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「異世界への移動方法については、分かってもらったと思う。では、ココからは手段について話したい。手段は、二つある――」


 マト先生による転生講座は続いていた。私は、学校なんて行ったことはない。だからこそ今のこの時間が楽しくて仕方がなかった。敬愛する魔王ゴウマが殺されて、大した時間が経っていないのに、私はそのことを忘れるほどマトの話に夢中になっていた。


「もしかして、さっき言っていた『転移転生型』と『輪廻転生型』のこと?」


 私は、ちゃんと聞いてますよアピールするため、マトが話している最中にも関わらず自分から発言した。もしかしたら「ちゃんと聞いてて偉いね」なんて褒めてくれるんじゃないかと期待してたかもしれない。するとマトは、


「おっ! ちゃんと聞いててくれたんだね! そう、手段はその二つになんだ!」


 むふーっと私は、鼻息を荒くした。褒められたような気分になり、とても気分がいい。ますます知りたい願望が強くなりマトの言葉に耳を傾ける。


「主流の転生は、『輪廻転生型』になる。どのような事かと言うと、死んだ体はその場に放棄し、魂だけを異世界へ移動させる。この方法の場合、魂の入っている肉体に入れる事はできないから、生まれる前の魂が入っていない肉体に入ることになる。つまり、赤ん坊からやり直すってわけ。当然、以前の世界で築いてきた肉体的強化やスキルといったものは全て放棄することになる。でも、記憶だけは女神次第で引き継ぐことは可能だ」


 そう言い終えると、『ふー』と一息つくマト。そして、『ゴホンッ』と、小さな咳をした後、講義は続いた。


「続いて、『転移転生型』について……気付いていると思うけど、今のキミに該当する。『転移転生型』は『輪廻転生型』とは違い、死んだ体も魂と一緒に一旦、天界へ転移する。その理由は、生前に身につけていたチカラが必要だったり、転生者にやってもらいたい目的があったりと、まぁ、女神の都合で『転移転生型』が決まる。そして、そのままの姿で異世界へ転移するように転生する。もちろん記憶も引き継ぐし、生前の身体能力やスキル、魔法といったチカラもまた、そのまま使えてしまう――」


 この説明を聞いたあと、とある疑問が浮上する。説明の途中だが、思わず口を挟んでしまう。


「うーん……すごく不思議なんだけど……『転移転生型』の方が便利で転生者的にはありがたいと思うんだけど、なんで『輪廻転生型』の方が主流なの? いくら記憶が引き継いても赤ちゃんからだと大変だと思うんだけど……」


 私のふとした疑問に対してマトは、嫌な顔もせず答え始めた。


「そもそも『輪廻転生型』と『転移転生型』では目的が全く違うんだ。『輪廻転生型』は生前不幸があった人間の救済処置、もう一度チャンスを与えるものだけど、『転移転生型』は、転生者のためのものではなく、天界の都合によるものが大きい。だから、天界で転生後の条件を決めたり、更なる付加価値を付けたり、転生後の目的によっては色々と天界都合で何でもできてしまうのはそのせいなんだ」

「ふーん、でも天界の都合だとしても、私からすれば……『転移転生型』の方がありがたいなぁ……だって、生まれる家庭が幸せとは限らないでしょ?」

 

 私は、正確には思い出せないが……自分の生まれが不幸だったことを感じ、発言する。すると――


「うん、そうだね。キミの言う通りなんだけど、主流の理由はそこじゃないんだ。世界のシステムに問題がある。『輪廻転生型』は転生先の世界にあんまり影響はない。いや、ほぼないって言ってもいい。だけどね『転移転生型』は、転生先の世界に物凄く影響が出るんだ。これは、さっきも言ってけど、元々いなかった人間が突然一人増えるって事は、とても不自然な事なんだ。世界は、不自然な帳尻を合わせるためにとても不安定になる。それは、世界が歪んでしまうほどにね……。だから、簡単に『転移転生型』で転生者を送り出すことはできないんだ」

「そ、そうなんだ……」


 自分の転生がどれだけの事なのか、知らなかっただけに衝撃を受けた。それと同時に疑問も浮かぶ――。天界は……あの女神は……私に何をしてもらいたくて……転生したのだろう……? 目的も言われず転生した私は、そんなことが気になり始めていた……。


