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「むむむ……! おいっ! マサオよっ! 余が眠っているからって……、こ……こ、こんな事するなんて……! ひ、ひ、酷いではないかっ!」


 熟したトマトのように真っ赤にさせる元魔王の少女は、英雄ばりの働きをしたはずのこの俺を睨みつけながら怒鳴りつけた。そんなまさかな展開に、鳩が豆鉄砲を食らった俺は堪らず声を上げる。


「ちょちょちょっ! ちょっと待てっ! ご、ご、誤解――」

「あぁぁぁもうぉぉぉ! 黙るのじゃぁぁぁ! 言い訳など見苦しい! 男なら潔く認めるのじゃっ!」


 発言の途中で完全ブロックして捲し立てまくるアルフ。そんな理不尽な攻撃を受け続ける俺は、すぐさま立ち上がろうとアイツの身体を抱き抱えた右腕を振りほどこうとする。しかし――


『ガシッ!』


 俺の右腕は、ヒステリー娘によって力いっぱい掴まれる。


「マサオよ……、なに逃げようとしてるのじゃ……。まだ話は終わっておらんぞ……!」


 恐ろしいくらい低いトーンで囁くアルフの左腕は、小刻みにプルプルと震え、「ぜってぇ放さねぇぞ」と言った意志を感じ取った。


 あぁ……、な、なんで……? なんでこうなるの? ただ……必死な思いで助け出しただけなのに……、少しは見直してくれて「おお! マサオ凄いなっ! やる時はやる男じゃな! 助けてくれてありがとう!」っと、言われたかっただけなのに……。ほんと……涙出そう……。


 頭の中は、そんな気持ちで一杯だった。感情も顔もショボーンになっていると、


「ま、まぁ……、マサオの気持ちも分からんでもない。余があまりに魅力的過ぎるから、つい魔が差してしまったのじゃな? うんうん、分かる、分かる、よく分かるっ! じゃがなっ! やり方が気に入らんのじゃ! 眠っている時ではなく、こういう事がしたいならしたいと正々堂々と言ってくれれば、余もやぶさかではなかったかもしれんぞっ!」

「はああああああああああああああああああああああああ?」


 このガキは、いけしゃあしゃあと言い放ちやがった。冗談じゃない! 誰がお前なんかに魔が差すかっ! あああ! 腹立つ!


 そんな感情のまま現れた言葉を、そのまま口に出そうしていると、目の前の憎たらしいガキは俺とは対照的にすっかりと冷静さを取り戻していた。そしてなぜか、頬を火照らせている。


「感情的になってすまなかった……。しょ、正直……、余のこと……、そんな風に見ていたことについては嬉しかった……。じゃがな、余にも心の準備が欲しかったのじゃ……。実はのぅ……前世の時な、人間たちの恋愛や『今回やっちゃったこと』いろいろと調べていたのじゃ……、そんで余は余なりに理想があってのぅ……ロマンチックな感じとか……そんなことがしたくて色々と想像を膨らませていたのじゃ……じゃから、そんな大事な時に眠っていて全く覚えてないなんて辛くて辛くてのぅ……つい、怒ってしまったのじゃ……」

「は、はい?」


 ワケのわからないことを言い出すアルフ、それに『今回やっちゃったこと』って、何もやっちゃいないっ! そんな戸惑う俺をよそに、アルフは潤んだ瞳で俺を見ている……。


 その時だった――


「オーホホホ! みぃぃぃぃぃつけた!」


 その声の主は、隠れん坊の鬼の声ではなく、正真正銘の魔王の声。そう、すっかり忘れていたが、今は戦闘中。バカみたいに声を出して、バカみたいな事をしていれば、誰にだって気づかれるのは当然である……。不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる魔王に対して、この先の戦いは避けれないと覚悟した。

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