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幕間 王女様は罪人の処罰が面倒臭い

※今回はドワーフ王国の王女サガーチャ視点のお話です。

 ドワーフの国の第一王女サガーチャ。

 それが世間から知られる私の姿だ。

 だが、王族の様な堅苦しいものは私の性に合わない。

 私のお爺様は王の座を現国王である私の父にゆずると、マジックアイテムを作り始め、幼かった頃の私はマジックアイテムの素晴らしさにのめり込んだ。

 そうして、今の私があり、一部の者からは【博士】と呼ばれる様になった。

 と言っても、私がそう呼んでくれとお願いしているのだけどね。


 ある日、私の許にモーナスと言う旧友がたずねてきた。

 彼女は猫の耳と尻尾がチャームポイントの可愛い子だ。

 そして、少し前まで私の手伝いをしてもらっていた。

 そんな彼女が真剣な面持ちで私の前に現れて、友人マナを助けるのを協力してほしいと頭を下げた。

 私は驚いた。

 彼女は人に頭を下げるタイプの子ではないからだ。

 むしろ頭を下げても興味が無かったら断るような子だ。

 そんな彼女が頭を下げたものだから、私は興味を持った。

 そして話を聞いて、その“マナ”と言う人物がこの世界の住人でない事を知った。

 あの時、モーナスを連れて登って、扉を置いたあの山で出会った人物だと知った。


「サガーチャ様、そろそろお時間です」


「ああ、もうそんな時間か。分かった。今直ぐ向かおう」


 侍女が寝室まで迎えに来たので、私はいつもの様に白衣を着て寝室を出た。

 さて、今日は我が国が預かった罪人である奴隷商人たちの処罰をくだす日だ。

 この件の処罰の権限は、国王である父から私に一任されている。

 面倒な事を押し付けられたものだ。

 罪人の処罰なんて、なんの面白みも無い。

 とは言え、それも多少は目をつぶるしかない。

 父は率先して、獣人の国の者達と共に奴隷にされた子供達を家族に届ける為に動き回っている。

 私としても、罪人の処罰よりそちらを優先してもらいたい。

 任せると言われれば、ここは「はい」と答えるしかないだろう。


 城の中には【裁きの間】と呼んでいる広間がある。

 この広間は父が罪人を直接見て裁く為に作った広間だ。

 なんでも、直接会わなければ、どんな罪人なのか分からないからと言っていたのを聞いた事がある。

 そんなものが必要なのか私には理解出来なかったが、父なりにその人なりをしっかりと見て、罪の重さをはかる為なのだろう。


 裁きの間の中央には、直径10メートルほどの特殊な魔法陣が描かれている。

 罪人の処罰を書いた紙に王族の血判けっぱんを押し、それを魔法陣の真ん中に置いて、その上に罪人を置く。

 そうする事でそれが逆らえぬ契約となり、罪人に処罰が下される。

 それがこの国の罪人を処罰する方法だ。

 これも私が作りだしたマジックアイテムで、呪いの類の天然もののマジックアイテムを参考に作りだした物だ。

 とは言っても最近の事で、裁きの間なんて言う如何にもな場所にぴったりだと父に考案し結果だ。

 ともあれ、中々良い結果を出している。

 例えば、一生肉を食べるなと処罰を下せば、本当に肉を食えなくなる。

 明日死刑すると処罰を下せば、脱走をしても次の日には死刑を受ける為に戻って来る。

 残酷で、でも確実に実行できるマジックアイテムだ。


 裁きの間に入ると、罪人がここに連れて来られるまでの間に、私は侍女から罪人達のリストを受け取って目を通した。

 とくに注意すべきは、ジライデッド=ルーンバイム、スタシアナ=ルーンバイム、ラリーゼ=ルーンバイムの3名。

 他にも、チュウベエ、スーロパなどの幹部もリストに入っていたが、この3名と比べれば……と、そこで私の目に“バーノルド=チンパン”と言う男の名前が目に止まった。


