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105 ミミズ騒動

 モーナと喧嘩して次の日、わたしはふと思った。

 この世界に来てから手伝っていたモーナの【三馬鹿】退治だけど、やらなくて良いんじゃいかと。

 モーナが嫌いになったからとか、昨日から口聞いてあげてないとか、別にそう言うのじゃない。

 今まで出会って来た三馬鹿を思い出してみると分かる通り、皆良い人だったのだ。


 リングイ=トータスことリングイさんは、始めこそ悪い人だと思ったけど、身寄りのない子供達の為に孤児院を経営しててる良い人だった。

 チーリン=ジラーフことチーは、母親を助ける為に必死に頑張っていただけの女の子だった。


 モーナは三馬鹿は悪い奴と言っていたけど、結果はこの通りだ。

 あと1人……モーナの話を思い出すと、確か名前は“レブル”と言う龍人。

 正確には、元龍族の龍人で、今は魔族だとか。

 モーナは【龍の魔族】と言っていた。

 聞かされた当時はよく分からなかったけど、ジライデッドのステータスで出た【元ヒューマン】の部分を思い出すと、そう言うのもあるのかと漠然ばくぜんと納得した。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。

 とにかくだ。

 モーナの話では、人を騙して国家に反逆する悪い奴、と言う事らしい。

 実際には会ってみないと、どんな人か分からないけど、また勘違いのパターンじゃないの? って思えてくる。

 と、そこでわたしはリングイさんの事を思い出して閃いた。


「リングイ=トータス……その女性に頼んで、メソメくんを含めた身寄りのない子を預かって貰う……か。成る程、良い案かもしれないね」


「はい。リングイさんは世間で流れてるような噂とは程遠い、とても頼れる優しい人です。きっと受け入れてくれると思います。それにわたしも行きます。直接会って、わたしが頼みます」


 メソメを始め、今も身寄りのない子がいる。

 その子達は家が何処にあるか分からない……と言うわけでは無く、本当に両親がいない子ばかりだった。

 何処に住んでいたのか分からない子も確かにいるけど、そう言う子はこの件からは除外している。

 分からないから施設に預けるじゃあ、見捨てるのと変わらないからだ。

 とは言え、一応まだ分からないだけの子供達にも言う。

 本人の意志に任せる事も大切だし、見つかってから孤児院の場所を教えて迎えに行ってもらえば良いのだから。


 それを踏まえて、わたしは今、サガーチャさんに相談していた。

 わたしの話を聞くと、サガーチャさんは考えだしたので、わたしはそれを待った。

 少しすると、サガーチャさんは「そうだね」と頷いた。


「リングイと言う女性に今直ぐ連絡を入れる事は?」


「あ、すみません。それは……出来ないです。それに連絡どころか、場所も海底の国の……確か【水の都フルート】と言う場所にある孤児院って事しか……。一度本で調べた事があるんですけど、凄く大きな都市らしくて、孤児院だってそれこそいっぱいあるみたいなんです」


 失念していた。

 考えても見れば、わたしは場所を詳しく知らない。

 今言った通り、本で調べても分からなかった。

 サガーチャさんに聞かれて、その事を思い出した。

 浮足立って大事な事を忘れるなんて、流石に頭が悪すぎる。

 場所がハッキリとしないんじゃ、どうにもならないのに。


「水の都……。うん、それなら私の方で調べよう。リングイ=トータスは有名だ。このドワーフの国でもその悪名は届いているからね。それだけ分かっていれば十分さ」


「ありがとうございます!」


「その代わり、詳しい場所が特定出来たらマナくんが向かう。それで良いかい? 見ず知らずの会った事も無い他国の者が頼むより、君が直接頼んだ方が子供を預かってもらえそうだからね。もちろん護衛はつけるよ。安心して行くといい」


「はい! お願いします! リングイさんには近くに寄ったら顔を出してって言われてたので、きっと歓迎してくれます」


「そうか。それなら上手くいきそうだね。と言っても、まずは情報収集だ。どれ位かかるか分からないから、それまではこの城で引き続き楽に過ごしてくれて構わない。あ、それから昨日の話だけど、父に相談したら許可がおりたよ」