「うん、まあ、転生については全て説明終わったところで本題なんだけど、勇者が転生してきて、なぜチャンスだったかについてだね」


 転生について考え混んでいて、本題のことをすっかり忘れていた。そんな私を気にせずマトの本題が始まる。その時、マトの表情から優しい笑顔が消えていていた。


「転生した勇者は、転移転生型だった。すなわち、世界のシステムが歪んだってことなんだ。大部分のチカラを失っていたボクでもね、歪んだ世界を少しづつ壊すことは、そう難しいことじゃないんだ! で、数年かけて少しづつ少しづつと、その歪みを大きくした。まぁ、その後は、キミたちが魔王アルフと出会った日なんだけど、世界の臨界点迎えたってわけ! キミは死んでしまって知らないかもしれないけど、あの後、ボクの存在を知られる前にアルフを世界と一緒に消そうとしたんだ! だけどね……ボクを消そうとしていた女神……イリア……クソ女……に先手を取られてしまった! そう、あの転生してきた勇者は、そもそも魔王アルフを倒す為に転生して来たわけじゃない! ボクの情報を与えるため、天界へ送るため、あのクソ勇者は転生してきたんだよ! クソが!」


 マトの口調は、さっきまでのゆっくりで丁寧な話し方ではなく、とても早口で荒々しくなっていた。


「えっ……? なに……? 急にどうしたの……?」


 驚いた私がそんな事を言うと、マトは異様な笑みを浮かべながら言った。


「で、どうだい? 全てを知った、いや『知る者』になった気分は?」

「し……知る者……?」



 そう、返答した瞬間だった――。

 頭の中にカミナリに打たれたような激しい衝撃を受ける。


「あっ……あっ……」


 言葉を話せない……口を上手く動かせない……。

 目の前には、地面がある。私は倒れているらしい。

 何が起きているのか……? 体が動かない……。視線を右へと動かすと、すぐ横にゴウマの亡骸がある……。


「大丈夫だよ、クリスちゃん! 痛くないように殺してあげるからね! 次に生まれ変わる時は、大好きな魔王ゴウマとして生きるんだよ!」


 マトの声が聞こえた。ガサガサと何かをしながら話しているらしい。

 魔王ゴウマとして生きる……? な、何を言ってるの……?


「いやー、キミに全て説明するのは骨が折れたよ! 『知る者』にするためとはいえ、奴隷だった汚い女と話すなんて嫌で嫌でしょうがなかったよ!」


 マ、マト……?


「洗脳した後に、『知る者』しても意味が無いからね! 純粋なキミが『知る者』になることで、世界のシステムに干渉することができる! まぁ、天界人は血眼になってキミの存在を消しに来るだろうけど! その前に、必ずアルフを殺すんだよ! 転生の座標に関しては、アルフだけには絶対に打てないようにコチラで細工しとくから! よろしくっ!」

 

 何を……言って……るの……?


「まったくよぉ! 魔王ゴウマに座標を付けやがって! クリスをゴウマと認識させる手間がかかるじゃねえか! クソがっ! 天界人待ってろよ! アルフを殺した後は、おめぇらの番だからな!」


 マトの荒々しい怒鳴り声が鳴り響く。そして、私の肩にコツンと何かが当たる。それは、ゴウマの一部だった。


「そうだ! 最後に教えてあげるよ! キミが憎んでいた勇者だけどね、世界の崩壊は知っていたんだ。実はね、勇者が転生で来る前から、世界の崩壊プロセスはやっていてね、遅かれ早かれ『あの世界』はなくなっていたんだ。勇者が来てくれたおかげで、物凄く早くはなったけど、あの勇者は世界と一緒に消える覚悟を持ってやって来た。で、そこまでしてやった事と言うとさ、フフフ……ボクを殺すための小さな小さな要因を残した事と、何の価値もないキミを救っただけ! しょうもない勇者だわ! ハハハ!」


 わ……た……し……バカだ……! バカだ! バカだ! こんな奴を信じて……本当に私の事を思ってくれている人を恨んでいた……。顔も名前も知らない人……まんまと騙されたこんな私を許してくれますか……?


「ふー! やっと準備できた! じゃあ、バイバイ! クリスちゃん! この後のキミの記憶と人格は、ボクが作っておくから! バイバイ!」


 た……す……け……て……。


 声にならない唸りの中、『ドスっ!』という衝撃を感じる。そして、目の前が真っ暗になり、空気の音も何も聞こえなくなった。




 どれだけの時間が経ったのだろう……私は死んでしまったのか……? 何もわからないまま時が過ぎてゆく。 


 そんな時だった――

 

「まっ……」


 突然、声が聞こえた。

 なに……? よく聞こえない!


「まって……」


 まって……? 私にはどうにもできない!


「待ってろ! 必ず助けるから!」


 !? 誰? 誰なの?

 男の人の声が聞こえる……。


 ………………

 …………

 ……


「おいっ! マサオ何をするつもりじゃ!」


 今度は、子供の声……?


 マサオ……? 誰だか分からないけど、お願い……助けて……!

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