「この男は奴隷商人では無かったのでは?」


「はい。仰る通りです。ですが、重要人物の中の一人ラリーゼ=ルーンバイムと、特に親しい者だったのでリストに入っています」


「成る程。まずはこの男からここに呼んでもらっても?」


「可能です。必要あればラリーゼ=ルーンバイムも連れて来させますがいかがなさいますか?」


「いや、いい。この男だけにしてくれ」


「承知しました」


 侍女が広間を出て行き、私は改めてリストを眺めた。


 しかし、マナくん……か。

 モーナスくんから聞いた通りで、とても甘い子だ。

 あの子が殺さなかったこの男、ジライデッド=ルーンバイムは死罪で間違いない。

 この男の資料に目を通したけど、あまりにも罪が重すぎる。

 それは彼女も分かっていた筈だ。

 少なくとも、彼女と深い関係を持ったチーリンくんの父親を殺しているからね。

 とは言え、ドワーフの国では人殺しが死罪になるなんて、あの子は知らないか……。


 そんな事を考えている時だった。

 扉が勢いよく開かれた。

 侍女にしては随分と騒々しい扉の開き方に、私は目を丸くして驚いた。

 入って来たのは侍女では無く、バーノルド=チンパンに買われ奴隷になっていた少女フープくんだった。


 フープくんと言えば、先日モーナスくん達がバーノルド邸の地下で発見した7人の子供達の1人でもある。

 子供達は地下を秘密基地と言って隠れていたようだ。

 どうやら、子供達はバーノルドが捕まったのをいち早く知り、また奴隷商人が自分達を捕まえに来ると思っていたらしい。

 何をどう考えればそんな事を考えるのかは分からないが、子供は想像力が豊かだから、案外そんな風に思うのも普通なのかもしれない。

 なにはともあれ、子供達はこうして私達が保護したからもう安全だ。

 早く両親に会わせてあげたいと私は思っている。


「いたー! 博士ー!」


 フープくんはリスの獣人だ。

 食事をする時に頬にいっぱいご飯をいれて可愛いと、マナくんから聞いた事がある。

 この子はマジックアイテムに興味があるらしく、初めて会った時から私に懐いてくれている。

 子供に好かれるのは私としても悪くないので、ついつい甘やかしてしまうのだが、さて困った。

 流石にここでは場所が悪い。


 フープくんは勢いよく広間に入ってきて、私の許まで来て抱き付いた。

 すると、今度はマナくんが小さな声で「失礼します」と言いながら、キョロキョロと周囲を見ながら広間の中に入って来た。


「あ、サガーチャさん。ごめんなさ――あ。フープ駄目だよ! サガーチャさんは王女様だから忙しいんだよ」


「えー! 博士と遊びたーい!」


「駄目だってば。ごめんなさい、サガーチャさん。直ぐに連れて行きます」


 マナくんはそう言って、私に抱き付くフープくんを引き剥がそうとする。

 私はその様子が微笑ましくて眺めていたけど、そんなのんびりしている場合でも無かったようだ。


「し、失礼します。お待たせいたしました。バーノルド=チンパンを連れて来たのですが……」


 侍女が兵士と一緒にバーノルド=チンパンを連れて戻って来てしまった。

 私にしがみつくフープくんと、それを引き剥がそうと引っ張るマナくんを見て、侍女も困惑してしまっていた。

 無理もないだろう。

 彼女は真面目な女性だ。

 普段の彼女であれば相手が子供であっても関係ない。

 無礼だと言って、マナくんとフープくんを咎めていただろう。

 しかしそれが出来ないのは私の態度も一つの要因だ。

 自分が仕える主である私が、騒いでいる少女達に囲まれながらも、それを何も言わずに笑っている。

 しかも相手は被害者の子供と、私の愚弟であるこの国の王太子を助け出した英雄だ。

