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妙なくらげに拉致られて。(仮  作者: 隣の平原
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1話:転移もしくはあぶだくしょん

頑張りたい


 みょんみょんみょんみょん……


 ある日の帰り道。僕は歩き慣れたいつもの通学路から足を離し、空中浮遊をキメていた。


 みょんみょんみょんみょん……


 体をいくら動かしても降りることができない。むしろ少しずつ持ち上がっていく。これはダメそうだな、と抵抗を諦める。どうしようねこれ。


 手持ち無沙汰になったので、ロボットダンスを踊ってみる。多分今の僕を目にした人は、なんかシュールだ、と感じるのではないだろうか。今の時間帯だとここら辺を歩いている人なんてほとんどいないのが残念だ。


 みょんみょんみょんみょん……


 とうとう塀の高さを越えてしまった。しかし……これ、僕以外は持ち上がらないのだろうか。気になる。とりあえずポケットの中に入っていた十円玉を落としてみよう。


 てやっ。ちゃりんっ。


 ……さようなら僕のギザ十。後のことは君に任せることにするよ。僕はもう、行かなくちゃいけないみたいだから。キランッ、と休み時間に必死に磨いていたギザ十は僕の声に応えるかのように輝いてくれた。ありがとうギザ十君。


「えっちょっ、浮いて、えっなんで、回、えっ? なんかかすかにみょんみょん音するし!」


 むっ。背後から人の声が。この声は……


「千影ちゃんさっきぶり」


「さっきぶりじゃなくてコレどーなってんの?! なんで浮いてんの?! なんで回ってんの?!この音は何?!」


 今僕のすぐ下で騒いでいるこの子は岸田きしだ千影ちかげという名前の、言ってみれば……同じマンションのお隣さんだろうか。授業後、教室でぐっすり眠っている帰宅部の僕とは違い、すぐ家に帰ってぐっすり眠るタイプの帰宅部だ。違うクラスではあるが、たまに一緒にお昼ご飯を食べたり、教室で並んで寝たり、遊びに行ったりしている。親が出掛けてたから今日の朝はもう1人と3人で朝ご飯を食べたよ。


 さて、いろいろ聞かれたけど、浮いている理由はちょっと僕には分からない。取り敢えず他の2つに答えるとするなら……


「なんか浮いてきたから降りようとしてみたけどダメだったからロボットダンスを踊ってて調子に乗ってターンしたら止まらなくなった」


「馬鹿なの!?」


 馬鹿にされてしまった。


「上がるスピードも少しずつ速くなってるみたいだね」


「そんな淡々と喋ってんじゃない! こうなったら、ちゃんと受け止めてよ!」


 そう言って走っていく千影ちゃん。ちゃんと受け止めなさいよとはどういうことだろうか。と、思っていると、視界の端に塀をよじ登っている千影ちゃんが見えた。塀の上に立った千影ちゃんはそのまま塀の上を走ってくる。そして大ジャンプ。反射的に抱きしめたものの、ぶつかった瞬間に千影ちゃんの顎が肩に刺さって痛かった……


 みょんみょん、みょんみょん……


 2人分の体重が掛かっているからだろうか。上昇速度が心なしか落ちた気がする。


「そのまま離さないでよ!」


 そう言って、千影ちゃんはポケットに手を入れ、中から携帯電話を取り出して、誰かに電話をかけ始めた。



 それもしかしなくても僕のじゃない? あ、だから来たのか。



 程なくして通話は繋がった。誰にかけたんだろう。


『おー、純一じゅんいち、どうした』


 電話の相手は新庄しんじょう創一そういちという名前のクラスメイトだった。今日の朝一緒にご飯を食べたもう1人だ。陸上部に所属していて、部内では不動の3番手というポジションを確立しているらしい。あと、創一は同じマンションの1つ下の階に住んでいるので、たまに遊びに行ったり来たりする。この前遊んだレースゲームでは、千影ちゃんが無双していた。かてない。


