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010 猪突猛泳な野郎ども

「ラヴィーナちゃんをお家まで送ってあげませんか?」


 わたし達は、ラヴィを助けた後、少し場所を移動して休憩をしていた。

 少し休憩すると、わたしはラヴィに日傘とうちわを貸してあげて、そこから少し離れた場所にお姉とモーナを連れて話し合う。

 話の内容は、勿論ラヴィの事。

 ラヴィの事で話し合いをする為に、ラヴィから少し離れたわけだ。

 そして、たった今、お姉が家まで送ろうと提案した所だった。


「そうだね。流石にラヴィを一人になんて出来ないし」


「仕方がないわね。家に送ったら報酬として、鶴羽の振袖を貰うわ!」


 わたしはモーナの発言に呆れて、モーナをジト目で見つめる。

 すると、モーナはわたしの視線に気がついて、何故かドヤ顔になる。


 わたしがモーナの反応にさらに呆れていると、お姉が一度ラヴィに視線を向けてから、モーナに話しかける。


「雪女って書いてありましたけど、ここの近くに雪山とかあるんですか?」


「無いわ。ここ等辺で一番涼しい所は、私達が出会ったあの山よ」


「まあ、そうなっちゃうよね。こんな気温の暑い地域に、雪山があるなんて考えられないもん」


 わたしはラヴィに視線を向けて、目が合ったので微笑む。

 すると、ラヴィはわたしと目を合わせたまま、私達の所まで歩いて来た。

 ラヴィは私に近づくと、私の手を掴んで顔を上げる。


「どこ行くの?」


「ラヴィを家まで送ってあげるんだよ」


 わたしはラヴィの質問に微笑んで答えると、ラヴィは首を横に振って質問を変えた。


「違う。お姉さん達は、どこに行こうとしてたの?」


「え? 亥鯉の川だよ」


 わたしが答えると、ラヴィはわたしの手を強く握った。


「私も行く」


「えっと……」


 わたしは困ったぞと思いながら、お姉とモーナに視線を向ける。

 すると、お姉は目を輝かせながら、ラヴィに後ろから抱き付いた。


「大歓迎です~」


「ちょっと、お姉」


「決まりね! ラヴィーナ、歓迎するわ!」


「モーナまで」


 わたしが歓迎ムードの2人に慌てていると、お姉の胸に頭を埋めたラヴィが、わたしの手を引っ張って腕に抱き付いた。


「お願い」


 そう言ったラヴィの相変わらずな虚ろ目な表情は、眉根が少しだけ下がっていて、わたしは降参して音を上げる。


「分かったよ」


 わたしはしゃがんでラヴィの目線に合わせて、ラヴィの手を握る。


「その代わり、わたし達の用事が終わったら、ちゃんと家に帰らないと駄目だからね」


「分かった」


 ラヴィの返事を聞いてわたしが微笑むと、ラヴィに後ろから抱き付いていたお姉が、そのままわたしを抱き寄せる。


「愛那もラヴィーナちゃんも可愛いです~」


「ちょっと、お姉。暑いから離して」


「私も可愛いわよ!」


 モーナが対抗して何故かわたしに背後から抱き付く。


「勿論モーナちゃんも可愛いです~」


「当然よ!」


「……溶ける」


「えーい暑苦しい! お姉もモーナも離れてよ!」


 わたしはお姉とモーナの2人を無理矢理に体から押し剥がしたのだけど、ラヴィはクルクルと目を回していた。

 わたしは慌ててうちわでラヴィを扇ぎながら、水筒の水を渡してあげると、ラヴィは勢いよく水を飲みほした。


「とにかく、さっさと行こ。こんな暑い場所に長居なんてしてられないよ」


「そうね! 早く行くわよ!」


「はい」


 わたし達は再び歩き出す。

 ラヴィはわたしの事を気にいったのか、常にわたしの手を握って歩いていた。

 わたしは両手が日傘とラヴィの手でうまってしまったので、うちわを扇ぐ事が出来ずにいたのだけど、わたしのうちわを渡してあげたラヴィとお姉がわたしを扇いでくれるおかげで逆に快適だった。