「本当ですか!? 何から何までありがとうございます!」


「ははは、気にしないでくれ。それじゃあ、私はこれで失礼するよ。直ぐにでもリングイ=トータスの情報を集めないといけないからね」


「はい! ありがとうございました! よろしくお願いします!」


 わたしはこの場を去って行くサガーチャさんに深くお辞儀をして、サガーチャさんが見えなくなってから顔を上げた。


「サガーチャさん、本当に良い人だなあ」


 呟いてから、わたしも早速行動に出る。


 サガーチャさんが言った昨日の話、それは、“扉”に必要な莫大な魔力を秘めた魔石の事だ。

 許可がおりたと言っても、ドワーフの国の動力源を使っていいかとかじゃない。


 この国の上には、昔魔石を採掘していた鉱山道があり、それが今でも綺麗に残っている。

 今では魔石は無いに等しい程に残っていないそうだけど、わたしはわらにもすがる思いで、その鉱山に残る魔石を採掘しようと考えたのだ。

 元々この国の動力源になっている魔石もそこで採掘したものらしいので、意外と上手くいくかもしれないし、何もしないよりマシである。

 そんなわけで、昨日サガーチャさんに湯船にかりながら魔石を採掘させてほしいと相談して、今さっき許可を貰えたと言うわけだ。


 お姉の許に急ぐ。

 お姉は今メソメ達と一緒に庭園で遊んでいるので、小走りで庭園に向かった。


 庭園に辿り着くと、そこにはお姉とメソメ達7人以外にも、ラヴィとモーナがいた。

 モーナとは今は口を聞かない事にしているので、とりあえずわたしからは絶対に話さない、と決めてお姉に駆け寄った。


「お姉、話してきたよ」


「あ、愛那まな。おかえりなさい。どうでした?」


 サガーチャさんとの話の内容を説明して、それから話し合った結果、明日にでも魔石の採掘に行く事に決定した。

 今日じゃないのは、今日はメソメを含めた身寄りのない子達に、リングイさんの事を話してこれからどうするか考えてもらって相談にのる為だ。

 そうと決まればとモーナにも手伝って貰おうと視線を向けて、ハッとなり視線を逸らす。

 今も尚、モーナはラヴィやメソメ達と遊んでる。

 いつもならわたしに気付くと近づいて来るのに、今日はそれがない。

 モーナが謝るまで許してあげないと思ってたけど、メソメ達と遊んでいて、謝るどころか話しかけてすら来ない。


「愛那……ちゃん? 怒ってますか?」


「怒ってない」


「そうですか」







 次の日。

 今日は魔石を採掘しに行く日だ。


 結局、昨日からずっとモーナと話してない。

 わたしはお姉とラヴィと一緒にメソメを連れて他の身寄りのない子達の所まで行って、リングイさんの説明をしに行った。

 その間は、モーナが1人で他の子達の遊び相手になってくれていた。

 そんな感じでずっとすれ違っていた。

 モーナは気にしてないのか皆と遊んで騒いでいたし、なんかいつまでも意地になってる自分が馬鹿みたいだ。


「はあ……」


「どうしました?」


「あ、ううん。何でもない」


 ため息が出てしまった。

 昨日のホームシックといい、少しナーバスになってるかもしれない。

 漫画とかでよくいるめんどくさい子みたいになってる気がする。

 このままじゃ駄目だ。

 気持ちを切り替えないとだ。

 モーナがあー言う奴だって、前から分かってたんだ。

 変な意地張ってないで、話しかけられたらちゃんと返事くらいはしてあげよう。

 わたしからは……うん、ちょっと勇気がいるから今は無理そうだけど。

 気持ちを切り替える為に、ほおを両手の手の平でペチンと叩く。


「愛那ちゃん? 本当にどうしました?」


「ううん、本当に何でもないよ。これから魔石の採掘だから気合を入れただけ」


「……そうですね。よーし! お姉ちゃん頑張っちゃいますよ!」


「一応期待しておく」


「任せて下さい! 期待に応えちゃいます!」


 お姉と笑い合う。

 とにかく、今は魔石の採掘だ。


 採掘に必要な道具をランドセルに入れて準備は万端だ。

 動きやすい格好をしようと思い、城下町でシャツとジャージの様な素材で作られた長ズボンも買って身につけた。

 と言うのも、これから向かう採掘場には【牛土竜うしもぐら】や【鋭歯鼠シャープマウス】や【岩蛇いわへび】と言う獣がいるらしいからだ。


 牛土竜はこちらから攻撃しなければ基本は温厚らしい。

 この前お姉がラヴィ達と一緒に焼き肉だとか言って狩猟してきたけど、ちゃんと処理をすれば普通の牛みたいで美味しかった。


 鋭歯鼠シャープマウスはその名の通り鋭利な歯を持ったねずみだ。

 攻撃性が高くて、その鋭い歯で噛みついてくるらしい。


 岩蛇もその名の通りで、皮が岩で出来ている大蛇だ。

 大きいのだと10メートル以上の長さがあるらしい。

 とは言っても、その規模の大きさの岩蛇は、ここの鉱山では見た事ないと聞いたけど……フラグな気がしてならない。


 最近は採掘を滅多にしないから、こういった獣が増えたようだ。

 そんなわけで、わたしは動きやすい格好をしたわけだ。


「え? メソメも来るの?」


「うん。私も博士からシュシュを貰ったから魔法が使えるよ」


「そう言う問題でもないんだけど……」


 流石に危険だよな。


 と、わたしは悩む。

 だけど……。


「ラヴィーナちゃんは私が護ってあげるね」


「ん。背中は預けた」


 そう言えば、しっかりした子だから忘れてたけど、ラヴィはまだ5歳なんだよね。

 メソメは7歳だし、ラヴィを連れて行くのにメソメは駄目だなんて、それはそれでどうなんだろう?

