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「どこ行った……!? どこ行った……!?」


 俺らを見失った者は、そんな余裕の無い声で騒ぎ出している――。


 俺が小さい頃、母親と一緒に買い物に行った際、欲しいお菓子をみつける度によくねだっていた。まぁ、そんな簡単に買ってもらえる訳もなく、いつも『ダメっ!』と言う言葉が発せられる度、へそを曲げて母親のそばからワザと離れ、心配かける事ばかりしていた。そしてその度、迷子になって泣きながら母親をさがす。そう、あそこにいる圧倒的な強者である魔王ゴウマは、そんな昔の俺のようになっている、バカみたいにキョロキョロしながら探し回っているのだ。そして――、


「そ、そんなハズは……。この空間は、全域完全結界を張ってる。ワタシに気付かれず移動できるわけがないっ! 例え目視で追えない程のハイスピードで動こうとも、転移魔法や時間を操ろうとも、必ず察知できるはず……、なのになぜ見つからんっ! あぁぁぁぁ! なぜだっ!」


 声を荒げながらそう言ったゴウマは、苛立ちがピークに達したのか地面に転がっている大きめな岩を踏みつける。粉々になった岩たちは、再び土煙を巻き起こし、魔王のその姿を覆い隠す。


 そして、こんな光景を静観し続けた俺の気持ちは一つしかない、『何が何かサッパリ分からない』――だ。俺はアルフをふつうに助け出しただけで、特別なにかをしたわけでもない。なのになぜ? アレだけ圧倒的な優位に立っているはずのゴウマが――、マウントを取って調子に乗りまくりだったはずのゴウマが――、何に驚いているのか、何に怒っているのか、サッパリ分からない。分かる人がいるなら教えて欲しい、知ったかでもいいから……。


 何が起きているのか困惑する中、腕の中で抱えていた生き物がモゾモゾと動く感触を受ける。そしてついに――、


「ん……、な、なんじゃ……、ここはどこじゃ……?」


 ずっと聞きたかった、ずっと求めていたこの声を聞いた瞬間、困惑なんて二文字は完全に消え去った。それと共に心拍数は異常に早くなってゆく。


「お、おう……。……、だ、だ、大丈夫か……?」

 

 誰かさんの前世を知ったせいなのか、思わず声がうわずったしまった。顔の表面が急速に熱くなる感触を味わいつつ、声を整え直し、俺は再び発する。

 

「アルフ、大丈夫か? 痛いところ無いか?」


 今度のは、自然かつ大人っぽく言えた事に満足した。そんなダンディな俺に対してアルフは、意識がハッキリしてないのか、ぼーっとした表情のまま口を開く。


「マサオか……? 何が起きたのじゃ……?」


 アルフは、自分に何が起きたのか分からない様子だった。まぁ、当然なのだが。親切な俺は、物語の主人公になった気分を味わうため、やれやれっといった空気を出して口にする。


「やれやれ、覚えてないのか? よく分からん異世界の魔王と対峙しただろ? それは覚えてるか? そんな中、お前が食べ物を粗末にされたって理由でキレだしてよ、その魔王に詰め寄って、あっさりやられたんだよ。はぁ……、まったく、やれやれだぜ! さあ、こっからの話が大事なんだが、窮地追い込まれたお前を助け出したのは誰だと思う? ねぇ誰だと思う? フフフ……、実は言うと、この勇敢な俺こそが――」


 喋りにエンジンがかかってきて、助けた事を存分に自慢しようとしたところで、


「んっ……!? んんっ! ま、ま、マサオよ! お、お主は、何をしておるのじゃ!」


 急に正気に戻ったのか、突然アルフは騒ぎ始める。

 意味が分からない俺は、


「だから、今から俺の英雄譚をしようとしてたじゃないか、話の腰折りやがってまったく……。ちゃんと聞けよ、倒れたお前を――」

「そんな話どうでも良いのじゃっ! い、い、今……、今、何をしておるのか聞いておるのじゃっ!」

「あっ? 何を言ってるんだ? だからその話をしようとしてるんだろ!」


 なかなか自慢まで辿り着けない苛立ちで睨みつけると、アルフの顔は信じられない程、真っ赤になっていた。心配になった俺は堪らず口にする。


「お、おい! どうした? 顔、真っ赤だけど、具合でも悪いのか?」


 アルフの体調が心配だった俺は真剣に訊いた。

 俺の腕の中で、目を見開き梅干しみたいな顔でアルフはこう言った。


「い……今の……、この……密着……、余とマサオは……い、い、いわゆる……熱愛中ってやつではないのか……?」

「……はっ?」

 

 真剣に心配して、心底後悔をした――。

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