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「ゆ……、ゆ、ゆ、ユウタ……? じょ……、じょ、冗談なのですよね……? さ、さすがユウタなのです、こんな状態でも冗談を言える余裕があるなんてっ! さ、さぁ、一緒に魔王を倒すのです!」
勇者ユウタを信じ続けているクリスは、声を震わせながら言った。
――しかし、勇者の返事は返って来ない。
いつの間にか、俺の胸の辺りから熱いモノがこみ上げてくる感触を感じていた。それが『怒り』だとわかるのに、そう時間は必要なかった。ドラマCDを聴いているような状態の俺には何もできない……。
クリスから投げられた言葉は、その場をフワフワと彷徨う中、アルフから声があがる。俺は期待した、勇者に「ふざけんなよ!」とか、ガツンと言って貰うことを……。
だがしかし――、
「よかろう、余が殺してやろう」
だった……。
そして、アルフの答えに対して質問をした者は、声を弾ませながら、
「やっふぅー! 話のわかる魔王だぜっ! よし! おい、クリス! そういう事になったから! まぁ、世界は必ず俺の手で救ってやる、だから安心して成仏してくれっ!」
待ちに待っていた自分へのユウタの言葉は、こんな形で返ってきた。
そして、クリスは――
「う、うそ……、なのです……。う、うぅ……、ユ、ユウタがそんなこと言うはずがないのてす……、嘘だって……、嘘だって言ってっ! ユウタァァァ!」
泣き声混じりで訴えかけるクリス、それに対してユウタは――
「うっせぇよ! ウザイんだよ、お前! 俺はよ、これから『本当』の仲間と旅するんだよ!」
勇者のゲス発言はどんだけ底なしなのか、どんなことがあったらココまでの事を言えるのか、理解に苦しむところである。怒りを通り越して呆れるしかないような言葉を放った勇者は続けた。
「おいっ! 魔王! さっさと殺ってくれ! うるさくて仕方ない!」
と、追撃のように言葉の暴力を続ける勇者に魔王アルフは、
「そうじゃな……、余もうるさいと思っておったのじゃ……」
その声は低く、つぶやくように発した言葉は、俺の胸を締め付ける。
そんな俺の感情とリンクしたのか――
「ま、魔王様……」
と、マーちゃんの心配そうな声が俺の耳に届く。そして、次の瞬間だった。
『チィィィン』
先程、鳴った風鈴のようなガラスの器を叩くような小さな高い音……、その音は、剣を鞘から抜く音だろう……、これ以上のない嫌悪感、何もできないもどかしさ、胸糞とはこういうことなのだろうと理解した瞬間、共に飯を食い、共に旅をした、アイツの声が入る。
「殺してやろうぞ……」
と、感情のない声の音、『ダッ!』と地面を蹴り上げる音が続き、そして……、
『カッキィィィィィィィィィィィィィィッッィィィィン!』
ボリュームバーを探したくなるような、金属が叫ぶような嫌な音が耳を貫く。
クッソっ! あんなクズの言いなりになりやがって……、いくらお前が魔王で、勇者と戦うことが宿命だとしても、コレはねぇよ……。俺の勝手だが、お前は魔王だとしても嫌なヤツじゃなかった、むしろ、どんな人間よりも良いヤツだった……。だからこそ、こんな胸糞な展開で戦ってほしくなかった……。なぜ、こんな内容を俺に聴かせる? 今のこの状態を作り出しているのはアルフ、お前だろ? どうして……?、教えてくれ、アルフ!
オレの心が叫びたがっていると、意外な人物の意外な言葉が飛び出す。
「ふぁっ! ど、どういうつもりなのですっ? 魔王っ!」
何も見えない俺からすると、何が起きているのかさっぱりわからない……。
ただ、この声はクリスである。そして、続くように――
「チィっ! 俺の行動を読んでいたか……! クリスと一緒に魔王も殺る一石二鳥作戦だったのだが……。まさか魔王がクリスを庇って、俺の剣を受け止めるとは……。フッ……フフ……フハハハ……! 面白い、面白いぞ魔王っ! この俺の動きについてきやがる! フハハハッ! コレは実に面白い!」
勇者は大きく高笑いをする。そんな勇者に対して魔王は……小さく笑みを浮かべ……つぶやくような小さな声で……こう言う。
「よかろう……余が殺してやろう……勇者。そう……お主をな……」