 二人には後でたっぷりとお礼をしようと、そんな事を考えながら歩く事数時間後、前方に川が見えてきた。


「見えました!」


 お姉は川が大はしゃぎで川に向かって駆け出す。

 わたしがそれを、仕方がないな~と見ていると、モーナが突然大声を上げた。


「ヤバいわ! ナミキが景品にされるわよ!」


「景品? モーナ、何言って――」


 モーナの言葉にわたしは首を傾げて、言っている意味を聞こうとしたその時だ。

 川から猪の様な魚の様な、よく分からない見た目の生物が何十匹も飛び出して、川に近づいたお姉を囲む。


「――お姉!?」


「きゃーっ!」


 わたしがお姉を呼んだのも束の間、お姉は悲鳴を上げて、謎の生物の背中に無理やり乗せられてしまった。

 そして、お姉を乗せた謎の生物は、お姉を乗せたまま川へ飛び込む。


「お姉ーっ!」


 お姉を乗せた謎の生物は川に飛び込んでから姿が見えなくなり、わたしは急いで川へと向かって走る。

 すると、その場に残っていた謎の生物が、突然川の前に木造のお立ち台をあっという間に設置する。

 そして、ネクタイを身に着けた謎の生物が、お立ち台の上に立った。


猪突猛泳ちょとつもうえいな野郎ども! 喜べ! 半年ぶりの景品だ!」


「「「うおぉぉおおおおーっ!」」」


 な、何事!?


 わたしは謎の生物たちの、突然の騒ぎに目を丸くして驚いて立ち止まる。

 すると、わたしに気がついたネクタイを着けた謎の生物が、わたしの顔を見た後に胸を見て、人を小馬鹿にした様な表情を浮かべて鼻で笑う。


「刺身にしてやるわ」


 わたしがその反応を見て呟くと、モーナがわたしの腕を掴んで引っ張った。


「落ち着けマナ! そんな事したら、ナミキが大変な事になるわ!」


「え? どういう事?」


「あの猪鯉いのししごい達を見ていれば分かるわ」


 あの謎の生物が猪鯉?

 って事は、この気色悪い喋る生物って、食べられるんだ……。

 何て言うか、うん。

 わたしは一生食べなくて良いかな。


 そんな事を考えながら、モーナに言われた通りに猪鯉達の様子を見る。


「さーて猪突猛泳な野郎ども! 早速景品を巡って川上り競争の開幕だ!」


 川上り競争?

