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第一話「警官、桐乃達也」

 時は西暦2020年。

 日本の各地で神隠しが多発し、同時に人々は今まで見たことのない、いや遺伝子のどこかでかすかに知っている未知の存在の恐怖に包まれていた。

 その名はイモータルズ。

 元は神隠しにあった人間だと言われている。

 体のあちこちが切断され、その体のパーツがちぐはぐにつなぎ合わされ、時には骨が露出したまま動き回り、人に襲い掛かる怪物である。

 イモータルズは決して死なない。

 銃で穴だらけにしようとも、刃物で何度切り刻もうとも、既に死んでいる者を殺す事は出来ない。

 出来る事は危害を与えようが無い程に切り刻んでバラバラに格納するか、強固な密閉された金属製の空間へ隔離することのみ。

 イモータルズは痛みは感じるので、傷つければ時間は稼げるという事は知られていたが、そのような状況はまさに普通の人々にとっては死の寸前の状況である。

 現時点ではまだ辛うじて、警察や自衛隊による武力制圧が勝っている。

 だが、相手は神出鬼没であり、その勢力が拡大しているという情報は国策により意図的に隠されていた。


 千葉県佐倉市のとある警察署に電話で一本の通報があった。

 山間にある肉処理工場、数年前に廃棄された施設の周辺で神隠しが数件発生。

 半日前に近隣の2家族が消息を絶った。

 そしてその工場施設内を捜索した猟友会のメンバーからのイモータルズの目撃情報あり。

 可能な限りの武装をしての応援要請である。

 警察官、桐乃達也はこの情勢を受けてすべての男性警察官に支給された50口径オートマチック拳銃を胸のホルスターに装着し、腰には特殊な警棒をぶら下げて、あわただしくパトカーの後部座席に乗り込む。

 2台のパトカーはサイレンを鳴らしながら10名の警察官を乗せて発進した。


 県道を進む中、パトカーの助手席に乗ったベテランの巡査長が後ろを振り向いて口早に指示する。


「いいか? 現場についたら常に周囲に注意を払い、2メートル以内には絶対にイモータルズを近づけさせるな!

 近寄る前に撃つか、全力で逃げて仲間と合流するんだ!

 以前、不意打ちでクローゼットから飛び出したイモータルズに掴まり、頭をねじ切られた奴もいる。

 可能な限り見通しの悪い狭い場所を避けろ!

 今回の目標は消息を絶った佐藤家と岸田家の家族が居るか、そして生きているかの確認をし、可能なら救出する事だ。

 死んでいたら2時間後に到着する陸上自衛隊に任せてその場から素早く退避するんだ!」


 パトカーを運転する同僚、山本はそのハンドルを持つ手が小刻みに震えている。


「無茶苦茶だ……たった10人の警官で3丁のショットガンで……イモータルズの『巣』に飛び込むなんて……。

 半日経ってるんでしょう?

 もう陸自に任せちゃいましょうよ……」

「馬鹿言えっ! 今この瞬間もまだ生きて助けを求めているかも知れない。

 奴らは捕らえた人間を『作り変える』のに時間がかかる。

 8人が捕らえられ、最後の一人が5時間後生きて救出されたこともあるんだ!」


「……さっと見たら帰りましょうよ……」

「まあ……俺達がやるべき事は生存者の確認と可能な限りの救出。

 被害者も大切だが、何よりも自分の身を第一に考えて行動しろ!

 いいな!」


 ***


 2台のパトカーはついに目的の肉処理工場の門をくぐった。

 工場は廃棄されて2年経過しており、敷地内のあちこちのコンクリートやアスファルトの隙間から雑草が生い茂っている。

 パトカーは敷地内のど真ん中でUターンし、あえて外へ車体を向けていつでも脱出できる状態で停止した。

 ドアを開けて地面に立った巡査長はショットガンを片手で抱え、薬きょうを装填する。

 桐乃達也も拳銃を構えてセーフティを外し、注意深く周囲を見回す。

 入って来た入り口ゲートを除き、3方向に3階建ての建物がある。

 ことごとく窓ガラスは破れ、夕焼けに照らされて黄色い壁のあちこちに暗がりが影を落とす。


「桐乃! お前と山本は正面の建物を捜索しろ!

