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幕間 変態の前では馬鹿がまともに見える

※今回はモーナス視点のお話です。

 性悪男をマナが倒して2日目の朝。

 朝ご飯を食べ終えた私は、暇だから日向ぼっこをする為に、鉱山街を出ようと歩いていた。


「モーナスちゃーん!」


 不意に声をかけられて振り向くと、私に手を振って走って来るスミレがいた。

 スミレは魔族でわたしの知り合いだ。


「モーナスちゃん、聞いて欲しいなの。もうやってられないなの」


「何かあったのか?」


「あったってもんじゃないなの。幼女を助けるってお話でモーナスちゃんに呼ばれたのに、むさいおっさんの相手をする事になってしまったなのよ」


「むさいおっさんって誰だ? 私はそんな奴知らないぞ」


「バーノルドとか言うおっさんなの」


「ああ、リングイ=トータスを名乗ってた豚か」


「その豚……じゃなくて人なのよ。豚って言ったら、豚に失礼だし、一部の特殊な性癖な人が喜ぶだけなの」


「そんなのはどうでも良いわ。私は今から鉱山街と鉱山を抜けて、日向ぼっこするから行くわ」


「待ってほしいなの!」


 スミレに腕を掴まれる。

 面倒臭い奴だ。


「私は偽物には興味ない。それに結局三馬鹿の1人を見つけたと思ったら、騙されて悪事をしていただけだったんだぞ。日向ぼっこでもして気分転換しないとやってられないんだ」


