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「な……なんだと……?」
マトの口から飛び出した魔族誕生秘話に私は、震える声で反応した。震える声と同調するかのように私の身体もまた震え始めている。頭の血管は、ドクンドクンと物凄い早さで血液を流し続けた。そして、感情の高ぶりを表すかのように溢れ出す魔力たちは、地面に落ちている砂や小石を浮かび上がらせている。そう私は、ムカついた、ただただムカついたのだ。
「ちょっと待った! 怒るのも分かるけど、落ち着いて!」
私の様子を見たマトは、慌てるように両手を前に出し、そう言う。怒りが収まらない私は、
「お、落ち着いていられるかっ! 魔族をなんだと――、……っ!!」
感情に赴くまま全てを吐き出してやろうとした瞬間、喋っている最中の私の口は突如固まった。口が動かないどころか声も出ない。突然の事に驚いているとマトの方から、
「ごめんよ、あんまりこの世界の時間もないからね、キミの訴えは省略させてもらうよ。とりあえずボクの話を全て聞いてもらいたい。そんでもって、その怒りをどこにぶつけるかは、キミ次第だ」
そう言うとマトは、左手を静かに下ろし、右の手の平を私に向けたまま、真っ直ぐな目で私を見つめ話し始めた。
「なぜ、ボクにそんなチカラ……、天界を創るチカラがあったかは、ボクにも説明はできない。でも、なぜか知っている、天界は僕によって生まれ、どんなことをしても当時のボクの願いを叶えようとしていると。よく分からないことを言っていることは重々分かっている。ただ、この右手が存在していることを自分で説明できないように、天界もまた同じってことだけは分かってほしい」
そう言うとマトは、見せていた右手を下ろして続ける。
「最初に天界は、人間たちが争わない殺し合わない世界を作るため、いろいろなパターンの世界を作った。男しかいない世界、女しかいない世界、科学文明が発達した世界、魔法文明が発達した世界などなど。それらで分かったことは、『無理』だと言うことだけだった。どの世界の人間たちも、争い、奪い合い、殺し合った。そこで、次に試されたのが、さっきも言ったけど、全ての人間の共通の敵を作ることだった。作られた魔族は、人間が恐怖するように醜い外見にし、知能を下げ、凶暴性を付け加えた。この実験は見事に成功した。その世界の人間たちは、争うよりも協力を選んだ世界になったんだ」
淡々と話すマトは、表情一つ変えず続けている。
「魔族の存在を円滑にシステム化するため、魔法文明が発達した世界が採用された。そう、この世界、キミがいた元の世界のようにね。そのモデルパターンは複数作られ、その後の動向を観察し続けた。元々、人間のための世界、魔族に滅ぼされては本末転倒になる、そんなこともあって、魔族の強さを人間よりも遥かに弱い設定にしていた。だから、どのモデルパターンも人間が魔族を滅ぼす結果となった。そこで問題が起きた。それは、魔族を滅ぼした後の世界にある。その世界の人間たちは、魔族がいなくなった途端、今まで協力し合ったはずの人間を敵に見るようになった。そう、何ら変わらない……今までの失敗した世界と全く同じ結果となった……」
今の私は、一言も声に出すことができない状態だが、今の言葉は、正直言葉を失った。人間がそこまで愚かだったとは……。っと、ガッカリした気持ちになっていたが、それと同時に不気味さも感じ始めていた。それは……、これだけ色んな世界のことを、さも見てきたように話しているマトに対してだった……。
すると――
「ここまで話してきて、たぶんキミは不思議に思っているだろう? なぜ、天界が行なった実験をボクが知っているのかと? ボクはね、天界を創るチカラだけじゃなく、他にもチカラを持っているんだ。それはね、世界間の移動、いわゆる『異世界転移』ってやつだね。あと、転移した先の世界をイジることができる。さっき勇者を消したみたいなことさ。ボクはね、実際に全ての世界を見てきたんだ。見る事、見届ける事が、ボクの責任だと思っているから……」
