-媼主の速贄- 5
広く暗い御堂の中心に、燭台の明かりが一つ灯っている。
きらびやかな装飾が、その灯のかすかな光を受けて、厳かな様子で闇に浮かび上がっていた。
そんな堂内にポツンと一つ、小さな人影が、あぐらをかいて座り込んでいる。
そのすぐ側を、ヒラリと薄緑色の燐光が横切った。
リン・・・
まるで銅製の風鈴のような音を奏で、薄緑色の燐光は、楽し気に飛び去った。
そして、涼やかな光は明滅すると、スッと灯が消えるように姿を消す。
その姿を追うように『虚』が顔を向けると、反対側から薄緑色の光が視界の端で光った。
『虚』は目を細めると、戯れる薄緑色の光に、口元をほころばせる。
「・・・その様子だと、今日も無事に過ごせたようだな」
『虚』は床に置いた錫杖を手に取ると、甲高い金属音を響かせて立ち上がった。
すると、薄緑色の燐光は、慌てて出入り口に飛んで行き、まるで遮るように浮遊する。
「ココから出なければ大丈夫だ。もし、何者かが入って来ても、教えたとおりに逃げれば良い」
しかし、薄緑色の燐光は、身を震わせて明滅した。
清らかだった音色は、まるで警鐘のように鳴り響く。
「頼むから静かにしてくれ。喚いたところで、連れて行けぬ」
淡々とした声音に、薄緑色の燐光は、吹き消されたかのように光を失った。
そして、静かに堂の奥へと飛び去り、闇にまぎれるように姿を消す。
「『露光』」
薄緑色の燐光は、応えるように、かすかに光を灯した。
控えめに響く風鈴の音は、物悲しさを誘う。
「五十番」
「―――」
「灯の側におれ。闇の中では、逆に見つかりやすい」
『虚』が扉を開けると、淀んだ風が、じわりと堂内に入り込んで来た。
その禍々しい空気に、薄緑色の燐光は、身震いするように明滅する。
「決して自ら扉を開けるでないぞ。呼びかけられても、返事をしてはならん」
薄緑色の燐光は、うなずくように、ほのかに輝いた。
別れを告げるように、鈴の音が寂しげに鳴り響く。
そんな清らかな音色をかき消すかのように、扉は重々しい音を上げ、閉じられていったのだった。