 手早く、慎重にな。

 急がなければ太陽が沈む」

「了解」

「了解……しました」


 達也と山本は正面の建物へと走り寄った。

 建物の正面入り口には錆びたシャッターが下りており、ロックが掛かっているのか、それとも錆のせいか二人がかりで持ち上げようとしても上がらない。

 二人は少し隣へと移動し、割れた窓から中の様子を懐中電灯で照らして伺った。


「何も居ませんねぇ……」

「山本、お前は左から回り込みながらチェックしろ。

 俺は右から行く。

 この建物の裏側で合流だ」


「分かった……」


 達也は山本と別れ、建物の右へ回り込みながら懐中電灯で中をチェックしつつ進んだ。

 中に見えるのは荒れ果てた棚や机、ビーカーのような残骸のみである。

 さらに建物の横を回って裏側へと移動する。

 建物の裏側中央には中へと入る入り口が見えた。

 ちょうど反対側からも、懐中電灯で中の様子を見ながら山本が近づいてくる。


(あいつ本当に中をちゃんと見てるのかよ)


 山本の歩みは早く、達也より早く中央の入り口へと到達、入り口の中を見た。


「うわぁぁぁっ! たっ……たっ……」


 山本は後ろに飛びのこうとして躓き、尻もちを付く。

 そして体を反転させて這いずりながら逃げようともがく。


「どうしたっ!?」


 達也は裏側中央の入り口に向かって走った。

 そして中を見て絶句する。


 そこには人の体をして牛の頭をした……人間のようなものと、牛の体をして人の頭を首から生やした牛のようなものが並んで立っていた。

 2体ともこちらを向いている。


「こっ、こちら山本、イ、イモータルズが……こっ、殺され……だっ、誰か」


 腰を抜かして這いずりながら山本は無線で必死に報告をしようとしているがまともな言葉になっていない。

 牛のようなものは長い首をグネリと達也の方へ向け、その先についている人間の顔でしゃべった。


「お前……待てよ……いいからいいから、そこを動くな」


 人のようなものは牛の頭をまっすぐこちらに向ける。

 牛のようなものは頭を一瞬さげ、達也の方へと突進し始めた。


「この野郎っ!」


 達也はこちらへ走りながら上下する牛の怪物に向けて両手で拳銃を構え、一発射撃した。

 拳銃は牛の首と肩の間辺りに命中。


「うんぬっ」


 牛の怪物は少し怯むが突進を止めない。

 もう一発射撃。

 人の顔の額に命中。


「うおぉああぁぁ……フ――――!」


 牛の怪物はさっきよりもダメージを受けたのか、一瞬足を止めるが再び走り出す。


「いでぇ……いでぇよぉおおおぉぉ!」


 達也は拳銃を構えたまま、目の前5メートルまで迫る牛の怪物を見てアドレナリンが恐怖と共に噴き出すのを感じた。


(もう一発撃つ猶予はない。

 右か、左へとかわさなければならない。

 この牛の化け物は……俺の動きを予測して反応するほどの知性があるのだろうか?)


