-蛇落の褥- 4-1
青い山々が、ぐるりと辺りを囲んでいる。
立ち込める入道雲は、夏の陽の光を受けて、目が眩むほどに白い。
そんな色鮮やかな夏の景色の中、一人の青年が丘を登っている。
精悍な顔付きであったが、背丈は150センチぐらいと小柄で、小学生と見間違えそうなほど低い。
あちこち修繕した跡がある古めかしい家に着くと、青年は息を切らして、開け放たれた戸口をのぞき込んだ。
「あっ、恭兄ぃ!」
すると、色あせた着物姿の少女が、青年の方を指差した。
その声に、さらに幼い少女が顔を上げ、側にいた夢彦も戸口の方へ振り返る。
「おかえり、恭一郎」
「・・・お前、また来てたのか」
「あぁ、小鈴たちと遊んでいた」
見ると、周りにはイヌタデやらカエデの葉が散らばっていた。
箸に見立てたのか、木の枝がそろえて置いてある。
「十六の中学生が、ちびガキ相手にママゴトしても、つまらないだろ」
「ママゴトほど創造的な遊びはないぞ、恭一郎」
夢彦が楽し気に微笑むと、最初に恭一郎に気が付いた少女――小鈴が、夢彦の着物の裾を引っ張った。
頬をプックリ膨らませると、気の強そうな瞳で夢彦に訴える。
「夢兄ぃ、ネコは喋っちゃダメなんだよ」
「あぁ、すまぬ」
「すまぬじゃなくて、ニャ~ア!」
すると、ふんわりとした笑みを浮かべ、夢彦は言われるがままにネコのマネをした。
小鈴に合わせているというより、一緒に楽しんでいる様子に、恭一郎は苦笑する。
「下の沢でスイカを冷やしてる。食べに来い」
「やった~!スイカ~!!」
「スイカ~」
「二人共、まずソコを片付けろ。夢彦も来るだろ?」
夢彦は瞳をキラキラとさせると、両手を上げて喜んだ。
すると、小鈴と小梅が面白がって、一緒にバンザイをし始める。
もはや、子供が三人そろって大騒ぎしてるようにしか見えないと、恭一郎は吹き出して笑ったのだった。