「サガーチャちゃんのお手伝いと掛け持ちでしてるお仕事なの?」


「そうだ。本気で戦うなとか言われているし、ストレスがたまるわ」


「それは仕方が無いなの。私と違ってモーナスちゃんは―――」


「いたいた! こんな所で何やってって~、そこにいるのはモーナスさんじゃないですか。やっほーですね~」


「――うげ。見つかったなの」


 スミレと話しているとランが宙を飛んでやって来た。

 ランは兎の獣人でフロアタムの兵士だ。

 普段はワンドの護衛だったか教育係だったか侍女だったか、とにかくそんな感じのふざけた喋り方をする奴だ。


「ラン、スミレが邪魔だからさっさと持ってけ」


「裏切り者なの!」


「はいはい。ただいま~って言うか、モーナスさんも手伝って下さいよ~。どうせ暇なんでしょ~?」


 こいつも面倒臭い奴決定だな。


「私は日向ぼっこに向かう途中で忙しいから駄目だ」


「ほら~。やっぱり暇してるじゃないですか~」


「暇じゃない!」


「モーナスちゃん、観念して一緒にお仕事するなのよ~」


「そうですぜ旦那~。観念してくだせえ」


 なんなんだこいつ等。

 こんな面倒臭い連中に構ってられないから、私は無視して先を急ぐ事にした。

 今日は良い天気に違いないから急ごう。

 ここはドワーフ鉱山の地下にあるから外の様子なんて分からないけどな。


「お礼に、今朝トライアングルの市場で仕入れたばかりの活きの良い魚のフルコースが出ますよ、モーナスさん」


「それを先に言え!」


 日向ぼっこは保留だ。

 きっと今日は雨が降ってて出来ないわ。


「モーナスちゃんちょろすぎなの」 


「ん?」


「何でもないなの」


 心の広い私は、仕方が無いのでスミレとランの手伝いをしてやることにした。

 今日の昼飯は魚のフルコースだ。


 歩くと時間がかかるから、ランの魔法で風に乗って目的地へと向かう。

 私が使う重力の魔法と違って、浮いていると言うよりは、風に乗っているという感じで悪くない。


 目的地は大きな屋敷だった。

 スミレとランの2人からここにマナが捕まって奴隷にされてたと聞いて、粉々に破壊してやろうかと思ったけど止められた。


「それでそいつが豚なのか?」


「豚? 確かに見た目が豚ですけど、この男がバーノルドですよ~」


 最初に鎖で縛られて身動きの取れない豚を紹介された。

 今からこの豚を拷問にかける手伝いをするのかと思って、とりあえず重力で地面に這いつくばらせたら、スミレに止められてやめる。


「モーナスちゃん、何でもかんでも暴力で解決しようとするくせは治ってないなのね」


「失礼だな。人外に容赦がないだけだ」


「あはは~。一応これでもヒューマンですよ~。って、それよりも」


 ランが咳払いを一つする。

 それから、地面に這いつくばったまま立てないでいる豚を一瞥してから話し出した。


「実はですね、この男が奴隷として雇っていた子供がいるんですけど、その子供達が何人か行方不明なんです。何処に隠したか聞いても知らないの一点張りで困ってまして。ある程度の拷問をしても話さないので、本当に知らないと判断しました。この男の話では、元々この屋敷は買い取ったもので、元々住んでいた住人に聞かないと、細かな家の構造が分からないらしいんです。それでスミレさんにはこの男の屋敷内に隠し通路が無いか調べてもらっていたんです。それが見つかれば、行方不明の子供が見つかるかもしれないので。実際に既に二つほど隠し部屋と通路を見つけまして、子供ではないですが、隠し部屋の方で男性を見つけました。2日前にこの屋敷の敷地内で激しい戦いがあって、その時に隠れて出られなくなっていたそうです」


「ふーん。隠し通路か部屋を私も探せばいいのか?」


「はい。本当は兵に任せるべきなんですけど、兵にはナオ様と一緒に奴隷商人のアジトに捕えられている奴隷の解放と、他に奴隷を買い取った者達の所を優先してもらっているので」


「人手が足りてないのか。仕方ないな」


「ちょおおおっと待つなの!!」


 突然スミレが興奮気味に顔を真っ赤にさせてランに詰め寄った。


「聞いてないなの! 私が聞いていたのは、このくそデカい屋敷にあるかどうかも分からない隠し通路を探せって事だけだったなの!」


「そ、そうでしたっけ? すみません。でも、別にそんなのは――」


「全っ然違うなの! 行方不明の子供って事は、その中にも幼女がいるかもしれないって事なのね!?」


「え? いやあ、まあ、そうかもしれませんね?」


 ランが引き気味に答えると、スミレが地面に這いつくばっている豚の頭を掴んで持ち上げた。


「どうなの!? 幼女はいるなの!?」


「あ、ああ。多分。ボクちんの奴隷は女の子ばかりだからな」


「とんだ糞豚野郎なのよ!」


 スミレが豚の顔を勢いよく地面に叩きこんで埋める。

 豚は体を痙攣けいれんさせて、少ししてピクリとも動かなくなった。

 死んだか?


