63
勇者の剣に貫かれたマーちゃんの身体は、噴き出した液体によって真っ白な毛並みは、真っ赤へと染められていった――
ある意味、猫のVRゲーム体験中だったはずの俺は戸惑った。刺された瞬間の感触、貫かれた瞬間の感触がダイレクトに伝わってくる――激痛、苦しみ、吐き気――言葉には表すことは到底出来ない感触が俺を襲う。『関係ない俺が……なぜ?』っと言いたくなる状況で、勇者ユウタは刺した体制のまま顔をマーちゃんの耳元へと寄せた――
「ほ……本当にすまない……、今は……痛かろう……辛かろう……、でもキミは消えてはいけない……! 必ず……必ず世界を救ってほしい……」
そう……、ユウタは小さな声で呟いた。
動物虐待しているヤツが何言ってんだ! と声を大にして抗議したいと思っていると、なぜかマーちゃんは笑った――
「ハハハ……、な……なるほどね……、そういうことか……、つ、つまり世界崩壊の原因はお前じゃなかったってことか……。ハァハァ……ゲホゲホッ! う……疑って悪かったなぁ……ハァハァ……」
ねじり出すように声を出すマーちゃんに対して、勇者は驚く表情を浮かべる。息をきらしながらマーちゃんは、こう続けた――
「ハァハァ……ハァハァ……、こ……この世界は、手遅れみたいだな……。誰がこんなことしたかは知らんが……、要するに……お前が女神に頼まれたことは一つ、アーちゃんのチカラが必要ってことなんだろ? 『世界のシステムに干渉しないチカラ』が――」
「なっ!」
マーちゃんの発言に、ユウタは驚きの声をあげた。
剣に貫かれた事によってマーちゃんの身体は、串カツのカツような体制となっている状態にも関わらずマーちゃんは話を続ける――
「げほっげほっ! ハァハァ……世界の崩壊……それを意味することは『なかったことにされる世界』。つまり、元々この世界が存在する前に戻すこと……。ハァハァ……今の現象を起こしているヤツは、アーちゃんのチカラを恐れてなかったことにしようとしたってところか……。ふふふ……そうか、だから必死に仲間に手をかけていだんだな……。この世界が崩壊する前に天に召されないと……存在自体なかっことになるからな……どうせお前のことだ女神と契約した際、仲間を転生できるように頼んでいるのだろ? ふふふ……助けるためか……勇者らしい行動だ……」
「うぅ……」
マーちゃんの言葉にユウタは、限界まで貯めたダムが崩壊するように涙を流していた。
そんな泣き顔を眺めながらマーちゃんは続けた。
「そして、私を刺した理由は一つ……ハァハァ……くっ! ハァハァ……世界の崩壊の前に……魔王アルフを転生させたいが……命を奪うことはできない……、ハァハァ……た……たしかに……この方法しかないな……よく観察したな……アーちゃんの精神状態を……」
そう言うと、勇者ユウタはニコッと優しい笑顔を浮かべた。
そして、次の瞬間だった――
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
耳を切り裂くような悲鳴が響く。
そして、続けるように――
「マーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃんマーちゃん!!」
壊れたラジオのように同じ言葉を延々を言い続けていた、この声の主は言わなくて分かる。
その後、マーちゃんの後方から奇妙な音が鳴り響く。
『バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ! バリバリッ!』
マジックテープを剥がすような音。どんだけ沢山のマジックテープを剥がしているのか気になったが、マーちゃんの視点は変わらないので見ることはできない。
すると、次の瞬間――
『ヒュンッ!』
と、空気が通り過ぎる音が耳をかすめると、目の前で優しく笑顔を浮かべていたユウタの顔は突如消えた――体を残して……。
そして、頭部を失った体は『ドサッ』とその場に静かに倒れた……。




