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あの後は大変だった……。
アルフは年齢制限に引っかかり冒険者にはなれなかった。
冒険者になれず補助金100イリトアルも貰えないと知った魔王は暴れた。
小さな子が欲しい玩具を買って貰えないで駄々をこねるように。
その駄々っ子ぶりは、さすが魔王と言いたくなる程であったと言う……。
冒険者登録の館は、一時騒然となる――
マサオはニーナに頼み込んで、自分の100イリトアルの前借りを頼んだ。
彼女は仕方なく、それを了承する。
100イリトアルを魔王に渡すと、ケロッと機嫌を直して一件落着。
チュートリアルを待ってる間、食事して待つように言い残したのであった。
「はぁ……」
大きなため息をつきながらチュートリアルの館へと向かっていた。
冒険者の登録を終えた彼は、冒険者の基本知識を学ぶためである。
「アイツ、俺の分の金もちゃんと残してくれてるんだろうなぁ……」
一握りの不安を抱きながら、言われた場所に向かうのであった。
館はすぐ隣にあり登録を済ませた冒険者の卵たちが集まっている。
その建物の外観は、魔女が大きな釜でゴトゴトと何かを煮込んでいるんじゃないかと思わせる館だった。
建物を見た少年は、目を輝かせている――
やっと異世界に来た気分になってきたぞ! 町の人たちは皆コスプレしてるだけに見えるし、風景も昔の外国みたいだし、あんまり感動なかったんだよなぁ。それにマジックアイテムって言うのもスマホのパクリみたいで異世界らしい現象なんて何もなかった。唯一あったのが魔王のしょぼい魔術だったから、これは期待ができる建物だ! きっと中では魔法とかが飛び交ってるはず!
初めてネズミのテーマパークに来た時と同じ気持ちになっていた。
マサオは期待と緊張した面持ちで、他の者達と一緒に中へと入った――
「はーい、皆さん! 番号札と取って待ってくださいね!」
中に入った瞬間の言葉は、これだった……。
魔女なんておらず、建物の職員と思われる者たちが業務的に札を渡していた。
銀行の窓口のように、番号を呼ばれたら行く流れのようだ。
もちろん魔法なんて飛び交ってもなく、ただただ冒険者の説明が続いた……。
――マサオは真顔になるしかなかった。
そしてチュートリアルは、淡々と進み終わったのであった。
その後、少年は難しい顔をして魔王が待っている食堂へ向かっていた。
手にはチュートリアルの館で貰った資料をジーッと見ている。
資料の中身は、特別職に必要なステータス一覧である。
勇者 全ステータス100
戦士 力 50 スタミナ 50
格闘家 力 50 素早さ 50
僧侶 賢さ 50 スタミナ 50
魔法使い 賢さ 100
盗賊 スタミナ 50 素早さ 50
商売人 スタミナ 50 運のよさ 50
勝負師 運のよさ 100
賢者 賢さ 200
「う~ん、どうするかなぁ。ゲームみたいにステータスリセットできないみたいだし慎重に選ばないと……。やっぱ、戦力にならない『商売人』『勝負師』はないな。とりあえず、運のよさを上げるのはやめよう! ステータスが上がって覚えるスキルも大したことなかったし。一番憧れるのは、俺でもギリギリなれる『賢者』だな。賢さ全フリすれば途中で『魔法使い』にもなれるし。やっぱコレかな!」
少年は自分の将来をイメージした――『大賢者マサオ様』
うんうんうん! いい感じだ! と、マサオは満足気な表情をしたのであった。
そんな夢見がち少年が食堂の前まで来ると、店の周りには人混みが出来ていた。
集まっている人々は、店内にいる一人に注目しているようだった。
マサオは野次馬共の声に聞き耳を立てる、
「あそこのお嬢ちゃんすごいなぁ! もう何人前食べたんんだ?」
「もう20人前は食べたらしいぜ!」
「へぇ~、あんな小さな体のどこに入っているんだろうな!」
と、話している。少年は直感する――アイツしかない……。
マサオは人混みをかき分け恐る恐る中の様子を覗き込む――
銀色の長い髪、赤い瞳、鋭く尖った八重歯、そしてサイズの合わない学ラン服。
間違いなく元魔王アルフだった……。
アルフのテーブルの上には、数え切れないほどの料理が並んでいる。
当の本人は両手に持ったマンガ肉のようなモノを交互にカブリついていた。
少年は嫌な予感を感じながら、大食い娘の元に歩みだす。
近づくマサオの存在に気づいたアルフは、
「おーマサオ! モグモグ……、お主も座って食べるのじゃ! 人間の食べ物もなかなかイケるぞ! モグモグ……」
興奮気味に口入ったモノを飛ばしながら話す。
少年は全部の料理を見回し困り顔で答える――
「もしかして、コレ全部頼んだのか? あの金で足りているんだろうな?」
アルフは口の中のモノをゴクリッと飲み込むと、
「もちろんじゃ! はよ、お主も食べるがよい! 冷めたらもったいないぞ!」
言い終わると、再びテーブルの上にある料理に手を出し始めた。
この世界のお金の価値が分からずにいた少年は、納得するしかなかった。
100イリトアルは結構な額だなぁと思い、アルフの隣に座って料理に手を出す。
しばらく食事を堪能していると、少年があることに気づく。
足のつかない椅子に座ってる魔王は、パタパタと足を振りながら食べている。
――その足には、靴が履かれていることに。
「おい、その靴どうした?」
自分の身長と同じくらいの魚に、むさぼりついていた魔王は――
「あぁコレか! 買ったのじゃ! 似合うじゃろ?」
自分の足を少年に向けて自慢げにしていた。
その靴は、丁寧に縫われていてるのが一目で分かるほどの上物だった。
更に足首にぐるっと宝石のような物も埋め込まれている。
この靴は素人目にも分かる高価な靴だってことは……。
再び不安が襲ってくる――
「本当に貰った金で足りているんだろうな?」
アルフは食べる手を止めて懐から数枚のコインをテーブルの上に置いた。
コインを数えると30イリトアルあった。
「お釣りじゃ! ちゃんと足りておるじゃろ?」
「あぁ……、ちなみに靴の値段はいくらだ?」
「たしか……、9500イリトアルとか言っておったな」
「は?」
冷や汗と震えが止まらなくなるマサオであった――