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「う……、うそだろ……」


 目の前の光景に愕然した俺が、最初に喉から発声された言葉だった……。そして、最初に頭の中に浮かんだ言葉は、『話が違う……』だった――。


 ――マーちゃんと女神イリアの会話からすれば、いろんな世界を崩壊させる滅茶苦茶なヤツがいて、それをどうにかしないといけないってことで、この世界にアルフを転生させたはず……。それが……、どうして……、こうなった……? まだ何にも始まってもいない……、まだ例のヤツにも出会ってもいない……、にも関わらず世界崩壊が始まる……? ……って、おかしいやろがいっ!


 わけのわからない展開に、俺の思考は混乱を生じた。――そして決断する。もう一人ではどう考えてもどうにもにもならない。ここは、魔王のチカラを取り戻したアルフのチカラが必要だ。いくらこのことについてマーちゃんが口止めしても知ったこっちゃない! 世界が崩壊したら元も後もないのだからっ! 俺は意を決してアルフに向けて口を開く――。


「お、おいっ……! アルフっ! 大変だっ……! 世界の崩壊が始まっ――」


 そう、言いかけた途中に、俺の声は急ブレーキをかけた。その理由は、目の前のアルフの姿を脳が認識したからだ……。それは――、瞳孔が開きっぱなしになり、目を見ひらたままでいるアルフがそこにいた。そして、何か独り言をブツブツと呟いている――。


「おかしい……おかしい……おかしい……おかしい……」


 と……、同じ事ばかり呟いていた。明らかにまともな状態ではない事は、ひと目で分かる。

 俺はアルフの小さな肩を掴み、


「お、おいっ! 大丈夫か? どうした?」


 と、声をかける。すると、


「理屈が合わない……理屈が合わないのじゃ……」

「なにが?」

「余は魔王じゃ……なのになぜ……さっきあんなことを言ったのじゃ……? 勇者なんて敵なはずなのに……なぜその身を気にした……? なぜじゃ……? なぜ……そんな考えが浮かぶ……?」

「……ん? ああ……、鎧がないと魔王ゴウマを倒すのが難しいって話か? そりゃ、勇者グルモには世話になったんだ、助けたいと思うのは当然だろ? そんなことよりも、今は――」


 何かに凄く動揺しているアルフに対して、俺は今の状況を説明しようとするが、その声はアルフによってかき消される。

 

「当然じゃないっ!! 余は魔王ぞっ! おかしいではないか、魔王である余が勇者の身を心配し、ただの人間である、お主と恋愛して喜んでいるなんてっ!」

「いや、恋愛はしてな――」

「魔王がこんな思考になるのはおかしいって言っておるっ! あそこにいる異世界の魔王の方が正常なのじゃ! 何事よりもチカラを欲す……、それこそ魔王の真の姿じゃっ! それがどうじゃ……、余は何をしておる……、どうしてこんな気持ちになるのじゃ……、思い出しても以前の余は……、こんなんじゃ――、んっ? そうじゃ……、誰かが……誰かが……そうさせた……余に教えてくれた……、『親切にされたから親切で返しなさい……』、『自分がされて嫌なことはしてはいけません……』って……、誰じゃ……? 誰が言ったのじゃ……? うぅぅ……思い出せん……、それともいないのか……? もしかして余は……ずっとずっと……一人ぼっちじゃったのか……? うぅぅ……一人は嫌じゃ……」


 そう言い終えるとアルフは、頭を抱えてうずくまってしまった。俺はすぐに分かった、マーちゃんの事だと……。苦しんでいるアルフをこれ以上見たくない。この後どうなるかなんて、マーちゃんの指示なんて、どうでもよくなった。そして、その場にしゃがみアルフの頭の上に優しく手を置き、俺は静かに告げた。


「アルフよく聞いてくれ……、お前は覚えていないと思うが、魔王の頃いつも一緒にいてくれた猫がいる。それが、お前の世話して、いろいろ教えてくれたんだ。さっきの話に出てきたのは、その猫だ」


 俺の言葉がアルフへと届くと、塞ぎ込んだ顔は静かに上げた。そして、


「猫じゃと……?」

「そうだ、真っ白な猫。いつも一緒いたんだ、だから決してお前は、一人ぼっちなんかじゃないんだ」

「ほ、ほんとか……? 余は一人ぼっちじゃなかったのか……?」 


 涙でくしゃくしゃにした顔は、暗闇の中で一本の光が射し込んだ時の様な表情を浮かべた。それを見て、胸をなで下ろした俺は、本題へと舵を向ける。


「そうだ、なぜお前がその事を覚えていないかと言うことだが、実はお前が転生する際に記憶を無くすように女神に指示したのが、その猫のなんだ」

「な、なに?」

「まぁ、説明するとややこしくて何て言えばいいのかわからんのが、つまり『マーちゃん』がしようとしてることはな――」

「マーちゃん……?」


 と、アルフが『マーちゃん』の名を口にした瞬間だった――。


『バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ!』


 という、凄まじい音ががこの空間に響き渡る。その音と連動するかのように、更に地面は激しく揺れ始め、天井からはガラガラと落石の雨が降ってきた。


「な、なんだ?」


 突然の激しさに、会話は中断する。辺りを見回すと空間の捻れ歪みは、更にひどい状態へと変動している。すっかり忘れていたが、あたふたする魔王ゴウマもそこにいた。


「ちょ、ちょ、ちょぉぉぉぉぉぉ! な、な、な、なんですかぁぁぁ? ど、ど、ど、ど、どういうことなんですかぁぁぁぁぁ? あわわわ……。何が起きているのですかぁぁぁぁぁ!」


 と、もう魔王の看板下ろせよってツッコミたくなるレベルだ。……って、そんな悠長なことを言ってる場合ではない。一刻の猶予ないことを肌に感じ始めている。すぐに説明の続きをしようと再び、アルフへと顔を向ける。そこには……、


「マーちゃん……、そうじゃ……思い出した……。う、うぅぅ……、マーちゃん死んじゃった……、余の目の前で死んじゃった……、はぁはぁ……、マーちゃん……マーちゃん……」


 と、マーちゃんの名を繰り返し繰り返し唱えるように口にする。

 岩が雨のように降り注ぐ中、アルフの肩を強く握り、


「アルフ……、しっかりしてくれ! マーちゃんは残念だったが、今はそんな場合じゃないんだ。分かるだろ今の状況が……、だぶん世界が壊れかけている、アルフには特別なチカラがあるって聞いた、お前ならこの状況を止められるんじゃないのか?」


 できるだけ冷静に真剣にアルフへと語りかけた。しかし、そんな俺の思いとは裏腹にアルフは、俺に見せたことない目つきで睨みつけてきた。


「そ、そんな場合じゃないだと? マーちゃんの死がそんな場合じゃないだと……? ふざけるなぁぁぁぁぁ!! 何の取り柄のない人間ごときが知ったふうに語るなっ!」


 と、声を荒げ怒鳴りつける。そんな言葉を受けた俺は、心の臓にナイフを突き立てられるような気分になった。その時、再び――


『バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ!』


 と、三度マジックテープを剥がす音が俺の耳を劈く。この瞬間、俺は理解した。ありえないと思っていたことが、そうであること……。今の現象……世界の崩壊……その原因は……アルフだ……。たぶん、感情の振幅で起きている……。そうなると、以前の世界の崩壊って……、アルフが原因なのか……?


 ……もう何が真実で何が嘘なのか分からなくなっていた――。

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