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灰色帝都の紅い死鬼  作者: 平田やすひろ
鬼灯の送り火
78/153

-鬼灯の送り火- 6

 夢彦は、診療所にたどり着くと、玄関の扉を勢い良く開けた。


 しかし、待合室には誰もおらず、母屋(おもや)に続く扉の向こうから、泣き叫ぶ声が聞こえて来る。


 恭一郎と夢彦は顔を見合わせると、母屋に向かって駆け出した。



「薫!?」



 夢彦が居間に入ると、薫が夢彦の母親に抑えられ、涙を流して(わめ)き散らしていた。


 しかし、薫は夢彦の姿を見るや、暴れるのをやめ、その場に崩れるように座り込む。


 そんな薫に、夢彦は駆け寄ると、抱え込むように強く抱き締めた。



「と・・・ぁん・・・・かぁ・・・うっ・・・」



「留守にしていて、すまない。不安であっただろう?」



「・・・なさい・・・・ご、ごめ・・・・」



「薫は悪くない。私が大事な時期なのに、側に付いておらんかったからだ」



「・・・いない・・・どっか・・・・」



「大丈夫、薫の側についてるから。母さんも、お(じい)ちゃんたちが元気にしてくれるよ」



「ちがっ・・・赤ちゃんの・・・」



 薫は夢彦の後ろにいた恭一郎に気が付き、目を見開いた。


 その視線を受け、恭一郎は、薫が何かを訴えようとしているのを悟る。


 すると、カタリと軋む音が左肩から聞こえ、恭一郎は薫に向かって、神妙な面持ちを向けた。



「薫、大丈夫だ」



「・・・!」



「母さんが良くなるように、応援してやれ」



「・・・うん」



「夢彦、俺は待合室にいるから、薫と一緒にいてやれ。先生たちが出てきたら呼びに行く」



 夢彦は、恭一郎の方へ振り向くと、小さくうなずいた。


 一緒に泣きたいのを必死にとどめているといった様相であり、恭一郎は心が軋む思いがする。


 二人の悲しみに呑まれないよう、恭一郎は(りん)とした瞳で、その場を後にしたのだった。



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