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「な、な、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その声は、天界中に響きまくる。普段は冷静沈着な彼女の声に、部下の兵士たちは互いの顔見合わせた。そして、震える声で女神ウキヨは、
「そ、そんな……嘘だろ……か、覚醒してる……」
と、発する。その言葉を聴覚で認識した女神イリアは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。そんな彼女の表情を見逃さなかったウキヨは、乱暴な手つきでイリアの胸ぐらを掴むと、前後へと大きく揺さぶった。それによって、イリアの頭はグニャングニャンと大きく揺れる。厳しい顔つきのウキヨは、首がカクンカクン動くオモチャの人形のようになったイリヤに対して――
「ど、どういうことだコレっ! こんな短時間にそんなことできるはずがないっ! そもそも『魔族のチカラ』の封印を解くカギは、転生する際、持ったまま送り出すことはできないっ! そう、やるとしたら体の中に埋め込んで転生するしか……それに、本人と魔族には、決して埋め込むことはできないはず……唯一、埋め込むの事ができるのは、敵対する人間のみ。だからこそ封印は、永遠に守られるとされている。な、なのに……ど、どうやって……どうやって……あの世界に持ち込んだっていうんだっ!? そんなことできるはずが――」
そう言いかけた瞬間、頭上にビックリマークが浮かぶ。ウキヨの唇は、震えながら続けた。
「そ、そうだ……! た、たしか……、魔王アルフの次にも立て続けに同じ世界へ転生させていたな、そう……人間の少年で……うーん……たしか……そうだっ! 水晶にも一緒に映っていたあの少年だ……! ……って! えっ!? ちょ! ま、まさかっ! あの少年の体の中に埋め込んだっていうのか……?」
その言葉を受け止めたイリアは、ウキヨに向けた視線を黙って左へ動かし、ベーと舌を出した。そんな光景を目の当たりしたウキヨの額には、一本青筋が浮き出た。そして、顔を歪ませながらウキヨは、
「な、なんて憎たらしい顔するんだ……もはや女神がする顔じゃない……。封印キーをあの世界へ送り込んだ方法は解ったが、それでも……おかしい……、カギを持った人間が同じ世界に送られても、封印は解除されない……ど、どうやった? 解除方法といえば……カギを持った人間の体中から物理的に取り出すか……、スライムのように物理的に体を合体させるくらいしか……。いや、違う……、水晶に例の少年も映っていた……。あと……あるとしたら……命を同期させる契約を結んで……実際に『全てが同期した瞬間』しか……って! ま、まさかっ……! お、お前……もしかして……魔王アルフのチカラ……全て封印してないのか……?」
ウキヨの鋭い眼光がイリアの瞳に映る。その瞳の先は、ゆっくりと右へと視界を移し、再びベーと舌を出した。まん丸にした目で見続けていたウキヨの額には、二本の青筋が浮かぶ。歯ぎしりを鳴らし、だんだんと下顎が前にずり出始めたシステム管理担当女神は、目の前のふざけた顔した転生担当女神に対して、飛びかかろうとする。しかし、周りにいる兵士達によって静止させられてしまった。肩で息をするウキヨは、再び口を開く――
「ハァハァ……そこまでするとは……転生させる際、カギである少年を魔王アルフに出会わせ、同期する流れを誘導したのかよ……へぇ……全ては筋書き通りってわけか……? お前にしてはやるじゃないか……恐れ入った……この私に全く気付かれずココまでするなんて……ある意味、見直したよ……」
そう言い終えると、今までダンマリを決めてこんでいた女神イリアは、真っ直ぐウキヨを見つめると、ニヤっと笑みを浮べ口元が緩む。
「でしょ? でしょ? ウフフ……『マーちゃん』は本当に凄いんだからっ!」
と、鼻を膨らませながら言った。その言葉に女神ウキヨは眉間にシワを寄せる。
「ま……? マーちゃん……? 何を言ってんだ、お前は?」
「ムフフぅぅぅ! この筋書きは全てマーちゃんが描いたシナリオなのだ! ムフぅぅぅ! あなたが監視していることも読んでたし! さすがよね! もうアルフさえ覚醒しちゃえば、私が捕まろうと勝ちなんだからねっ! 『あの世界』に覚醒したアルフが存在した時点で、もうどうにもできないでしょ? さすがマーちゃんよ! どうだ? エッヘン!」
鼻を高くし自分の事のように嬉しそうに語るイリア、そんな姿を冷たい眼差しで見つめるウキヨは、対照的に声のトーンを下げて語る。
「あれか……『マーちゃん』と言うのは、魔王アルフの側近であり、特異点が天界に来る前に転生させた『あの猫』のことか……。なるほど、なるほどね……そういうわけか……すべての合点がいったよ。ずっと不思議に思っていたんだ、あの猫を一度人間にして、すぐに時の流れの早い魔族のいない世界へ転生させたと思えば、もう一度転生させた。禁止されている連続転生をした理由は、今回のこのことをやるためだったんだな……? フフフ……凄いな……転生について、そこまで知り尽くしているなんて……」
苦々しく笑いながら女神ウキヨは、そう言った。
そして、そんな彼女を覗き込むように見るイリアは、
「きゃははっ! どうだ、どうだ? 悔しいんか? ん? ねえねえ、今どんな気持ち? ねえ! きゃはははっ! フフン! エッヘン、凄いだろう?」
と、心の底から喜び煽り続けるイリアに対して、妙に冷めた目つきて応える。
「ああ……凄いな……、さすが『アルフ』だ……」
と、ウキヨは言った。一瞬、時が止まった空気が二人の中に流れる。
イリアの頭上には、クエッションマークが浮かぶのであった――。




