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顔を真っ赤にした女神によるコチラを睨みつける眼光は、ますます強くなっていた。女神に対してこの態度、改めてマーちゃんと言う猫は、只者じゃないと再確認した。
その後、余裕をなくされた女神様は二度三度と大きく深呼吸をし、少し不気味に感じてきた女神スマイルが再び復活した、そして笑顔で口を開く。
「はいはい! 言いたいことは、全部全てまるっと分かったわ! うんうんうん、なるほどなるほどね……、それで……それで……、あなた達の記憶を消せばヤツに気付かれず近寄れると言うことか……? うんうん……んっ……? ちょ、ちょっと待ってよ! 記憶のないアンタ達でどうやってヤツに近づくのよ! そもそも、どうやって記憶の無いアナタが私の依頼を知り得るのよ! それに記憶をなくしたら気付かれないって理由も意味不明なんだけどー! んもぉー! 意味がさっぱり分からない!」
冷静さを取り戻したはずの女神様は、瞬きの早さで顔を真っ赤にさせ激高した……。何度目だ……。
そんな女神とは対照的なマーちゃんは冷静に言う。
「そのことは問題ない、とりあえず落ち着け」
その言葉に女神の顔は、ますます赤くなり小刻みに震えだし、
「お、落ち着いてるわよっ! 落ち着き過ぎて悟りを開けるくらいだわよぉ!」
吠えるように声を出す女神に、マーちゃんは「はぁ……」と大きくため息をつきながら話し始めた。
「まず記憶を無くしたオレが、どうやってお前からの依頼を知るかだが、それは今やっている」
「はぁ?」
と、マーちゃんの言葉に意味不明な反応を見せる女神。
正直、俺も「はぁ?」と言いたい……、マーちゃんは何を言ってるのかさっぱり分からない。
困惑する女神と俺を残したまま、マーちゃんの話は続いた。
「続いて記憶を消す理由だが――、そろそろいいか……」
「なに? どうしたの?」
なぜか、マーちゃんは話を中断した。
女神は不思議そうな表情を浮かべる。
そして、次の瞬間――
『キィィィィィィィ! ピィィィィィィィ! ジィィィィィィィ!』
突如、マイクがハウリングするかのように、けたたましい音が俺を襲う。うるせぇ! なんだこの音は? 何が起こった? と、混乱していたが、目の前の女神は耳を塞ぐことなくコチラを見続けてた。
マーちゃんの動きにも視界にも変化がない。こんなデカい音なのに聞こえてないのかと不思議に思っていると、女神はマーちゃんを見続けながら何度も頷く仕草をする。
もしかして、女神はマーちゃんの話の続きを聞いているのか?
もしかして、今も流れている爆音は俺だけなのか?
俺はそんなことを考えていた。
ハウリングのような音でマーちゃんの声が全く聴こえない俺は、ただただ女神を見続ける他なかった。当初は、マーちゃんの話を聞き入っているのか頷く回数が多く見られる、しかし中盤からは女神も何か言っているのか時折、口を動く様子も伺えた。そして気づくと、あの女神が笑顔で楽しげに話す表情も浮かべている……。あれ? こいつら仲良くなってね? と、俺が勘ぐっていると、女神の表情が変わっていくことに気づく。口と目がみるみるうちに大きく開き、その表情はとても驚いている様に見える。
何を話しているんだ? 俺にも聞かせろ! と、心の中で叫んでいると、
「ちょっと待ってよ! それ本気で言ってるの?」
突然ハウリングの音は止み、女神の声が俺の聴覚を刺激した。
なんだなんだ? 何の話だ? と気になっていると、次にマーちゃんの声が響く。
「もちろんだ、大きく分けて今言ったフェーズの流れ以外ではターゲットを倒すことは出来ない。決して」
マーちゃんのこの言葉に女神は言葉を失う。
なになになに? 俺にも教えて! と心から願っていると、女神の声がポツリポツリと聞こえてくる。
「はぁ……、本当に信じられないわ……。キミは本当に何者なの……? 私しか知り得ないはずの『アイツ』のことまで……、そこまで的確に推理するなんて……。分かった……、『マーちゃん』の作戦で行きましょう! たぶん『マーちゃん』にしかアイツには勝てないもん!」
あれれ? おかしいぞ~、やっぱりコイツラ仲良くなってるよ……。いつの間にか女神も『マーちゃん』って親しげに呼んでるし……、話にはさっぱりついて行けないし……、除け者にされた様な気分になって、ただただ悲しかった……。
いじけモード発動し始めた俺をよそにマーちゃんが、
「イリア、そろそろアレを」
長年の相棒に指示するかのようにマーちゃんは言った。
イリア? 女神の名前ですか? はいはい、呼び捨てですか? はぁ……、陽キャはコレだからまったく……、す~ぐ女と仲良くなれるんだよ、はいはい凄いですねぇ~。俺には真似できませんよ! って……、あれ? 『イリア?』どこかで聞いたことのある名前のような……?
などど、ブツブツと考えていると、女神イリアさんが答える。
「例のアレね! ちょっと待って」
アレで伝わる仲ですか? あらあら、ようございましたね~。
女神は振り向くと、おもむろに占いなどで使われる水晶を目の前に見せた。
そして女神は――
「魔王アルフが死んだ時のを映せばいいのよね?」
と、言った……。