 だからこそ、止めるべきかどうか迷っているのだろう。


「げっ」


 心底嫌そうに声を上げたのはマナくんだった。

 マナくんは顔を引きつらせて、鎖で手を縛られて口も猿轡さるぐつわで封じられて連れて来られたバーノルド=チンパンを見ていた。

 本当に嫌そうなマナくんのその顔があまりにも可笑しくて、思わず顔がにやけてしまう。


「マママ、マアアナちゃあああん! まさかまさかまさかああ! ボクちんに会いに来てくれたの!?」


「そんなわけないでしょ」


「なっ! こいつ! 噛み千切りやがった!」


 猿轡を噛み千切って喋ったバーノルド=チンパンに兵士が驚いて、急いで槍の先端を向けた。

 しかし、バーノルド=チンパンはそれをものともせず走ろうとしてこけて、芋虫の様な動きで私達と言うよりはマナくんに近づいた。

 マナくんは「ひっ」と小さな悲鳴を上げて、顔を引きつらせて体を硬直させる。

 マナくんには申し訳ないが、見ていて実に面白い。


 バーノルド=チンパンにも驚かされた。

 猿轡は別に噛み千切れるような物は使ってない。

 あれは一種のこの国限定のマジックアイテムだ。

 布に鉄を混ぜた特別製で、噛み千切ろうものなら歯が欠けるどころじゃすまない。

 それを噛み千切るものだから、驚いても仕方が無い。


 そしてそんな中、状況を理解していないフープくんが、バーノルド=チンパンに近づいて首を傾げた。


「旦那様もお世話してもらってるの?」


「ん? よく見たらフープか。お前達のせいでボクちんが悪者扱いされて捕まったんだぞ! 奴隷の分際で! どうしてくれる!」


「フープのせいにするな。禁止されてる事をしてたんだし自業自得でしょ」


 マナくんがフープくんを引き寄せて抱きしめながら、バーノルド=チンパンに軽蔑けいべつの眼差しを向けた。

 それを見て、バーノルド=チンパンは何故かニヤニヤと笑みを浮かべて喜んだ。

 どうやら彼はマゾヒズムらしい。

 私には理解出来ない人種だ。

 しかし、彼の資料に目を通したけど、とくにそんな事を書いてある文章は見当たらなかった。

 そう考えると、マナくん相手限定と言った所だろう。

 これは好都合かもしれない。


「時間が惜しいから今ここで判決を下す事にしよう」


 私は静かに告げる。

 皆が私に注目し、緊張で場の空気が張り詰めていた。


「バーノルド=チンパン、君には今後一生マナくんに会う事が出来ない罰を下す」


「は? サガーチャさん何言ってるんですか?」


 マナくんが一番動揺して質問してきた。

 当然と言えば当然だろう。

 だが、マナくんはまだ良い方だ。

 私の侍女も、バーノルド=チンパンを連れて来た兵士も、2人とも私の言葉に動揺しすぎて固まっていた。

 まあ、当然と言えば当然だろう。

 しかし私は知っている。


「ままままままままま待ってくれ!? そんなのあんまりじゃないか!」


 彼女達には分からないだろうが、この手の連中にはこれが一番こたえるのだ。

 バーノルド=チンパンの動揺は彼女達以上だった。

 脂汗を大量に流し、顔は真っ青で、顔に似合わない涙を目尻に溜めて目を大きく見開いている。

 まるで地獄を見ているような絶望した顔に、私は満足だ。


「頼む! それだけはやめてくれ! そんなの死んだ方がマシだ! ボクちんはマナちゃんと結婚するんだ!」


「それは残念だったね。諦めるといい。あ、後、マナくんに限らず、今後は子供……いや。年齢に限らず、君が子供だと思った者には会う事も禁じるよ」


「他の子供なんてどうでもいい! 諦められるか! マナちゃんの作る料理は美味しいんだぞ! たまに見せる笑顔も可愛くて、お肌がプニプニなのにおっぱいが無――――――っぶべら! のおおおおおおおっっ!」


 おっぱいが無いと言いたかったのだろうか?

