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 無数に降り注ぐ光の剣は、魔王アルフへと狙っていた。


 ――どこかで観た光景である。某アニメに登場するラスボスが、何もない空間から無数の宝具を飛び出す光景に近かった。


 中二病が泣いて喜びそうな真っ黒な鎧に身を包むアルフは、


「なんじゃ……?」


 と、ポツリとこぼし、視線を俺いやマーちゃんから自分の頭上へと移す。


 すると、次の瞬間――このマーちゃんの身体が宙に浮く感触を感じた思えば、何の準備なくこの身体は目にも止まらない速さで移動し始め、『ヒュンッヒュンッ』という音だけが耳をかすめていった。


 次に何が起きたのか理解したのは、その身体の移動が止まり、目の前の光景でハッキリする瞬間だった――目の前には、無数の光の剣が地面に突き刺さった光景である。


 つまりどういう事かと言うと、頭上の異変に気付いた時には、瞬時にマーちゃんを抱きかかえ、そして無数に降り注ぐ光の剣を全てかわしたってことだ。


 ――この瞬間、俺は鳥肌が立っていた。今まで魔王時代のアルフは、音声のみだったからこそ、いまいちその凄さが実感できないでいたが、実際に目にすると感動を通り越し尊敬の念をアルフへと沸き立ち始めていた――だって……、俺の目の中に残るアルフの印象は、小さな体でチョコチョコと動き回っている姿しかなかったから……。


 一人で勝手に感激していると――


「なんじゃ、今のは……?」


 と、俺いやマーちゃんに向かってアルフは問いかけた。


「分からない……。も、もしかしたら……、さっき勇者が独り言のように何か言っていたから……、それが原因かもしれない……」


 いつの間にか、マーちゃんは魔王に向かっての話し方を止め、二人で言う『アーちゃん』に対しての喋り方に変わっていた。


 二人の会話は続く、アルフの問いかけから始まった――


「あの勇者、なんて言っておったのじゃ?」

「えーと、確か……、『自分一人では無理だから、足止めをお願いします』って……」

「ん? それ、誰に言っておるのじゃ? もうヤツに仲間なんておらんじゃろ?」

「そのことなんだが……信じられないと思うが……、あの勇者、『女神様』って言っていたんだよ……」

「な、なんじゃとっ! め、め、女神……! ……、女神って誰じゃ? 有名なヤツか?」

「えぇぇ……、女神知らないって……アーちゃんマジ? あんなに……あんなに……教えてでしょ! もう! 何も聞いてないんだから!」

「ひぃっ! ま、ま、ま、マーちゃんが怒った……! う、う、うぅ……、マーちゃん怒っちゃ嫌なのじゃ……怒っちゃ嫌なのじゃ……うぅ……ひっく……ひっく……」

「あっ……あっ……! アーちゃんごめんね! 泣いちゃダメだよ! い……今、大変な時だから……アーちゃん泣かないで……! アーちゃんは良い子だよね? たまたま聞き忘れただけだよね? アーちゃんは良い子、アーちゃんは良い子……」


 ――あれ? 話が脱線してないか? そんな会話していい状況なのか……?


 不安に感じていると、やっとのことアルフのグズりは治り会話に戻った。その後、マーちゃんの女神の説明を懇切丁寧した。すると、魔族の頂点いるアルフは、


「――っというとはじゃ、さっきの攻撃は、その女神がやったってことなのか?」

「いや……、天界に住む女神が、下界に干渉するなど聞いたことがない……」


 そう言い終えるとマーちゃんの視線は、くるりと動き少し離れた場所で倒れ込んでいる者へと合わせた。


 その者は、黒髪に俺の見慣れた顔立ちの少年だった。年齢は俺とそう変わらない感じ、今までの流れからすれば、アレが噂の勇者ユウタなのだろう。白銀の鎧に身に纏ったユウタは、腹を手でおさえ苦しそうに肩で息をし顔を歪ませている。そして、すくそばには、栗色の髪色をしたショートカットの少女も倒れていた。


 そんな勇者を確認したマーちゃんは、


「あのような状態の勇者に、あんな強力な攻撃ができるはずがない……、そんな……そんなことがありえるのか……」


 と、真剣な声でぼそっと呟く。

 すると、アルフは面倒くなったのか、


「簡単のことじゃ、あの勇者にトドメをさした後は、その噂の女神も倒せば良いではないか! 簡単簡単っ! な~にが足止めじゃ、さっきの剣の雨、下手したらマーちゃんにも当たっていて、怪我じゃすまなかったのじゃぞ! 完全に殺そうとしてるではないか! プンプン!」


 と、大それた事をあっさり言うアルフ。

 そんな深く考えない魔王に対してマーちゃんは、


「女神を倒すって……どうやって天界に――、ん? ちょっと待て! 確かに……勇者は女神に『魔王を倒してくれ』ではなく、足止めって――、ま、まさかっ!」


 マーちゃんの視線は急激に動き、再び勇者へと合わせる。勇者の表情をよく見ると、相変わらず苦しみに歪んだ顔だった。しかし、その口元だけはニヤリと緩んでいた。


 その仕草を見逃さないマーちゃんは声を荒げた。


「アーちゃんっっっ!!! 気を――」


 全てが遅かった。『気をつけろ』と言い終わる前には――

 勇者からアルフへと視線を戻した時には、金色に光る剣は、形状が変化していた。一つの剣から幾つもの植物のツルのようなものが伸び始めていて、アルフの背後すぐそばまでうごめいていた……。


 気を許していた、ほんの少し気を許していたせいだった。その瞬間を狙われた。その後は一瞬であった。剣から伸びたツルは、アルフの首、胴体、腰、両腕、両足へと、ヒュるヒュると素早く巻き付いた。

 

 巻き付かれたアルフは思わず声をあげる。


「な、な、な、なんじゃ……? うんっ! あれ? ふんっ! マーちゃん……動けないよぉ……動けないよぉ……マーちゃん……」


 アルフがもがきながら、そう言い終わると、すぐ後ろで『ガシャガシャ』と物音が鳴った――


 すぐさま後ろへと振り向くとソコには――えぐられた腹を左手でおさえながら、立ち上がった勇者の姿だった。


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