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 驚いている私の顔を見てマトは、軽くニコっと笑顔を見せる。そして、小さく「ゴホンッ」と喉の具合を整えた。


「さっきも言ったけど、ボクの世界には魔族は存在しない。したがって、この世界のような人間と魔族の戦いの歴史もないんだ。そんな世界どう思う?」


 と、マトは突然、問いかけてきた。


 この質問には少々戸惑いもしたが、想像することは意図も簡単であった。だって、いつも考えていた事だからだ。もしこの世界に魔族がいなかったら、人間はこんなに争う生物じゃないんじゃないかと。魔族と争うことで人間は、人に対して思いやりを持つことができなくなってしまったのではないか、だったら人間だけで良かったのではないのか……。人間、魔族なんて存在する世界は、あってはいけないと思っていた。そうすれば、ゴウマもあんなに頑張る必要も苦しむ必要もなかった……。本来の人間は、きっと――。


 強く握り締めた拳から、じんわりと汗が滲み出てくる感触を味わいながら私は、


「素晴らしい世界だと思う……。きっと……争いもない……悲しみもない……皆が分かり合える幸せな世界だと思う……。きっとゴウマは、そんな世界を夢見ていたのだと思う……」


 私から発した音は、マトの聴覚を刺激する。するとマトは、悲しげな笑顔を作り出し、こう答えた。


「ふぅ……、そうだよね……そう思うよね……。このような世界で生まれてきたのなら、そう思っちゃうよね……。でもね……実際は、魔族が存在しなくても人間は争い続けるんだ。そう、人間同士でね……」

「えっ?」


 私がそんな声を零すと、マトはそのまま続ける。


「人間という動物は、感情が存在する。その感情は、どうにもできない。だって人間は、他の動物と違って知恵を授かった事によって感情を得たからね。だから、こんな感情も生まれる――他人よりお金が欲しい、あの国より領土が欲しい、アイツより幸せになってやるってね。そんな欲望が存在する限り、争いはなくならないよ。この大きな世界からすれば、人間なんて一つの種に過ぎないのに、罵り合い、殺し合う。たった一つの感情によってね……。ボクはね、そんな世界に絶望したよ、そして願った――争いのない、全ての人間が分かり合える世界になりますようにってね……、そう、キミが言う理想な世界だよ」

「えっ……」


 また勝手に声が出た……。


 その言葉を聞いて驚かない自分がいた。魔族のせいじゃないって本当は分かっていた。だって、マトの言っている人間は、嫌になる程この身に覚えがあるからだ。前の世界の人間には、私は売られ、信じた仲間には裏切られた。そして、この世界でも、ゴウマに助けてもらわなかったら、人間たちに殺されていた……。それなのに、なぜ……、魔族がいなければ人間は、幸せになれると思ったのだろう……? なぜ……、救ってくれた魔族のせいにしようとしていたのだろう……?


 複雑な感情が私を埋め尽くし始めた時、マトは私を見透かしているかのように口を開く。


「ふふふ……、キミとボクは、よく似ている! あの頃の自分を見ているようだ」

「な、なに?」

「人間に対して、憎しみ、恨み、諦め、があるのに、なぜか希望を持ってしまう。人間は元々そうなのに、原因をついつい考えてしまう。人間がこうなってしまうのは、他に原因があるんじゃないかって。この場合、魔族がいるから、この世界の人間はこうなったんじゃないかって思っているのだろう?」

「い、いや……違う!」


 頭の中を覗かれた気分になり、とっさに否定した。すると、笑みを浮かべたままのマトは、


「なんで、そんなこと考えてしまうか、分かるかい?」


 その問いに対して、私は答えなかった。答えたくなかったからだ。すると、マトの真っ直ぐな瞳は私を映し出しながら、こう言った。


「キミが、『人間』だからだよ!」


 胸を矢で貫かれたような気分になる。言われたくないことをハッキリとした言葉で放たれた。震える体を止めることもできず、ただ耐えるしかいないでいると、マトの表情が変わっていった。崩さなかった笑顔は、真剣な表情へと変化してゆく。

 そして――


「キミを困らせる気はないんだ。自分を見ているようで、つい余計なこと言ってしまった。本当にごめんよ……。ここからが本題だ、キミには聞いてほしいことがある。決して許されることのないボクの罪について……」


 その声のトーンは、さっきまでとは違い低くなり、言葉の一つ一つからその重みを感じる。鋭い眼光のマトは、私を見つめたまま言葉を発する。


「ボクの罪……。ボクのせいで、ある世界が誕生してしまう。ボクの望む世界を創造するための世界、いわゆる『天界』を創ったのはボクなんだ……。なぜ、キミに話さなければいけないかと言うとね、キミは知っている。魔族は決して悪じゃない……、魔族もまた人間と同様に感情があり必死に生きている存在なんだと……。本当の魔族を知る者としてここから、よく聞いてほしい。例の天界は、理想の世界を創るため数えられない程の世界を創造した。でも、どう世界を創ろうとも、人間同士が争わない戦争をしない世界は創れなかった。そして、ある一つの試みとして人間のためにある存在を作り出した……。人間同士が争わせないため共通の敵としての存在。そう、それが魔族。つまり魔族は、人間に殺されるためだけに天界が作り出した存在なんだ……」



 『知る者』。それは、天界が作り出した世界の人間から逸脱した存在とされる。それを意味することは、天界から消される対象になる。この時、私はそんなことも知ることもなく、マトの言葉を聞き続けていた。

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