 料理笑顔ときて、最後にプニプニだの胸が無いだの、上げて落とすなんて女の子にして良い事じゃないね。

 とくに最後のがいけない。

 私でもマナくんが気にしているのが分かるってのにこの男は。

 案の定と言うべきだろうか最後まで言い終わらずに、バーノルド=チンパンの顔をマナくんが殴って、更に追い打ちで股間にもの凄く重そうな蹴りを入れた。

 私には分からないが、最後の蹴りは男には相当なダメージが入る。

 その証拠に、バーノルドは白目をむいて気絶してしまった。


「あ、すみません。お話中だったのに、ついカッとなっちゃいました」


「いや、問題無いさ。それより、今の蹴りは? マナくんにしては随分強力な蹴りに見えたけど」


「えっと、これを使いました」


 マナくんがそう言って見せてくれたのは、モーナスくんの魔力を宿した魔石と、私がプレゼントしたシュシュだった。


「成る程。モーナスくんの魔力が入った魔石に重力系の魔法が入っていたわけだ。それを私があげたシュシュの機能を利用して使ったんだね」


「はい。魔力が枯渇して使えなくなった私でも、他の人の魔力をシュシュに溜めこめば、それを通してこう言う魔石に入った魔法は使えるそうなので」


「役に立っている様で良かったよ」


「旦那様が死んだ」


「死んでない死んでない。って言うか、もう旦那様じゃないから。このロリコンに旦那様なんて言わなくていいんだよ、フープ」


「ふーん」


 本当に面白い。

 今までいろんなタイプの人を見てきたけど、マナくんみたいに面白い子は久しぶりだ。

 そこで私は思いついた。


「どうせだ。このまま2人にはここにいてもらおう」


「は?」


「やったあ! 博士遊んでくれるの?」


「今からする私の仕事が終わったらね」


「ま、待って下さいサガーチャ様! この少女2人を同席させるのですか!?」


 侍女が動揺し慌てて私に意見を言ってきた。

 珍しい事もあるものだ。

 彼女は真面目故に私の質問にしか基本答えない。

 無駄口や自分の意見を言わない。

 だからこそ今まで黙っていたのだろう。

 そんな彼女が限界を迎えて口を出したのだ。

 それだけで面白い。

 だから私はいつもの様に笑みを浮かべて言った。


「面白そうだろう?」


 と。

 侍女だけでなく兵士も困惑していたけど、私は満足だ。

 フープくんが目を輝かせている横で、マナくんはジト目で私に「フープの教育に悪いです」なんて言ってくれるから、可笑しくて私は笑わずにはいられなかった。


 さて、今の私は気分が良い。

 だからと言って罪人達に優しさを向けてあげるつもりはない。

 だけど、本当に面白い。

 マナくんの活躍で、ジライデッド=ルーンバイムを含む罪人達に下した判決は、一番の被害者であるチーリン=ジラーフとその家族に一生をかけて償うと言うものに終わった。

 本当に彼女には参ったと言うべきだろう。

 彼等に死罪を言いわたした私に対して、彼女は真っ直ぐ、そして真剣にこう言った。


「死んで終わりだなんて、そんな楽をするなんて許しません。一生チーの為に生きるべきです。この世界は命の危険が多すぎます。だから、死ぬのはチーを外敵から護る時か、チーに死ねと言われた時だけです。チーの為だけに生きて、チーの為だけに死んで下さい」


 死ぬのが楽な行為だなんて、私は初めて聞いた。

 そして、生きるか死ぬかは一番の被害者であるチーリン=ジラーフに決めさせるなんて、ある意味残酷で的を得ている。

 チーリン=ジラーフがまだ幼い子供だから残酷と言うのではない。

 一見綺麗ごとの様にも聞こえるが、死ねと言われたら死ぬべきだと言っているのだ。

 もし命に危険が及んだ時に助けたとして、その後用済みになった彼等を殺す事だって出来る。

 綺麗ごとどころか、これが残酷以外の何だと言うのだろうか?

 彼女の言葉はそう言う事だ。

 もしかしたら、彼女はそこまで考えて言った言葉じゃないかもしれない。

 だけど、少なくとも私はそう感じて、だから決めた。

 この少女の言うように、この者達の命を、一生を全てチーリン=ジラーフにゆだねようと。

 そして、モーナスくんが気に入っている理由が少し解かった気がした。




 私もこの“マナ”と言う少女が気にいったのだから。

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