 達也は足をまげて身を縮こまらせて待ち、牛の化け物が目前に迫った瞬間に右へと飛んだ。

 そのまま地面でローリングして牛に向き直る。


「いぃぃでぇええ! いでぇぇえ!」


 牛は突進の勢いで突き進み、地面をスリップしながらこっちへと向き直ろうとする。

 達也は牛の頭を狙い拳銃を連発した。

 何発もの50口径の弾丸が執拗に牛の首の先にある人の頭に命中、血は飛び散る様子が無いが、赤くにじんだ穴が幾つも空いて、ミンチのような破片が飛び散る。

 牛の化け物はヨロヨロと足をもたつかせ、ドサッとその場に倒れた。


「こいつめっ! 食らいやがれっ! この野郎!」


 達也は近くに落ちていた鉄筋を広い、何度も何度も牛の化け物の頭部に突き刺し続ける。

 もはや正気ではないように見えるが、この牛が動けば自分が殺される。

 そして何度も頭をぐちゃぐちゃにされて、牛の化け物の動きは鈍くなっているが止まる様子が無い。


「桐乃ぉ――! たっ、助けてくれぇぇぇ!」


 山本は自分に迫りくる牛の頭をした人の化け物に怯え、拳銃を構えるも手が震えて拳銃を落っことす。

 そして地面を這いながら後ずさっている。


「おぉらぁぁぁぁ!」


 達也は対イモータルズ用に作られた特殊な警棒を構え、キャップをはぐ。

 隠し刀のようにキャップから現れたのは鋭くとがった長さ30センチのアイスピックのような刃。

 そしてその周囲に鉄条網のように刃から放射状に延びる鋭い針である。

 達也はそのピック部分を人型イモータルズの横っ腹に根元までぶっ刺した。


「ブオォォォォォ!」


 牛の頭が叫びを上げる。


「こいつめっ! こいつめっ!」


 達也は5、6回その怪物の胸部と腹部にピックを突き刺し、ねじって内蔵をかき回す。

 人型イモータルズはドサッと地面に倒れて叫び続ける。


「ブオォォォ! ブォォォ!」


 達也は馬乗りになって何度も何度も刺し続ける。

 もはやその姿は狂気そのもの。

 だが、イモータルズは決して死なない。

 胴体と胸部がグズグズの肉片になった頃、人型イモータルズの動きが鈍くなった。

 達也は立ち上がり、牛型イモータルズを振り返る。

 まだ足をゆっくり動かしもがいて口をパクパクさせている。

 だが今は物理的に行動を阻止できている。

 恐らく……そう長くない短時間のみであろうが。


「山本、早く立て!

 建物の中を見て回るぞっ!」

「勘弁してくれよぉ――! もう十分だよぉ――! パトカーに戻ろうぜ、な?」


「今も恐怖で震える民間人が囚われて生きているかも知れないんだぞっ!」

「もういやだいやだいやだいやだよぉ……」


「……分かった、お前は俺が出てくるまでここでこの2匹の怪物を見張ってろ。

 もし立ち上がったなら……大声で知らせてお前は逃げろ。

 いいな?」

「……わ、分かった。早くしてくれよ?」


 達也は拳銃のカートリッジを交換してチェックした後、拳銃を構えたまま建物内へと駆け込む。

 建物一階を右側へ走る。

 山本が中を確認しながら来ていた部屋はただの廃墟、ガラクタが散らばるのみである。

 建物一階の右端に到達、階段を駆け上って2階へ移動。


(こいつは……やばいな……)


