-鬼灯の送り火- 6
夢彦は、診療所にたどり着くと、玄関の扉を勢い良く開けた。
しかし、待合室には誰もおらず、母屋に続く扉の向こうから、泣き叫ぶ声が聞こえて来る。
恭一郎と夢彦は顔を見合わせると、母屋に向かって駆け出した。
「薫!?」
夢彦が居間に入ると、薫が夢彦の母親に抑えられ、涙を流して喚き散らしていた。
しかし、薫は夢彦の姿を見るや、暴れるのをやめ、その場に崩れるように座り込む。
そんな薫に、夢彦は駆け寄ると、抱え込むように強く抱き締めた。
「と・・・ぁん・・・・かぁ・・・うっ・・・」
「留守にしていて、すまない。不安であっただろう?」
「・・・なさい・・・・ご、ごめ・・・・」
「薫は悪くない。私が大事な時期なのに、側に付いておらんかったからだ」
「・・・いない・・・どっか・・・・」
「大丈夫、薫の側についてるから。母さんも、お爺ちゃんたちが元気にしてくれるよ」
「ちがっ・・・赤ちゃんの・・・」
薫は夢彦の後ろにいた恭一郎に気が付き、目を見開いた。
その視線を受け、恭一郎は、薫が何かを訴えようとしているのを悟る。
すると、カタリと軋む音が左肩から聞こえ、恭一郎は薫に向かって、神妙な面持ちを向けた。
「薫、大丈夫だ」
「・・・!」
「母さんが良くなるように、応援してやれ」
「・・・うん」
「夢彦、俺は待合室にいるから、薫と一緒にいてやれ。先生たちが出てきたら呼びに行く」
夢彦は、恭一郎の方へ振り向くと、小さくうなずいた。
一緒に泣きたいのを必死にとどめているといった様相であり、恭一郎は心が軋む思いがする。
二人の悲しみに呑まれないよう、恭一郎は凛とした瞳で、その場を後にしたのだった。