 景品って、話しからすると、お姉の事だよね。


「ルールは簡単だ! これから川を上って、上流のにある湖に一番最初にゴールした野郎の勝利だ!」


「「「魚おおぉぉぉーっ!」」」


「そして、今回はなんと! 猪突猛泳な野郎どもに、無謀に立ち向かう挑戦者がいるようだぜ!」


 ネクタイを着けた猪鯉がわたしに視線を向ける。

 すると、今までネクタイを着けた猪鯉に注目していた他の猪鯉達が、わたしの方へを視線を向けて注目した。

 わたしが猪鯉の注目を浴びた時、待ってましたと言わんばかりに、モーナがわたしの前に立って胸を得意気に張り大声を上げる。


「それは、私達美少女ガールズだー!」


「おー」


 モーナの発言に、ラヴィが相変わらずの虚ろ目のまま、握り拳を作って手を上げる。


「モーナ何言って――」


「「「魚ぉぉぉおおおーっ!」」」


 わたしがモーナに話しかけようとしたけれど、その声は猪鯉達の雄叫びでかき消されてしまった。

 そして、わたしは状況を整理できないまま、それは突然始まる。


「行くぞ猪突猛泳な野郎ども! 勝負開始だー!」


「「「魚おぉぉぉっ!」」」


 ネクタイを着けた猪鯉の合図で、他の猪鯉達が一斉に川に飛び込む。

 気がつけば、この場に残ったのは、わたし達とネクタイを着けた猪鯉だけ。

 わたしは勢いに圧倒されて硬直し、完全に出遅れてしまった。


「マナ! 早く行かないとナミキが猪鯉共の景品になるわよ」


 モーナの言葉で、わたしはハッと我に帰る。


「意味わかんない! 意味わかんない! 何でこんな事になるのよ!?」


 わたしが叫ぶと、モーナがケラケラと笑いながら答える。


「猪鯉は雄しかいなくて、別種の種族に子を孕ませて子孫を残す生物よ。そして、奴等は巨乳好きだ!」


「何よそれー!? お姉がヤバいー!」


 わたしがモーナの説明を受けて叫ぶと、残っていたネクタイを着けた猪鯉がわたしに近づく。


「そうか。あのおっぱいの大きな女性は、君のお姉さんだったのか。つまり、君も将来はナイスなおっぱいになるって事だね」


「モーナ。取り敢えずコイツは斬っても良いと思うんだけど、どうなの?」


「やめておいた方が良いわ。こいつ等仲間が殺されると、その分だけ繁殖行為を追加するわ」


「その分だけ……。そんなのさせられるかー! 信じらんない! 最低!」


 モーナの説明にわたしが大声を上げると、モーナがケラケラと笑ってから喋る。


「そんな事より、早く私達も川を上るわよ!」


「そうね。早くしないとお姉が大変な事になる」


 わたしは急いで川に沿って走ろうとした時、わたしの目の前に、ネクタイを着けた猪鯉が立ち塞がる。


「邪魔」


 わたしが一言言って睨むと、ネクタイを着けた猪鯉が首を横に振った。


「駄目だぜ美少女ガールズ。この勝負は川上りだ。ちゃんと川に入って進まなきゃ失格だぜ」


「なっ……。もおーっ! 何なのよホントに!」


 わたしは暑さと焦りと理不尽からくる苛立ちで叫ぶ。

 すると、そんなわたしを見て、モーナがケラケラと笑って話す。


「いつもつまらなそうにしているけど、ナミキの事になると声がいつもより大きくなるし、顔の表情が豊かだな」


「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ!?」


「安心しろマナ。私がいる以上、負ける事は無いわ!」


「その自身は何処から来るのよ?」


 わたしがイライラしながら訊ねると、モーナは胸を得意気に張って答える。


「泳ぎなら魚にだって負けないからだ!」


「魚に負けないって……本当なの? って、まあ良いよ。こんな事話してる場合でも無いし、早く行かないと!」


 そう言って、わたしが急いで川の中に入ろうとすると、ラヴィがわたしの服を掴んだ。

 わたしは服を掴まれて、ラヴィに視線を向ける。

 すると、ラヴィは虚ろ目でわたしと目を合わせて、私の服を掴んでいない方の手で後ろに指をさす。


「イカダ作った」


「え?」


 わたしはラヴィの言葉を聞いて、ラヴィが指をさした方に視線を向ける。

 するとそこには、小さくてちょっと不格好ではあったけど、本当にイカダが置いてあった。


「あのイカダ、ラヴィが作ったの?」


「そう。スキルを使った」


「そっか。ラヴィのスキルに図画工作ってあったよね。凄いよラヴィ!」


 わたしは喜びながらラヴィに抱き付いた。


「愛那。イカダを使って?」


「勿論! これで猪鯉達に勝とう!」


 わたしがラヴィから体を離して、ラヴィの両手を握って答えると、ラヴィは口角を少しだけ上げて頷いた。

 すると、わたしとラヴィを見ていたモーナが、胸を得意気に張って話に入る。


「良いわね! それなら、私がイカダをゴールまで運んであげるわ!」


「モーナが漕ぐの?」


「違うわ!」


「え? どういう事?」


 モーナの言葉の意味が分からず、わたしが首を傾げていると、モーナがイカダを片手で持ち上げて川まで運ぶ。

 そして、イカダを川に浮かばせて、モーナが川に飛び込んだ。


「モーナ、何してるの?」


 わたしが驚いて川に飛び込んだモーナに訊ねると、モーナがケラケラと笑って答える。


「早く乗れ! 私が泳ぎながらイカダを押すわ!」


「え? イカダを押す? ちょっと、それ本当に大丈夫なの?」


 わたしは不安になり、モーナが任せろと笑う。

 ラヴィはいつの間にかイカダに乗っていて、ちょこんと行儀正しく正座をしていた。


 こうして、わたし達はお姉を助ける為に、随分と遅れて川上りを開始した。


 お姉、絶対助け出してみせる。

 だから、それまで無事でいてね。

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