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104 猫耳少女は空気が読めない

※今回から第三章に突入します。

 幕間ではなく103話の続きになります。



 ドワーフの国。

 それは、魔石が採掘できる高い鉱山の地下に作られたドワーフ達が暮らす国。

 ドワーフ達は皆背が小さくて、皆子供の様な姿をしている。


 だからこそだろう。

 とある男がそこに目を付けて、子供ばかりを奴隷にしていた。

 ドワーフの見た目が子供だから、メイドの格好をさせればバレないと企んだのだ。

 とは言え、そんなの長続きするわけが無い。

 バレる時はバレるのだ。

 わたし、豊穣愛那ほうじょうまなが巻き込まれたこの事件は見事に解決して、奴隷にされた子供達が助け出された。

 こうして事件は解決し、皆でハッピーエンド……なんて事にはならなかった。


「そんな! じゃあ、メソメちゃんのお母さんとお父さんとは連絡が取れないんですか!?」


「うん。他の子達は近い内にナオさんがフロアタムの兵を連れて迎えに来るみたいだけど、メソメだけは身元が不明なんだって。って言っても、それはわたしと特に仲の良かった7人の話で、他に奴隷にされてた子達の中にも何人かメソメみたいな子がいるけどね」


 チーとワンド王子を見送って、わたしとお姉がこの世界に来た原因に関わっていたのがモーナだと判明して次の日の朝。

 わたしは朝食を終えた後にサガーチャさんに呼ばれて、メソメ達7人の状況を説明してもらい、その内容を寝室で待っていたお姉に伝えた。

 クク、フープ、カルル、ペケテー、モノノ、ポフー、の6人はいつでも家に帰れるけど、メソメは違う。

 未だに両親が見つからず、メソメも何処に住んでいたのか分からないと言っていて、クク達6人はメソメの為に家に帰らずに残ってくれていた。

 とは言え、親には連絡が入れてあるので、近い内に親の方からここに来る事になっているのだけど。


「それでさ、お姉。それとは別で、お姉に大事な話(・・・・)がある。昨日の続き……」


「分かりました」


 今、この場にはモーナとラヴィもいる。

 本当はお姉と2人きりで話した方が良い事だとも思うけど、何となくだけど、モーナとラヴィにも聞いてほしかった。

 だから、わたしは椅子に腰かけて、ここで話すと言う意思表示を示した。

 お姉もそれが分かってくれたようで、わたしの向かい側に座った。

 ラヴィはベッドの上で正座して、モーナは昨日の事を気にしているのか、窓の外を見ながら気まずそうにしている。


「サガーチャさんがその気になれば、元の世界に戻る為の“扉”を一週間あれば作れるらしいんだ」


「一週間!? 随分早いですね!」


「うん」


「そうですか……」


 そう。

 わたしとお姉がこの世界に来た原因の“扉”は、サガーチャさんによって作られたマジックアイテムで、また作りだす事が出来る。

 わたしはメソメの話を聞いた時に、この“扉”についても話し合ったのだ。


 真剣な面持ちで頷くと、お姉はどこか寂し気に微笑んだ。

 お姉はこの世界を随分と気に入ってるから、この世界とお別れするのが少し寂しいのかもしれない。

 だけど、この話はまだ続きがある。


「でも、それをするとこの国を滅ぼす事になるかもしれない」


「ど、どう言う事ですか!?」


「魔石のせいだな」


 お姉の質問に答えたのは、わたしではなくモーナだった。

 モーナは珍しく真剣な顔で言葉を続ける。


「ドワーフの国を支えている動力は、天然の膨大な魔力を秘めた魔石だ。その魔石の魔力を吸い取って、この国は成り立ってるわ。そしてその膨大な魔力を秘めた魔石と同じものを使って完成したのが、おまえ達がこの世界に来る時に使った“扉”だ」


 モーナの言葉にお姉が言葉を失ってわたしを見たので、わたしは頷いて言葉を続ける。


「サガーチャさんは異世界に興味があって、それで異世界に行く方法を研究していたらしいよ。でも、問題は異世界に行く為に必要な魔力の量だったんだって。凄いよね、異世界に行く理論上の方法は直ぐに解明したらしいよ」


 驚いて何も言えないお姉に、わたしは苦笑する。


「魔力をどうにかする方法を考えた結果、サガーチャさんはこの国の動力源に目を付けた。流石にその物を使う事が出来ないから、予備の魔石を使ったんだってさ。で、もう予備が無い」


