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「マーちゃん! マーちゃん! 怒らないでっ! 怒っちゃ嫌なのじゃ!」


 目の前にいる者が、必死に訴えかけてきている――

 全身まっ黒な鎧兜に包まれていた。ガチャガチャと音をたてながら、身振り手振りを激しく動かして必死に訴えかけてきている。その表情は、フルフェイスの兜のせいで読み取ることはできない。


 突然の異様な光景に俺は、ただただ呆気にとられた。

 そんな異様な光景を引き立ている最大の要因は、眼前の者の大きさにあった。目視だけではなんとも言えないが、少なくても俺の身長の何倍もある。その根拠は、首を痛めるほど見上げないと、その者の頭頂部に視線を合わせられないからだ。


 と、とりあえず……、落ち着いて考えることにした。

 今、分かっていることだけを考え直す――

 この世界は――アルフの記憶の中の世界、それ以上もそれ以下もない。

 そして、目の前の巨大な鎧を着た化け物は、声、話している内容――アルフだ。


 なぜ俺がアルフの記憶の世界へやって来たのか、さっぱり分からないことだらけだが、分かっていることは一つ、目の前のアルフには俺のことを認識していない。突如、現れたのなら、それなりの反応があってもおかしくはない。だがしかし、突如現れた俺に、この場にいる者の反応はない。ってことは、俺自体が転移してやってきたわけではなく、意識だけがココにやって来たってこと。


 そしてもう一つ、今見えている機能いわゆる眼なんだが、これは俺の眼ではない。色になんとも違和感を感じるし、それに視線を自分の意思では動かせない。つまり誰かの眼を使ってモノを見ていることになる。


 はぁ……、落ち着いてまとめてみた――めちゃくちゃデカく見える鎧、こっちを向いて何かを言っているアルフから考えると――この眼はマーちゃんのってことになる……。




「いいかい、アーちゃん。いくら敵が酷いことを言っても、いくら敵が憎たらしくても、アーちゃんは魔王なんだよ。感情的になって戦いの礼儀を忘れちゃダメ、魔王様の品格を落とすことは絶対にダメなんだよ! 分かった? いつも言ってるでしょ? 短気は損気って」


 と、マーちゃんは、母親のようなこと言った。

 その声は、骨伝導イヤホンで聞こえてくる音に近い。マーちゃんが俺の頭の中にいるのかと錯覚させるほど、声の発信源が近すぎた。これでハッキリした。俺は、身も知らずの猫の中に意識が入っていることになる……。『なぜだっ!』っと叫びたがったが、もちろん俺の体ではないので声が出るバスもない。まぁ、さっきまで音声のみだった時から考えれば、幾分マシである。誰かが撮った動画を観ていると思えば良いだけなのだから。


 前向きに気持ちを切り替えていると、


「ひぃっく……ひっく……、マーちゃんの言うとおり……ひっく……ひっく……余は……余は……魔王らしくない態度取ったのじゃ……、マーちゃん……もうしないから許して欲しいのじゃ……」


 ゴツい鎧姿のアルフは、両手を目元に持っていき泣いている仕草をする。フルフェイスの兜の上からやっても何の意味がなく、その光景も、ただただ異様だった。


 今までの二人の会話から感じること、アルフはマーちゃんを信じていて、マーちゃんもまたアルフを信じている。ただの魔王と部下ではなく、親子のような親密さがある。そんな二人の会話をずっと聞いていて頭の中に膨らみ続ける感情があった。『俺が死んで……お母さん……どう思っているんだろう……』ということ、苦しいほどギュッと胸が締め付けられた。



 俺が感傷的になっていると、突如マーちゃんの視線は天井へと移った。

 天井までは体育館並にえらく高く、芸術的な文様が細かく描かれている。

 その天井をジーっと見つめるマーちゃん。


 なぜ、アルフから天井へと視線を変えたのかと不思議に思っていると――


「アーちゃん! あぶないっ! よけて!」


 と、急にマーちゃんが叫んだ。

 次の瞬間――


 天井まで何もない空間に急激に歪みが発生する。

 続いて、その空間から無数の光の剣が現れる。


 そして……、その剣はアルフへと降り注いだ―― 

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