そして……。






「はあ、はあ……。意外ときついね、これ。ただ息を止めるだけなのにね。私には無理なようだ」


 サガーチャさんの記録は6秒。

 お姉といい勝負だった。

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