 それに……。


 モーナに視線を向ける。

 相変わらずの自信満々のドヤ顔で胸を張って、得意気にラヴィとメソメに「私がいる限り安全だ!」なんて言ってる。

 それを見て、大丈夫だろうと思った。


「よし、それじゃあ行こうか」


 わたしの合図で皆が返事をして出発する。

 城下町を出て坑道を歩き、途中で長細い草の葉っぱを体中につけたミミズに襲われて、何とか中間地点へと辿り着く。

 そして、一度ここで休憩する事になった。

 のだけど、この時、わたしは怒っていた。


「あーっはっはっはっはっ! み、みみ、ミミズに全力疾走で逃げるとか怖がりすぎだろ!」


「…………」


「普段あんなに偉そうなのに、お姉ええええ! って叫んでナミキにおんぶしてもらって、おまえは私を笑い殺す気か! あーっはっはっはっはっ!」


 ムカつく!


「モーナス、笑いすぎ」


「そ、そうだよ。モーナスさん、私もあれだけいると結構怖かったし」


「そうですね。ミミズさんがプールみたいになってました。ラヴィーナちゃんが凍らせてくれなかったら、道いっぱいにいたので踏みつぶさないと――」


「やめてやめて! それ以上言わないでお姉!」


 お姉が細かく言うものだから、おぞましい程に大量にいたミミズを思い出して、背筋に寒気を感じで身を震わせる。

 それにしても、モーナは最近わたしを苛つかせるのが上手い。

 最早喧嘩を売っているのかとさえ思えてくる。


「マナは本当に虫が苦手だな。少しは慣らせ」


「へ?」


 モーナがわたしに向かって何かを放り投げる。

 わたしはそれを条件反射で受け取ってしまい……。


「きゃああああああっっ!! ミミズウウッッ!」


 受け取った何かは、さっきのミミズだった。

 咄嗟にモーナに投げ返そうとして、頭の中に“ミミズも生き物だ”と言う文字が流れて、地面に置いてお姉に抱き付く。

 お姉はわたしに「怖くないですよ~」なんて言いながら、わたしの頭を撫でた。

 怖くないわけないので、とりあえず落ち着くまでお姉の胸に顔を埋める事にした。


「あーっはっはっはっはっ! ミミズ一匹にビビりすぎだろ!」


 決めた。

 やっぱりモーナとは口聞かない。


「モーナス、やり過ぎ。謝るべき」


「私もそう思う」


「んー、そうだな。マナ、悪かったな。私もやり過ぎたわ」


「…………いいよ。分かってく――」


「いきなり投げずに、今度からはちゃんと手渡しするわ!」


「――もう知らない」


 モーナの馬鹿!

 本当に馬鹿で馬鹿の馬鹿モーナ!!


「あれ? 何でまた怒ったんだ? 謝ったのにな」


「モーナスが悪い」


「マナちゃんかわいそう」


「謝ったのに怒られた私の方が可哀想だぞ?」


「モーナちゃん、今は丁度休憩中なので、今の内にお話があります」


「なんだ?」


「作戦会議です。ちょっとこっちに来て下さい」


 お姉がわたしを離して、モーナの手を掴んで少し距離を置いて何かを話し出す。

 と言っても、ここは鉱山の中にある洞窟どうくつの様な坑道。

 声が響くので話はまる聞こえだった。


「いいですか、モーナちゃん。愛那ちゃんは怒ってるんです」


「ミミズがそんなに怖かったのか」


「違います! いえ、違いませんけど違います」


「違わないけど違うのか」


「はい。愛那ちゃんが怒っているのは、ミミズさんが可哀想だったからです」


 ……は?


「ミミズが可哀想?」


「はい。可哀想です」


 駄目だ。

 今日の……今日もお姉がなんかズレてる。

 最近真面目な事が多かったから、その分のしわ寄せがきたのかも。


「生きる為や身を守る為に、生き物を傷つけたり殺したりするのは仕方がありません。ですが、さっきみたいなのは良くないです。ミミズさんが可哀想です。愛那ちゃんもそれが分かっているから、怖いのに頑張ってミミズさんを優しく地面に帰してあげたんです。愛那ちゃんは偉いんです」


「成る程。ナミキの言う通りだわ」


 納得するのか。

 って言うか、もうあの2人は放っておこう。

 聞いてると恥ずかしくなってくるし。


 わたしは聞き耳を立てていたけど、やめる事にした。

 それよりも休憩したい。

 と言うか、わたしはミミズのせいで結構体力をもっていかれてしまっていた。

 モーナの言う通り、全力で逃げ回ってしまったのだ。

 お姉は旅をして体力がついたみたいで、今の所は意外と大丈夫そうだけど、この後どうなるか分からない。

 疲れて倒れられた時に、わたしまで体力が残っていなかったら大変だ。

 モーナはともかく、流石にラヴィとメソメには迷惑かけられないし、しっかりしなくては。


「嫌がる事はしない! 引いて押せばいいんだな!? 任せとけ!」


「はい! 頑張って下さい!」


 まる聞こえどころか煩い2人のそんな声を聞いたのは、わたしがラヴィとメソメに「そろそろ行こう」と言った時の事だった。


 ふんっ。せいぜい頑張ってね。

 本当に今日はもう口聞いてあげるつもりないから。




 でも、頑張り次第で少しは考えてあげよう。

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