全ての世界を見てきた……? 想像もできないことに私は困惑する。そんな中、表情一つ変えないマトから考えを読む事なんて不可能に思えていたが、今の一瞬、表情に険しさが浮かんだように見えた。とんでもないチカラを持っている少年だが、たしかに人間なのかもしれないと思った瞬間だった。
そんなマトの話は止まらない。
「話を戻すけど、天界はある答えに導かれていく。それは『理想の世界は、魔族と共にあるのでないか』と。そう考えるようになった天界は、簡単に魔族が滅ぼされないため強化を実行する。個々のチカラを上げたのもあるが、何よりもやったことは、キミも知っている『魔王』を作った。元々、魔族にも長や王はいたが、それは今までの魔族の中の存在であって、決して強くはなかった。そこで新しく作った魔王は、どんな人間たちよりも強く、低かった知能も魔族を統率するほどにした。これにより、魔族は簡単にやられなくなったが、逆に人間が滅ぼされてしまうリスクができた。ってことで作られたのが『勇者』なんだ。それで組み込まれたシステムが『人間たちは魔王に勝てない、だが魔王は決して勇者に勝てない』とした。それがキミたちの知っている現在の世界、一番理想に近いとされている世界なんだ」
こんなのが……理想の世界……? 自分の目が泳いでいることに、自分でも分かる。それほど動揺した。すると、そんな私に気づいてかマトは、
「キミの気持ちは分かるよ。ガッカリしたのだろう? でもね、天界が考える、人間たちができるだけ永く争わない世界、魔族ができるだけ永く存在し続ける世界、それだけを追い求め続けた結果の世界こそが理想の世界とされているんだ。ちなみに、勇者が魔王を倒した後の世界は、実はないんだよ。だって、その後は分かっているから。だから天界は、世界の基本システムの中に、魔王が倒されたら自然消滅するようにセットしている。魔王ゴウマをはじめ魔族の皆が不自然に勇者に立ち向かって行ったのも、そのシステムのせいさ。勇者が魔王城に来た時点で消滅システムは作動してしまうからね。さっき言った、この世界が、もうすぐ消えてなくなるって言っていたのはこのことなんだ。全て……、人間のためだけに作られているからね……」
世界の真実? ってやつに私は唖然する以外できないでいた。もちろん言葉なんて出ない……。だけど、語るそんなマトの顔を見てて、私の中でモヤモヤとする気持ちが湧き立つ。声には出せない、でも言いたかったことはある。それは……、「マト……あなたが望んだことでしょ……? なのに、なんでそんな辛そうな顔するのよ……?」と……。
そんな心の声を知ってか知らずかマトは、
「さっきも言ったけど……全ての世界を見てきたんだ。それも、人間側だけじゃない魔族側も全て見てきた……。それを見てきてある事に気づいたんだ。魔族は……見た目以外、人間と何ら変わらない……ビックリする位、人間と同じ行動するんだ……。人間のように恋したり、人間のように結婚したり、人間のように我が子を愛すんだ……。こんな姿を見続けて……人間のためだけに魔族が利用される世界はあってはいけない……ボクみたいな人間のワガママのせいで魔族が苦しめられる必要なんてないんだ……って。そう、気づいた後は……ボクはね……魔族が苦しめられているそんな世界を見つけては、その世界を消していったんだ……。魔族にとって幸せのない世界なんていらないから……。次から次へとそんなこと続けていたら、天界がボクのこと『悪』と見なしたよ。そうだよね、ボクが求めていたことと逆のことをしているんだから。天界はボクを敵と見なし、ボクを殺すように狙うようになった。でもね、いくら天界でもボクを殺すことなんてできないはずだった。……はずだったのに……ある世界でついに現れてしまったんだ、ボクのチカラを無効化しボクを殺すことができるチカラを持つ者、それがキミが前の世界で最後に出会った魔王……そう、『アルフ』だよ。なぜ、キミにここまで話したか分かるかい? キミには『アルフ』を殺して欲しいんだ!」
本当の目的を語るマトの瞳は、とても冷たく感じた。