「創! わたしよわたし! 今学校でしょ! 急いで帰ってきて!」


『千影か。急いで、って今か?』


「今! 早く! 走って!」


『わ、わかったよ。ちょっと待ってろ』


「待てない! 全力で走って!」


『わかったわかった! あ、すいません呼ばれたんで帰ります。はい。すんません』


 千影ちゃんは、ぶちっと通話を終了してすぐ他の人に電話をかけ始めた。髪の毛が顔に当たってくすぐったい。


『おうなん────』


「いまどこ!」


『ち、千影?! なんでアイツの携帯から…バイト終わったとこだけど……』


「家から学校までの道の途中に2年前くらいに潰れたパン屋あったでしょ! そこまで来て!早く!」


『え、わ、わかった』


 うーむ。いつも通り兄使いの荒いこと。怜士さんも大変だな……


 千影ちゃんのお兄さん、怜士れいじさんは言ってみればシスコンだ。ただ、マンガとかで見るような分かりやすいシスコンではなくて、でれでれはしていないけど、千影ちゃんに対してだけはイエスマンになってしまうタイプだ。褒めて伸ばす方針だとも言っていた。


「あとは……お母さんは純のお母さんと旅行行ってるし、創のお父さんは確か遅いって、どうしようか……」


 どうやら千影ちゃんはみんなでくっつくことで高度を下げようとしていたらしい。その場合アレだろうか。最終的に僕は風船みたいに紐でくくられることになるのだろうか。


みょん、みょんみょんみょん……


 ぬっ、この足音は……創一!


「しかし早く帰ってこいって一体何が……おぅ? えっ、浮いっ?!」


「塀から跳んで! 早く掴まって!」


「お、おう!」


 指示通り手早く塀に登り、僕たちではなく、近くにある電柱へジャンプ、すぐさま電柱を蹴って飛びかかってくる。流石の運動部。帰宅部な僕たちとは違う世界に住んでいるな。いやそれは千影もな気がしてきた。


 うぐぅ。背中に走る衝撃。やはり質量こそ力……


「ちょっ、頭、頭押さえつけんな! 痛い!」


「す、すまん千影……」


「ぐぇ、」


「「じ、じゅんいちー!」」


 首が締まる。


 みょん、みょん、みょん、みょん……


「なんじゃこりゃー!?」


 怜士さんが到着したようだ。しかし位置の関係で今の僕には見えない。というか既に結構な高度に達してしまっている気がする。創一の体重がプラスされたため、辛うじて上昇はしていないが、塀は軽く超えている。届くのだろうか。


「と、取り敢えず俺がしがみつけばいいんだな?! どうしよう、電柱登るか……?」


 流石の察しの良さだ。しかし、確か怜士さんは元帰宅部。最近筋トレを始めたと言っていたが。不安が残る。


 み゛ょん、み゛ょん、み゛ょん、み゛ょん……


「な、なぁ。また浮いてきてないか……?」


「早くー! 怜士! 早くしてー!」


「わかった! 今行く! うおおおお!」


 電柱を登り始めた怜士さん。おお、早い。流れるように登って行く。


 み゛ょん゛み゛ょん゛、み゛ょん゛み゛ょん゛……


 なんだろう。嫌な予感がする。何か、初見ボスのブレス待機モーションを見たときのような……

 

 僕の不安をよそに、怜士さんは僕たちよりも高いところで跳ぶ準備を始めた。体勢がキツそうだ。


「行くぞぉぉぉぉ! おぉりゃあ!」


 怜士さんが跳んだ。綺麗に僕たちのところへ向かってくる。怜士さんは僕たちを摑まえる為に腕を広げた。あと少し、あと少しで……


 み゛ょん゛っ!


 そんな音とともに、怜士さんが、世界が、ものすごい勢いで真下に流れた。いや、違う。僕たちが急上昇した。



 悪い予感はよく当たる、ということだ────



「「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」


「ああぁぁぁぁぁぁあああぁぁ!? ごぶっ」


 そして、そんな絶叫を発しながら、僕たちは怜士さんとギザ十君をその場に残して、空へ旅立った。




 一体どこへ行くというのだろうか。

あっ、ちなみにこの作品には恋愛要素は多分ないです。多分。

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