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「おいっ! 大丈夫か? まったくもう……、まんまと幻術魔法にかかりおって、情けないぞ……! マサオ、ちゃんと目は覚めておるか?」
目の前の少女は、そう言った。おデコを赤くさせながら、安堵したのか、ホッとした表情を浮かべながら俺を見つめていた。
「な、なにがどうなってる……?」
ボヤけた状態の頭で、俺はそう口にする。
すると、アルフは、
「何も覚えておらんのか? 余とマサオが恋愛を勤しんでいる最中に、ようわからんアノ魔王が邪魔してきたのじゃ! ホント空気を読めん奴じゃ!」
「いや、勤しんではいないよね……って、あれっ! ちょっ! ちょっと待てって! なんで俺ら、またこの態勢になってんだ? あれあれ? どうなってるんだ? おいおい……! たしかこの後に……、鎌を受け止めたお前がゴウマをぶん投げたはず……って、なんでまた同じ状況になってるのぉぉぉ? お、お、おかしやろがいっ!」
頭の中にあったモヤがスーッと消えた瞬間、俺はスピード違反で切符を切られるレベルの早さで捲し立てた。そんな喋りをすれば、真下にいるアルフへと、どしゃ降りの雨のようにツバが降り注ぐ。ジトーとした目で俺を見つめるアルフの顔は、俺のツバだけになっていた。そう、この光景も二度目だ……。そんなツバだらけ少女アルフは、
「もうっ……! マサオに汚されてしまったのじゃ……ちゃんと責任取ってもらうからなっ……! プイッ!」
と、頬を赤く染め、まんざらでもない表情を浮かべながら、そう言った……。以前の反応と全く違うことに驚いた。その時、俺の背後から――
「チッ!」
と、舌打ちをする音が鳴る。
急ぎ振り向き、その音の発信源へと視線を動かす。そこには、魔王ゴウマが俺等を突き刺そうと力強く鎌を振り下げている最中だった。二度目のこの光景に、戸惑いしかない。前回と同様に、その鋭い鎌の刃先は、アルフの二本指だけで軽々と止めている。
「えっ? えっ? えっ? えっ?」
今のこの状況に、こんな声しか上げられないでいた。何がどうなってるのか、さっぱり分からない。またこの後、ゴウマをダーツのように投げるのかと、ドキドキしながら見守っていると、
「チッ! 失敗ですか……、覚醒してしまったのなら……、この方法しかなかったのですが……」
と、魔王ゴウマは小声で呟く。そして、力強く握れらた鎌をすんなり離した。前回、見た光景との違いに目をまん丸にしていると、ゴウマは突如、後ろへジャンプするため地面を軽く蹴った。そして、俺たちから距離を取る。
「え、なんで……?」
思わず出た言葉だった。俺は立ち上がり、今の状況を理解しようと必死に考えた。そして、出た答えは――
「アルフゥゥゥ! 何が起きているか俺に教えてくれぇぇぇ! ゴウマがさっきと違う行動してるぅぅぅ!」
メガネ少年が猫型ロボットに頼み事をする時と同じトーンで、俺は声を上げた。すると、アルえもん、いや、アルフは、自分の体の三倍はあろうゴウマの鎌を軽々持ったまま、ゆっくりと立ち上がると、
「さっきと違う行動? ああ、それはきっと幻術で見たモノじゃ。余が起こすまで見てきたモノ全て、精神崩壊系の魔法の一つ幻術魔法じゃ」
「げ、幻術……? えっ? いつから、そんなのされたの……?」
「鎌を振り下ろした攻撃と同時にじゃ! まぁ、余は耐性があるからなんでもなかったが、お主はその後、うんともすんとも言わなくなってしまったからのぅ、これはかかってしまったと、すぐに気づいたのじゃ。それで、何を見てきたのじゃ? 余に教えてくれ!」
デカ鎌を軽々と振りながら、アルフは笑顔で聞いてきた。その瞬間、俺の目の前には、マーちゃんを亡くして悲しんでいる幻術の中のアルフの顔が浮かぶ。そして俺は、
「いや、その……」
俺の口はごもってしまう。言えない……、マーちゃんのこと、俺がアルフの過去を見てきたこと、絶対に言えない。もし言って、同じ事が起きてしまったら絶対に嫌だから……。すると、そんな俺を察してかアルフのほうから口が開く。
「まぁ、言わんで良い。精神崩壊系の魔法っていうのは、その対象が生きることを諦めさせる魔法じゃからな、お主が一番嫌な展開が自動的に見えてくるのじゃ。まぁ良かったわい、余が早く気づいて、もう少しでお主、死んでしまう所じゃったのじゃぞ!」
「し、死ぬって? 幻術、見させられただけで?」
「はぁ……、ホント、マサオは戦いについて何も知らんのだな……。よいか、戦闘というのは、先に命を取ったほうが勝ちじゃ、その方法は大きく二つある。一つは物理的に相手の生命活動を止めること、もう一つは精神を崩壊させることなのじゃ。完全に精神を崩壊された者は、体自体が生命活動を止めてしまう。まぁ、ある程度のレベルになると、物理攻撃と一緒に精神魔法も同時にしてくる、それは常識な事なのじゃよ! 覚えておくようにっ! ムフー!」
「は、はい……」
鼻息荒めに得意げに話すアルフの顔を見て、心の底から幻術で良かったと思えた。アルフのあんな顔は、二度と見たくない……。気持ちも落ち着いたところで、前回と同じことを口にした。
「そういえば、『魔王のチカラ』戻ったんだな?」
幻術とテンションは全然違うが、今の状況から考えて聞かないと話にならないと思って言った。すると、
「なんじゃ? 気づいておらんかったのか?」
幻術と全く同じ答えに、再放送を見ている感じになって笑いそうになる。俺の中で想像するアルフは、結構正確なんだなと思い、その流れに合わせることにした。
「うん、まぁ、気付くわけ無いって、俺は異世界初心者なんだ、分かるわけないよ」
と、返すと、
「ちょっと考えば分かると思うがのぅ……、今の状態がおかしいとは思わんのか? 瀕死状態だった余たちが、なぜピンピンしておる? 誰かが回復魔法でもしてくれたわけでもないのに」
一文一句、同じことに驚いたが、面白いから続けてみた。
「たしかに、どういうことだよ?」
「まぁ、普通に考えて、余の自動発動スキルじゃろうな」
「なんだよ、それ?」
「ダメージを受けた際、自動に全回復するスキルじゃ。まぁ、今まで発動したことはないがな! ほらっ、捻った足首ももう痛くないじゃろ?」
「あ、本当だ」
「自動回復が発動した根拠として、なぜかは分からんが魔王時代の魔力と身体能力が、ちゃっかり復活しておる」
ここまで正確だと、なんだか怖くなるが、それくらい俺の創造性はすごいってことだ。死に戻りする主人公もこんな気持なんだなぁとしみじみ感じていた。そして、幻術で見た流れだと手の平から黒炎を出すはずだが、アルフは――
「うん、まぁ、よかったのじゃ。マサオが幻術から覚めて、少しゾッとしたぞ!」
と、幻術と違う展開になり、少し残念だったが、現実に戻してくれたことに感謝ってことで、
「心配かけてごめん、本当にありがとうな!」
と、素直に感謝を伝えた。
それに対してアルフは、ニコニコしながら、こう言った。
「幻術の治し方、『マーちゃん』に教わってて良かったのじゃ!」
………
……
…
「……えっ?」