「……それで滅ぶ…………なんですね」


「うん」


 わたしは一度大きく息を吐き出して、そして、お姉の目を真っ直ぐと見た。


「お姉。サガーチャさんがね、わたしとお姉がこの世界に来た原因を作った責任を取って、この国の動力源を使って“扉”を作ってもいいって言ってくれたんだ」


「……愛那、愛那はどうしたいの?」


「戻りたいよ」


「そう……ですか…………。そうですよね。愛那は、ずっと言ってました」


「うん」


 わたしは戻りたい。

 最初からそう言ってきた。

 早く元の世界に戻って、いつも通りの日常を取り戻したい。

 でも……。


「この国が滅んじゃうのは……やだな。だからさ、お姉」


 わたしはお姉に頭を下げた。

 怒られるかもしれないって怖かった。

 いくらお姉でも、わたしの我が儘で振り回されるなんてって思うと、怒ったって当たり前だ。



「お姉ごめん! サガーチャさんに断ってきちゃったんだ!」



 そう。

 これは相談ではないんだ。

 相談では無く大事な話(・・・・)

 サガーチャさんから迫られた元の世界に戻るかどうかの大きな選択に、わたしは既に答えた後だった。

 わたしはお姉の事を何も考えずに、勝手に決めて、勝手に断ってしまったんだ。


 怖くて顔が上げられない。


「ま、マナ、おまえ断ったのか!? あーっはっはっはっはっ!」


「モーナス、笑ったら失礼。愛那は真剣」


「だってマナは帰りたい帰りたいってずっと言ってたんだぞ! それで私も気まずいな~言いにくいな~って思ってたのに、元の世界に帰るの断ったって、気にして損したわ! あーっはっはっはっはっ! 馬鹿だな~マナー!」


「だあああああっっ! あんたにだけは馬鹿って言われたくないわー!」


「ぎゃあああああ! マナがキレたああああ!」


 お姉に頭を下げていた筈が、どっかの馬鹿のせいでカリブルヌスの剣を手に取ってモーナに飛びかかってしまった。

 モーナが逃げ、わたしが追い、お姉がラヴィと顔を見合わせて笑った。







「もうあんな奴知らない。当分口きかない」


「まあまあ、愛那ちゃん。モーナちゃんだってきっと悪いって思ってますよ」


「思ってない。モーナなんてもう知らない。絶交する。もう今日は謝っても絶対許さない」


「今日はなんですね……」


 モーナを追いかけ回してから数時間後、わたしはモーナと絶交した。

 もう口も聞きたくない。

 謝っても直ぐには許してあげないと決めたのだ。


 と、あんな奴の事はどうでも良いとして、お姉に相談もせずに今後の事に関わる大きな選択をわたしは勝手に決めてしまった。

 結局、お姉はわたしの事をとがめもせず、優しく笑って許してくれた。

 それで、今はお姉とサガーチャさんの許に向かって歩いている所だ。


 国の動力源である魔石を使用しない限り、直ぐに元の世界に戻る事は出来ない。

 だけど、逆に言えば莫大な魔力を秘めた魔石さえあれば、それを使って戻る事が出来るのだ。

 そして今、今度はお姉と一緒にその事で詳しい話を聞こうと思い、わたしは服を脱いでいる。

 何故詳しい話をするのに服を脱ぐ必要があるのかと言うと……。


「いらっしゃい」


 そう言って、サガーチャさんがわたしとお姉を迎えたのは、大きなお風呂だった。

 お城のお風呂は、あの広かったバーノルドの浴室より全然広い。

 広すぎて大人数で泳げてしまうレベル。

 と言うか、銭湯や温泉なんかに置いてあるおけまであるから、お城のお風呂と言うより大浴場だとか温泉って感じがする。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。


