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「えっ……? え……? なにっ……? なに……? ど、どういうこと……? な、何度も転生って……? な、なんでそんな事が分かるの……? そ、それに……アナタが創った世界から生まれていないって……? どういう意味……?」
世界とは何なのか、少しづつ理解し始めた事もあって、マトのこの発言には、これもまた理解の範疇を超えていた。パニクってしまった私の頭は、浮かんだ言葉を手当たり次第、声へと変換し続ける。すると――
「待った! 待った! そんな一気に質問されても困るよ! 急にこんな事言ったボクのせいかもしれないけど、まぁ落ち着いてよ。ちゃんと説明するから」
鼻息荒く食い気味に迫る私に対してマトは、至って冷静に対応した。私がある程度、落ち着きを取り戻すと、静かに語り始める。
「最初に転生が何たるかについてだけど、まぁキミは一度転生しているし、女神からも色々と聞いていると思うから、その説明はいらないよね? で、なんで分かるかについてだけど、そもそも人間や魔族、その世界に生きている全てのモノもまた世界のシステムの一部に過ぎない。そして、ボクはその世界のシステムコードが見える。キミも含めて転生者は、普通と変わらない見た目もしてるし、転生先でも誰にも違和感には気付かれない。だけどね、ボクの眼からすれば丸っきり違うように見えているんだ。その世界に存在するコードとは、丸っきり違う。それもそうだろ? 元々いなかった者が、自然ではない形で世界に追加されるんだ、刻まれるコードもまた不自然になるよ。だから誰が転生者かなんて、人間、魔族を見比べるより分かりやすいんだ」
一瞬、間をとったマトは、「ふぅ」と一息をついてから、更に続ける。
「で、魔王アルフは、そのコードがおかしい。一度や二度、転生してもあそこまで複雑なコードにはならない。異常と言ってもいいレベルだよ」
そう言うと、私が理解しているのか、様子をうかがうように間を取った。そして、次の話題に移る。
「次の質問だけど、ボクが創った――いや、天界が作った世界からアルフは誕生してないって話なんだけど、これも最初に天界と下界について説明しないといけない。まぁ、キミたちが住む世界が下界なんだけど、天界と下界の大きな違いは、役割と権限の差にある。天界は世界を作り、その世界のシステムというルールを決める。下界は、その作られた世界でルールに従事する。それは、絶対の役割。それなのにアルフは、下界に住みながら、天界人のルールを無視することができた。下界でありながら、天界が想定している身体能力、戦闘能力を遥かに超え、世界のシステムの絶対ルールである『勇者が絶対に勝つ』をことごとく無視し続けることができた。そもそも天界人がそんな権限を下界人に与えるはずがないんだ、自分たち天界人を脅かすチカラだからね……。それを意味する事は分かるかい? アルフは、天界人が作った魔王ではない! アルフが何者なのか、ボクにも正直分からない。だけどね、分かっていることは一つだけ、アルフが存在する限り、魔族は永遠に救われることはないってことだけさ……」
そう、言い終えると、マトから険しい表情を伺えさせる。そんな話をずっと聞いてきて、どうしても理解し難い事があった私は、我慢しきれず切り出した。
「よく分からないんだけど……アルフが存在する事と魔族を救う事と何か関係でもあるの? 私は以前の世界で魔王アルフと出会った。その強さは、私には理解出来ない強さだったけど、仮にも魔王で魔族の害になる存在ではなかった……それに、言いづらいんだけど、アルフは私の命を救おうともしてくれたよ。そんなに悪い魔王ではなかった……私が魔族に対して偏見を持たなくなったキッカケは、正しくアルフだと思う……。マトの考え、やって来たことは、魔族のために間違ってないと思う。でも……アルフを殺す事が本当に魔族の為になるのかが分からない……むしろ話を聞いていて、私は……理不尽な天界に対して現れた……魔族の救世主なんかじゃないかと思っている……」
私の正直なところをすべて吐き出した。するとマトは、意外にも小さく微笑み、言葉を区切るように話し始めた。
「フッ……実はね……アルフに対しては……以前はキミと同じ感情を持っていたんだ……魔族の救世主だと……だから……ボクはね……100年という長い時間……ずっと……『彼女』と一緒にいたんだ……」
「えっ!?」
マトの意外な発言に、ただただ驚きを隠せない。「アルフを殺して欲しい」と言っていたマトから初めて見せる表情――それは悲しげで切なそうだった……。




