-空蝉の宴- 2-2
本格的な雨は、更に打ち付けるような雨に変わった。
雨どいを流れる水音が、ビチャビチャと不協和音を奏でている。
そんな中、飲食店の裏口の軒下で、犬飼は不機嫌そうに煙草をふかしていた。
地面から跳ね返った雨が、嫌がらせのように足元を濡らしている。
「あぁ~っ・・・もう、ついてねぇ・・・!」
この雨にやられ、持っていた煙草の大半がダメになってしまっていた。
たった今ふかしているのは、シケらなかった唯一の生き残りである。
ヘビースモーカーの犬飼にとって、ストックがゼロという状況は拷問に近かった。
発狂しそうなのを耐えながら、ココから一番近い煙草屋の位置ばかりが頭に浮かぶ。
早く小雨にならないかとイライラしていると、向こうの路地の方から、先程の派手な女が血相を変えて走ってきた。
あまりにこわばった顔に、犬飼は思わず腕を掴む。
「な、なによアンタ!!」
「アンタこそ、そんな顔してどうした?」
女は、来た道を見やって息を呑んだ。
犬飼も怪訝そうな顔で、路地の向こうを眺める。
「く、来るわ・・・!」
「来る?さっきの醜男か?」
「イイからっ、離して!!」
そう言うと、女は腕を振り払い、なりふり構わず駆けて行った。
犬飼は呆然とその姿を見送ると、再び女が逃げてきた方を凝視する。
凝り固まった闇が、水気を含んで膨張しているようであった。
「なんか・・・嫌な予感がするなぁ」
しかし、言葉とは裏腹に、自他ともに認める狂人的な好奇心が、心を酩酊させ、危機感を失わせていく。
脚は泥のような闇を掻き分け、女がやってきた方へと進んで行くのであった。




