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灰色帝都の紅い死鬼  作者: 平田やすひろ
媼主の速贄
115/153

-媼主の速贄- 5

 広く暗い御堂(おどう)の中心に、燭台(しょうくだい)の明かりが一つ(とも)っている。


 きらびやかな装飾が、その(ともしび)のかすかな光を受けて、(おごそ)かな様子で闇に浮かび上がっていた。


 そんな堂内にポツンと一つ、小さな人影が、あぐらをかいて座り込んでいる。


 そのすぐ側を、ヒラリと薄緑色の燐光(りんこう)が横切った。




 リン・・・




 まるで銅製の風鈴のような音を奏で、薄緑色の燐光は、楽し気に飛び去った。


 そして、涼やかな光は明滅すると、スッと灯が消えるように姿を消す。


 その姿を追うように『虚』が顔を向けると、反対側から薄緑色の光が視界の端で光った。


 『虚』は目を細めると、戯れる薄緑色の光に、口元をほころばせる。




「・・・その様子だと、今日も無事に過ごせたようだな」




 『虚』は床に置いた錫杖(しゃくじょう)を手に取ると、甲高い金属音を響かせて立ち上がった。


 すると、薄緑色の燐光は、慌てて出入り口に飛んで行き、まるで(さえぎ)るように浮遊する。




「ココから出なければ大丈夫だ。もし、何者かが入って来ても、教えたとおりに逃げれば良い」




 しかし、薄緑色の燐光は、身を震わせて明滅した。


 清らかだった音色は、まるで警鐘のように鳴り響く。




「頼むから静かにしてくれ。(わめ)いたところで、連れて行けぬ」




 淡々とした声音に、薄緑色の燐光は、吹き消されたかのように光を失った。


 そして、静かに堂の奥へと飛び去り、闇にまぎれるように姿を消す。




「『露光(ろこう)』」




 薄緑色の燐光は、応えるように、かすかに光を灯した。


 控えめに響く風鈴の音は、物悲しさを誘う。




「五十番」



「―――」



「灯の側におれ。闇の中では、逆に見つかりやすい」




 『虚』が扉を開けると、(よど)んだ風が、じわりと堂内に入り込んで来た。


 その禍々(まがまが)しい空気に、薄緑色の燐光は、身震いするように明滅する。




「決して自ら扉を開けるでないぞ。呼びかけられても、返事をしてはならん」




 薄緑色の燐光は、うなずくように、ほのかに輝いた。


 別れを告げるように、鈴の音が寂しげに鳴り響く。


 そんな清らかな音色をかき消すかのように、扉は重々しい音を上げ、閉じられていったのだった。

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