-鬼灯の送り火- 8
かざぐるまが、カラカラと回っている。
曼殊沙華が、暗闇に浮かんでいる。
『現世』と『隠世』の境界――
『隠世』へと続く参道が、どこまでも続いている。
同じ景色ばかりで、どこからが『現世』で、どこからが『隠世』か定かでない。
そんな中を、一人の小童が歩いていた。
蝉の翅の耳飾りが、『隠世』から流れて来る淀んだ風に揺れている。
長い前髪に隠れた表情は、苦虫をかみつぶしたように歪んでいた。
「いるか、『白蓮』」
獣のうめき声のような風が唸ると、参道の奥から人影が近づいてきた。
漆黒の学生服に、金糸の織り込んである半袈裟、僧が使う長い数珠を首から下げている。
顔立ちは幹久ソックリであったが、髪は色を抜いたように真っ白であった。
その品の良い口元が、紅い三日月のように笑っている。
――たのしい
不意に、その悠然と歩く姿が消えた。
『虚』は、気配を追って背後を振り返ったが、前も後ろも同じ景色が延々と続いているだけで、『白蓮』の姿は見当たらない。
「チョロチョロと『遁甲』しながら走り回るな!遊んでる時間はない!!」
まだ幼さの残る甲高い笑い声が、木々のさざめきに混じって響き渡る。
『虚』は忌々しげに口元を歪ませると、錫杖を地面に突き立てた。
すると、錫杖についた輪が、互いにぶつかり合って鳴り響き、周りに漂っていた霧が一瞬で消える。
同時に、『遁甲』していた『白蓮』は姿をさらされ、嬉々とした表情を『虚』に向けた。
「みつかった」
「見つけたい相手は、お前ではない」
「いじわる」
「お前に好かれたいとも思っておらん」
『白蓮』は悲しそうにうつむいた。
その様子に、『虚』は更に逆上する。
「いちいち、気にするな!!」
「こころない」
「あぁ、この上ない誉め言葉だ」
『白蓮』はクスクスと笑い出した。
『虚』は、精根尽き果てたとばかりに溜息をつく。
「行くぞ。本当に時間がない」
「手をかして」
「おいぃ・・・本当に遊んでる時間は」
「走るから」
『白蓮』は穏やかに微笑むと、淑女に対するかのような優雅さで、手を差し出した。
『虚』が、疑いの眼差しで手を伸ばすと、その小さな手を優しく握る。
「ちいさい」
『白蓮』がニッコリ笑うと、『虚』は口を真一文字にして黙り込んだ。
「おこった?」
『白蓮』が問い掛けても、『虚』は、かたくなに押し黙る。
早くしろという無言の圧力だと気付き、さすがの『白蓮』も笑うのをやめた。
「ごめんね」
『白蓮』が『虚』から目線をそらして走り出すと、二人の姿は参道の闇へとにじんでいったのだった。