 サガーチャさんは既に湯ぶねに浸かっていて、わたしとお姉が大浴場に入ると、ニマァッと笑みを浮かべて手招きした。


「あの、何でお風呂なんですか?」


「裸同士の付き合いで話す話こそ意味があるのさ」


「……はあ」


 最早生返事しか出来ない。

 朝から何故お風呂に入りながら重大な話を? って感じで、理解が追いつかない。


「わかります!」


「ほお。ナミキくんにはわかるのかい?」


「はい。私は小さい頃、銭湯のなみきちゃんと呼ばれていましたから!」


「なるほど、それは興味深い」


 くだらない話が始まりそうだったので、わたしは呆れて体を洗い始めた。

 すると、お姉が「私も洗います」と言ってやって来て、わたしの隣で体を洗い始める。

 そして、体を洗い終わってから、さっきの話の続きが始まってしまった。


 銭湯はこの世界にもあるらしい。

 サガーチャさんは年に一度は旅をしているらしくて、その時に何度か入った事があるそうだ。

 一国の王女様なのに自由すぎるなんて思ったけど、事実は小説より奇なりと言う言葉もあるくらいだし、実際はそんなものなのかもしれない。

 それはそうと、お姉が昔お父さんと一緒に銭湯に通っていたらしくて、その頃の話を語り出した。

 わたしがまだ赤ちゃんだった頃で、お姉もまだ7歳だった頃だ。

 銭湯ではおじいさん達に大人気だったらしく、一緒に数を数えてお風呂を出ただの、コーヒー牛乳をご馳走してもらって飲んで大人の階段を上っただの言っていた。

 コーヒー牛乳で大人の階段ってなんだよ、とも思ったけど、7歳の子供からしたらコーヒーって響きだけで大人なのかもしれない。


 そう言えば、わたしも7歳の時にお父さんに銭湯に連れて行ってもらった事あったけど、男の人と一緒にお風呂なんて恥ずかしくてお父さんとは別でお風呂に入ったっけ。


 なんて事を思いだして、何だか気が沈んできた。

 多分ホームシックだ。

 お父さんの事を思い出したら、何だか家が恋しくなった。


 お母さんとお父さん……元気にしてるかな?


 気がつけば、わたしはお姉に抱き付いていた。

 お姉はわたしの顔を見て、微笑んで抱きしめてくれた。

 抱きしめられると、フカフカと柔らかい感触がわたしの顔を包んで、少し落ち着いてきた。


 お母さんとお父さんは暫らく家に帰って来ない。

 わたしとお姉がこの世界に来てどれくらい経ったかなんてもう分からない。

 今頃騒ぎになってるだろうか?

 まだ気付かれていないだろうか?

 正直どうなってるかなんて分からない。


 わたしが選んだこの世界に残ると言う選択は、本当に良かったのだろうか?

 不安はいっぱいある。

 この世界は本当に危険で、いつ死んだっておかしくない。

 平和な世界で生きてきたわたしとお姉が、こうして生きているのは奇跡でしかないと思う。

 モーナに出会わなかったら……。


 わたしはお姉に背中を預けて、天井を見上げた。

 ゆっくりと静かに時間が流れていく。

 わたしに気を使ってくれたのか、お姉もサガーチャさんも何も喋らず、本当にただゆっくりと時間だけが流れていく。


 ……許してやるか。


 思い返せば、モーナは最初から怪しかった。

 わたしとお姉が異世界から来た事を何の疑問にも思わないし、それどころか、最初から分かっていたとも言っていた。

 それなのに、わたしはあの“扉”と関係あるなんて考えなかった。

 そして、結局は何だかんだ言って今までモーナには助けてもらってきた。

 馬鹿で自分勝手で困る奴で、しかも元凶だったけど、それでもいつも助けてくれる。

 今回の件だって、大きな選択を前にして帰らないと選んだのはわたしなんだ。

 それで馬鹿だって笑われて怒って、本当に馬鹿みたい。


 目をつぶって、大きく息を吸って、ゆっくりと息を吐き出した。

 サガーチャさんとの話が終わったら、わたしの方から謝りに行こう。

 さっきは少しやり過ぎ――――


「あーっ! マナがナミキのおっぱいを枕にしてるわ!」


「…………」


「おい、ラヴィーナ! マナがいたぞ!」


「…………」


「ほら見ろ! 昨日と一緒でマナもそこまで怒ってないだろ? あの顔を見れば私にも分かるわ! ラヴィーナの考えすぎだったな。今はさっきの事を忘れて、風呂でナミキのおっぱいを堪能してるぞ!」


「モーナス、先に謝って」


「大丈夫だろ。あの顔はナミキのおっぱいで全てを水に流した顔だわ。いつも通り、全てかいけ――――いったああ!」


 気がつけば、わたしは湯船から出て、無言でおけをモーナに向かって投げていた。


 馬鹿モーナ!

 絶対に謝っても許さないって決めた!

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