-螺鈿の葬列- 7
陽が昇りきると、水谷と散華は、麓の村に一緒に出掛けた。
飯処で軽く朝飯を食べると、散華はそこの主人に、水谷が蒔絵の見習いとして工房に入ったという風に説明する。
「圭吾は心臓に持病がある。何かあった時は、ためらわずに医者を呼んでやってほしい」
「そりゃ、大変だ。他に困った事があったら、何でも相談しな!散華さんの弟子なんて、苦労しそうだしな」
気さくに笑い掛ける主人に、散華は苦笑いを浮かべた。
そして、テーブルに金を置くと、席を立つ。
「ごちそうさん」
そう言った散華は、伏目がちに店を出て行った。
どこか素っ気ない態度に、水谷は、いぶかし気に散華を追い掛ける。
「散華さん、どうかしたんですか?」
「別に」
「でも・・・なんか、怒ってません?」
「怒ってない」
ぶっきらぼうな言い方に、水谷は黙り込んだ。
これ以上しつこく聞くと怒鳴られそうな気がして、半歩ほど距離を置く。
そんな水谷に、散華は眉間にシワを寄せた。
「本当に怒ってない」
「あ・・・はい・・・」
「人の多い所が苦手なんだ。あの店の主人に言われた事を、根に持ってるワケじゃない」
そう言うと、散華は商店街へと足を運んだ。
しかし、特に買い物はせずに、そこの店の人にも同じように水谷を紹介する。
一軒一軒、全部の店を回り尽くすと、今度は民家にまで足を運んだ。
持病の事があるので、こういった事を多くの人に知っておいてもらった方が良いのは分かるが、それにしても、お正月の親戚への挨拶回りのようである。
何故ここまでするのかと思い、水谷は散華に尋ねた。
「顔見せだ。都心と違って、こういう事をおこたると、後々厄介な事になる」
「厄介な事?」
「後で分かる」
散華は、ますます機嫌が悪そうな態度で、村はずれにある小さな寺の山門をくぐった。
境内を歩いていくと、寺の住職らしい男が掃除をしており、ふとコチラに気が付く。
「おはようございます。散華さん」
「おはようございます」
今までとは打って変わり、いつもの落ち着いた声音で、散華は挨拶を返した。
これまでと同じように水谷を紹介すると、他の村人の時とは打って変わって、親し気に世間話をし始める。
どうやら、人の好き嫌いが非常にハッキリしているらしい。
あまりの態度の違いに、水谷は戸惑った。
同時に、水谷の心に不安がよぎる。
なら、自分は散華にどう思われているのだろうか。
このぶっきらぼうな態度からすると、あまりよく思われてないのかもしれない。
水谷は締め出されたような気分になり、密かに溜息をついたのだった。