 2階へ踏み入れた瞬間から甘い匂い、生命の痕跡の臭いが漂い始める。

 一つ目の部屋を確認。

 散乱した人の衣服と、散らばった2、3人分の手足があった。

 その手足が動いているか……確認する気にもなれない。

 二つ目の部屋を確認。

 成人男性の千切れた下半身が床に落ちていた。

 三つ目の部屋を確認。

 達也は驚愕した。


 首が一旦ねじ切られ、横にして耳を胴体にくっつけたような元人間が立っていた。

 その前には2メートルを超える巨人。

 巨漢の体、継ぎ足された胴体、皮膚の色の違う両腕、体に比べて小さすぎる子供の頭を合わせた化け物がいる。

 2体の化け物はそろって達也を振り返る。


「くそぉっ!」


 達也は頭が横になった怪物と、巨人に一発ずつ拳銃を撃って威圧しながら必死で部屋の中の生存者を探る。

 五体満足な体はその部屋の中には存在しなかった。

 素早く下がって廊下へ移動すると次の部屋へ。

 そこには5人の人型の化け物が居た。

 5人とも体のパーツは女と子供、華奢な男で構成されている。

 そしてご丁寧にも全てがちぐはぐにつなぎ合わせてある。

 達也は再び射撃して2、3体の化け物に命中させながら目を血走らせて部屋の中をチェックする。

 部屋の最奥、戸棚の上に楕円形の編み籠に入った、毛布で何十にもくるまれた赤ん坊が見えた。

 幼い手足が覗いている。


「うぉぉぉぉぉ!」


 達也は拳銃をさらに追加で撃ち込んで一人を床に倒し、もう一人に飛び蹴りを放って蹴倒す。

 さらに奥の一人の胴体に対イモータルズ用の警棒のピックを3、4回突き刺してねじり、うめき声をあげて倒れたところを踏みつけながら赤ん坊のところへと走り寄った。

 籠ごと赤ん坊をわきに抱え込み、再び立ち上がった化け物に拳銃を放って道を開き、脱出する。

 そしてふと廊下からパトカーの停車する駐車場を見ると、同僚の警官達が群がるイモータルズの集団に応戦しながら囲まれつつあった。


「桐乃ぉ――! 急げぇ! 牛の化け物がもうすぐ立ち上がる! 人型のほうはさっきから這いずって俺を追ってくる! 俺は先に逃げるぞぉ!」


 建物の外から山本の声が響く。

 達也は急いで階段へと走り、駆け下りた。

 1階に到達して裏口から走り出ると、牛の化け物はヨロヨロしながらこちらへと接近中である。

 達也は全速力で赤ん坊の眠る籠を抱えたまま、駐車場へと走る。

 警官たちは既にパトカー内に退避し、群がるイモータルズが車体を覆い隠すほど密集していた。

 拳銃もショットガンも弾は尽きているようである。


「畜生! この野郎! この野郎!」


 達也は車体を隠すイモータルズ数人の背中をピックで付きまくる。

 うめき声、叫び声の響きが直に達也の手に響く。


 オギャァァァァ! フギャァァァ!


 突如、達也の抱える赤ん坊が泣いた。

 それを聞いたイモータルズ達は一斉に飛び退き、パトカーの車体、達也が入ろうとしていたドアが露になる。


「桐乃! 早く乗れっ!」


 達也は開けられたドアに素早く入ってドアを閉める。

 そのまま2台のパトカーは廃工場の敷地内から数体のイモータルズを跳ね飛ばしながら脱出した。


 ***


「皆無事か?」

「なんとか……」

「全員揃っている……それだけが救いだな。俺の方は生存者は見つけられなかった」

「俺達もだ」

「イモータルズがまさに作られている場所に出くわした。

 恐らく失踪した家族分はあっただろう。

 だが赤ん坊だけ救出した」


 後部座席で赤ん坊の入った籠を抱える達也に車内の全員が振り向いて注目する。

 達也は赤ん坊の手を取って振って見せる。

 赤ん坊は達也の親指をぎゅっと握っていた。

 生暖かいが、確かに生きた体温がある。

 隣の席に座っていた山本が赤ん坊の顔を隠していた毛布をまくり上げた。


「うわぁぁぁぁっ!」

「うげぇ!」

「うわっ!」

「うわっ!」


 山本は驚いて座席の反対側へと跳ね退く。

 赤ん坊には頭が無かった。

 首から上が切断され、赤い肉の露出した首に食道か気道の穴があるのみ。

 だが赤ん坊の手足は普通に動いている。


「きっ、桐乃! 今すぐそれを外へ投げ捨てろ!」

「…………」


「どうしたっ? 早く!」

「コイツは駐車場で……俺を救ってくれた……。

 今も俺を攻撃する様子が無い。

 むしろ懐いているように見える。

 見てみろ、頭以外はただの赤ん坊だ」


「何を馬鹿なことを言っている!」

「駐車場で皆見ただろう? コイツには不思議な力がある!

 ここで捨ててはいけない……なぜかそういう……強い予感がするんだ」

思いついたので忘れないうちに一話書きました。

更新優先度は低いです。

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