「こうしてはいられないなの! 今直ぐ隠し通路を見つけ出して、幼女を助け出すなのよ!」


 急にやる気を出したスミレを横目に、ランに尋ねる。


「おい、これ、私必要か?」


「……一応いて下さい。暴走されると困るので」


「もうしてるだろ」


 いつもふざけた喋り方のランも、この状態のスミレ相手だと冷静になるみたいだ。

 私は慣れてるから平気だ。


 ランと話していると、スミレがスンスンと周囲に臭いを嗅ぎ始めた。

 スミレのこれは、小さい女の子の臭いを嗅ぐ変態行為だ。

 よく分からんけど、これで小さい女の子限定で臭いがわかるらしい。

 スミレとは長い付き合いだけど、相変わらず気持ちの悪い奴だ。


「こっちなの!」


 流石は変態。

 居場所が分かったみたいだな。

 私はランと一緒に変態の後を続いて走る。


 屋敷の壁を破壊して、部屋を踏み荒して更に壁を突き破って、廊下を進んで厨房に辿り着く。

 スミレは迷う事なく一直線に流し台の下にあった扉を開いた。


「この奥から幼女の匂いがするなの!」


「改めて見ると、本当に凄いですね……」


 ランは呆けているけど、いつもの事だ。

 スミレはガサゴソと何かをやって、地下に続く隙間を見つけて下りて行く。

 それに続いてランが入って行って、私もランの後に続いた。

 その隙間は穴と梯子だけの窮屈きゅうくつなものだった。

 窮屈なのは嫌いじゃないから平気だけど、梯子は面倒だ。


 下まで降りると通路があって、明かりの無い真っ暗な場所だった。

 だけど、スミレにはそんなの関係無い。

 スミレは匂いを頼りに進んで行くだけだ。


「そう言えば、リープが裏切り者だったじゃないですか?」


 真っ暗な通路を進んでいると、不意にランが話しかけてきた。

 話し相手がほしいのかと思って、とりあえず「そうだな」と言葉を返すと、ランがため息を吐き出した。


「本当にすみませんでした。リープもそうですけど、まさか殆どの新人が奴隷商人のスパイだったなんて思いませんでした」


「気にするな。奴隷商人が武闘派集団なんて誰も予想つかないだろ。普通はそこ等辺の商人と同じで貧弱だからな」


「そう言ってもらえると助かります。で、リープの件なんですけど、念の為に注意しておいて正解でしたね」


「ああ、スミレにバティンって名乗らせたアレか?」


「はい。スミレさんをアジトに送り込んだ時に、アジトにいるスミレさんに会わない様に、リープをこっち側に置いておく事であの作戦は成功しました」


「そうだな。あの羊が戻ってたら、バティンとスミレが同一人物だってバレてたからな」


「静かにするなの」


 ランと喋っていたら、スミレが私達に振り向いて人差し指を立てて、それを口の手前に持っていって「しー」と言った。


「この先の扉から、幼女達のキャッキャウフフな話声がするなの」


「扉?」


 よく見ると確かに扉がある。

 私は猫目だから見えるけど、スミレはこの暗闇で前が見えない筈だ。

 それなのに分かるとは、やっぱり変態は違うな。


「スミレさん、キャッキャウフフとは?」


「幼女と幼女の尊い談笑なの。邪魔したら悪いから、もう少し聞いて尊さをあやかるべきなの」


「はあ……?」


 ランが首を傾げて顔をしかめて私を見た。

 私も言ってる意味が分からないからこっちを向くな。

 それにそんな事より。


「見つけたならさっさと連れてくぞ」


 私はスミレの前に出て扉を開けた。


「ま、待つなの!」


 扉を開けると、そこは宿屋の一室くらいの大きさの部屋だった。

 部屋の中には簡素な机が一つと椅子が四つ。

 ベッドはセミダブルで少し大きめのサイズ。

 そして、7人の子供達がいた。


「きゃああ!」


「うわ! 誰か来た!」


「秘密基地が見つかっちゃったー! 逃げろー!」


「ええー!? 逃げるって何処にー?」


「つ、机の下!」


「せっかく自由になれたのにー! もう奴隷はやだー!」


「み、みんな落ち着いて! あの時のお姉さんよ!」


「「「ええっ!?」」」


 ヒューマン、虎の獣人、リスの獣人、牛の獣人、猫の獣人、犬の獣人、鳥の獣人、で全部で7人。

 なんだか私を見るなり急に騒がしくなって、バタバタ走り回って転んだり布団に潜ったり机の下に隠れたり忙しそうにしていたけど、落ち着いたみたいだ。

 鳥の獣人だと思う子供が「あの時のお姉さん」と言った途端に、全員が改めて私に注目した。

 それで私も気がついた。


「あ。おまえ等あの時の子供か。博士の家では時計塔の事を聞けて助かった。ありがとな」


 あの時、時計塔でマナと再会した時に、ドワーフの王女の博士の家で出会った7人の子供達だった。

 まさかこんな所で再会するとは思っていなくて、わたしも驚いた。


「モーナスちゃんズルいなの。こういうのは一番最初に助け出す人が、一番好感度が高くなるイベントなのよ」


 スミレが文句を言いながら部屋に入る。

 その後にランが部屋に入って、名簿を取り出してパラパラとめくる。


 子供達はさっきと変わって目をキラキラと輝かせて、私に迫って来た。

 何かキャーキャーと言っているけど、流石に7人が同時に声を出しているから聞き取れない。

 ついでに背後からスミレが何か文句を言ってるけど、これも周りが煩くて聞き取れない。


「良かった。行方不明の子供が全員見つかりました。でも、何でこんな所に? とにかく、モーナスさん、ありがとうございます」


「え!? なんだ!? 聞こえないぞ!」


「あ! り! が! と! う! ご! ざ! い! ま! す!」


 何も聞こえなかったから聞き返すと、ランに耳元で叫ばれて少しムカついた。


 駄目だ。

 こいつ等煩いわ。

 黙らせるか。


 とりあえず黙らせる為に、魔力を集中して重力の魔法を――


「何しようとしてるなの!」


「――っいったああ!」


 スミレに後頭部をおもいきり強く殴られる。

 喧嘩を売られたみたいだ。


「上等だ! スミレ! ぶっ飛ばしてやるわ!」


「いくらモーナスちゃんでも幼女に手を出すのは許さないなの!」


 私とスミレの間に火花が散る。

 ランが慌てて子供達を非難させていたけど関係ない。


 この変態をこの地下に生き埋めにしてやるわ!

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