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「なぜ……助けた……?」
私は、頭に浮かんだ言葉をそのまま声に出した。すると魔族のゴウマは、こう答える。
「助けるのに理由なんて必要ですか?」
なぜか質問を質問で返され、魔族とは思えない答えに私は動揺した。
「わ、私は人間だ! 貴方たちの敵のはずだが……?」
頭に浮かんだ疑問をそのまま言葉にした。するとゴウマは、
「助けるのに、人間とか魔族とか関係あります?」
再び、質問を質問で返されてしまう……。絶句してしまった私は、今まで感じたことの無いほどの衝撃を受ける。それは、私を形成している常識ってやつがバラバラと崩れる感覚だった。私が混乱しているとゴウマは、
「怪我もないようですし、ワタシは帰りますねっ! ではっ!」
と、魔族のはずなのに……正義の味方のようなカッコいい感じの別れを切り出し、飛び立とうするゴウマ。それに対して私は、反射的に声が出てしまう。
「ちょっと待って欲しいのですっ! わ、わ、私も連れてって欲しいのですっ!」
自分でも驚く事を言っていた。何故かは分からないが、言っていたのだ……。更に気づけば、前の世界で利用していた『男が簡単に落ちる口調』を無意識に使用していた。そんな私に対してゴウマは、
「えーと、来ます? 汚いところで良ければ」
と、軽いノリで了承してくれた。その後、どうなってしまうのか想像もつかない、ただ人間に絶望していた私にとって、この『ルート』しかないと、その時は感じた。そしてその後、私は魔族のゴウマと行動を共にすることになる。
『汚いところ』っと言っていたゴウマの住処は、今まで見たことないほど立派な城だった。見事に磨かれた門をくぐると、綺麗に整えられた庭園が広がっている。その中にいる魔物たちは、私に気付いても襲ってくる様子はない。それどころか、規律正しく自分の仕事をこなしていた。そして、城の内部へと入ると、ボスレベルの魔族たちが、ゴウマの帰りを迎え入れる様に、ズラーッと整列していた。そう、ゴウマは『魔王』だったのだ――。
魔王が、なぜ私を救ったのか……? 更なる疑問が深まったが、信じられない光景を目にして、それどころではなくなった。城内には、魔族だけではなく、人間も多数いたからだ。それは、奴隷にしたとかではなく、自然の姿で生活していた。人間の子供たちは、楽しそうに走り回り、帰ってきたゴウマに対して、親しげに話しかけている。そんな子供たちにゴウマは、骨しかない魔王の手で優しく頭を撫でていた。
あまりに驚いた私が、なぜ城内に人間がいるのかとゴウマに問うと、
「人間に虐げられた人間を助けただけ」
と、偉ぶることもなく、ごく当然なことのように答えた。分からなくなった私は、その理由も聞いてみた。すると、
「先程も言いましたけど、助けるのに理由が必要ですか?」
と、答えた。更に分からなくなった私は、人間を集めてどうするつもりだ、その目的は何なんだと、疑いの眼差しを向け、更に問い正した。ゴウマは、真っ直ぐな眼光を私の瞳に映し出すと、
「ワタシは、人間と魔族が共存できる世界を作りたいだけです。人間に虐げられた人間や魔族がいれば、私は助けに行きますし、逆に魔族に虐げられた人間や魔族がいれば、もちろんワタシは助けに行きます。それを続けていれば、いつの日か、真の人間と魔族の共存は、なり得るとワタシは、そう信じてます」
この言葉を聞き、私は自然と涙が溢れてきた。そして、そんな魔王の姿を見てて、人間と魔族、どっちが正義で、どっちが悪なのか……? 本気で分からなくなっていた。自分が今までしてきた事、考えた事、やった事に対して、大きな罪悪感が生まれた。私は、魔族に対する偏見、退治したことを正直に話した。頭を下げながら謝罪するとゴウマは、外見とは裏腹に優しい笑顔を作り出し、こう言った。
「謝らないでください。魔族の中には、生存のためだからと言って、人間を襲う者も沢山いるのは事実です。アナタは、そんな者たちから人々を救っただけなのですよ。もっと胸を張って下さい! 人間にも魔族にも、良い者もいれば、悪い者もいます。いつの日か、人間だから、魔族だから、といった枠組みをなくしたいです。魔族の長として、不甲斐ないワタシの方こそ謝らせてください」
と、言い、深々と頭を下げる魔王ゴウマだった。
そんな魔王の姿に感銘を受けた私は、涙が溢れ止まらなくなった。そして私は、協力を申し出た。ゴウマの夢が叶うなら、私は何でもやる所存と伝えると、ゴウマは快く申し出を受け入れてくれた。
それからの日々は、本当に幸せだった。私はゴウマと共に、虐げられた者を見つけては救い続けた。そして、人間とか魔族とかの枠組みなんてない気心の知れた本物の仲間も沢山できた。私は心底願った、こんな日々が、いつまでも続いてくれますように、と。
そんなある日、自分の正義を疑うことのない勇者たちが、魔王城の門を開いた。




