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目の前の勇者が倒れ込み、その反動で胸に貫かれていた刃は引き抜かれ、マーちゃんもまたその場に倒れ込んだ――
「ゲボッ! ゲホゲホッ! ハァハァ……」
息は荒く何度も血を吐き出しているマーちゃん、観察者気取りでいた俺にも、その苦しみはダイレクトに伝わってきてくる。しかしながら、その痛み苦しみは伝わって来ているが、以前アルフから伝わってきた『生命同期』の痛みとは、少しばかり違っていた。例えるならアルフの時は現在進行形の痛み、話すこと思考する事さえ出来ない程である。しかし、今起きているマーちゃんのこの感触は、昔の痛みを思い出すような痛みに近い、現に痛み苦しみの中にいながらこのように思考できているのが何よりも証拠だ。どういうことだ? これはアルフの記憶の中だからなのか……、もしそうならアルフ視点になるはずなのだが……?
宿主であるマーちゃんが死に直面するほど苦しんでいる最中に俺は、そんなことを考えていた。
そして次の瞬間だった――
「マぁぁぁぁぁぁぁちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!」
と言う、けたたましい声と共に激しい空気の衝撃波を肌に感じた。そして気が付くと目の前には、黒く厳つい鎧姿のアルフはそこに居た。
しゃがみ体制になったアルフは、両手を広げマーちゃんの体に触れようとするが出来ない様子だった。抱きしめたいのに出来ない、そのもどかしさが両手の指先の動きワサワサ感から伝わってくる。
「あ、あ、あ……、ど、どうしよう……どうすればよいのじゃ……、か、か、回復魔法はできんし、どうすればよいのじゃ……、はぁはぁ……マーちゃん……マーちゃん……余は……余はどうすればよいのじゃ……」
動転しすぎて言葉にならない声をあげるアルフ、こんな状態のコイツを見るのは初めてだ。小刻みに震えたアルフは、その感情が鎧たちに伝わるように響き『ガチャガチャ』と悲鳴をあげている。
「ハァハァ……アーちゃん……、ミャー……ニャー……、ア……アーちゃん……」
ひねり出すように出したマーちゃんの声は、言葉と鳴き声が混じり合うようになっていた。
「はっ! あ、あ、あ、あ、あ、マーちゃん……マーちゃん……うぅぅ………、嫌じゃ……嫌じゃ……そんなの嫌じゃ……絶対に嫌じゃ……、余を一人にしないでたもう……余を一人にしないでたもう……、マーちゃん死んじゃ嫌なのじゃ……マーちゃん……マーちゃん……うぅぅ……、はぁはぁ……よく聞いて……余はマーちゃんが世界で一番好きなのじゃ……一生一緒にいるのじゃ……だから死んじゃダメなのじゃ――」
そんな悲痛な声は延々と続く、兜の隙間からはポタポタと水が垂れていた……。
そして来る、何故かは分からないがマーちゃんの命の灯火が消える瞬間が……。
マーちゃんは最後の力を出すように言った――
「ミャ……アーちゃん……ミャ……アーちゃん……、きっと……きっと……現れるから……ミャーちゃんの運命の……」
と、言い終えると――
「嫌じゃぁぁぁぁぁぁぁ! 嫌なのじゃぁぁぁぁぁぁぁ! そんなのいらん! マーちゃんじゃなきゃ嫌なのじゃぁぁぁぁぁぁぁ! はぁはぁ……マーちゃんが死んだら……余は……生きていけない……マーちゃんが――」
そこまで聞こえた後、その息は静かに止まった――。




