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 私の目の前で……奪われた……全てを奪われた……あの……忌々しい……クソ勇者によって――。


 魔女裁判から助けてくれた直後のゴウマは、私によく言っていた。「どんなに酷い事されても、人間を恨んではいけない。同族は、守るべき存在であって、倒すべき相手ではない」と……。ゴウマ……アンタの言っていることはきっと正論なのだろう……でも……でも……私は、ゴウマほど人間が出来ていないみたいだ……ごめん……ゴウマ……私……アナタとの約束……守れそうもないや……。


 ゴウマの死によって、私にかけられていた呪いは解かれ、体の自由は戻っていた。目線の先には、歓喜に満ち溢れた勇者一行がいる。私の事には、誰も気付いていない。獲物を狙う獣のように私は、静かに近づく。


 ――殺してやる……全員、皆殺しだ……。


 そして、飛びかかろうとした瞬間だった。


「待った!」


 突然、頭の中に声が響く。聴覚で認識した声ではない。その声色は女、いや、少年のような声をしている。驚いた私は、自分の周囲を見回すが、誰もいない。「誰だっ!」と、声を上げようとすると、


「キミがそんなことする必要はないよ、ほら見ててごらん」


 その声は、再び頭の中に直接、語り掛けてくる。

 そして――


『パチンッ!』


 と、指を鳴らすような音が城内に響いた――。


 次の瞬間、私の目の前にいる勇者たちは、体全体から眩い光が発光され、その姿は徐々に奥の壁が透けて見えてしまうくらい薄くなっていく。自分たちに起きている現象に全く理解できない勇者一行は、戸惑い、焦り、そして、絶望していった。そして、轟く女たちの悲鳴が消える頃、その姿もまた跡形もなく消えてしまった。


「……えっ?」


 目の前で起きた現象に、そんな声がポロッとこぼれる。冷静でいられない私は、続けるように口を開いてしまう。


「今のは魔法じゃない……、魔法なら魔力の痕跡が微量にも残るはず……、そんなレベルの話じゃない、この世界自体が勇者たちを消し去ったようにしか見えない……」


 誰もいない空虚の中、私の声だけが虚しく響く。

 すると――


「へー、キミなかなか鋭いね!」


 頭の中で聞こえてきていた声、今回は空気の振動よって運ばれた音として、私の聴覚を刺激する。そして、次の瞬間――何もない空間から、その姿を現した。


 その者の第一印象は、小さいだった。人間の子供くらいの身長で、黒のフード付きのマントを全身に纏っている。深々と被っているフードのせいで、その顔を見えず口元しか見えない。口元の肌からすると、人間のように見えた。


 今回も魔法ではない、謎の現れ方をしたこの人物に対して怯んだ私は、一歩うしろに下がった。そして、堪らず声を上げる。


「なっ! な、何者……?!」


 驚いている私に対して、その者は――


「そんなに構えないでよ! ボクはキミの敵じゃない、むしろ味方だよ! キミを助けるためにココに来たんだ。この世界は、もうすぐ終わる。魔王が勇者に倒されていなくなったからね。だからね、その前にキミを転生させるために殺さなければいけないんだ。大丈夫、痛くしないようにするから、じっとしててね!」


 フードで隠された顔から発せられた言葉は、私の殺害予告だった。


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