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「なぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃ!! よくもよくも、俺の大事な大事なルンをっ! 許さん、許さんぞっ! 魔王めぇぇぇぇぇ!」
勇者ユウタは、憎しみを込めた声で叫んだ。
――あれ? さっきと随分、ルンへの態度が違……?
そして勇者に続くように――
「あー、なんてことをするのです、ルンを殺すなんてヒドイ。私にとって大事な大事なお姉ちゃん的な存在だったのです、とってもとっても悲しいのです」
魔法使いクリスは、文章を読み上げるように言った。
――なんなの……感情のこもってない感想文は……? 大事なお姉ちゃんにクズだのビッチだの言ってたの、この人……?
そして――
「戦闘態勢も整っていない状態で攻撃するなんて、この卑怯者っ! フフフ……、あっ! ゴ、ゴホン! わ、私にとって大事な大事な妹的な存在だったのにぃ! ふふふ……」
女僧侶ミキは、そう魔王を軽蔑する。
――もうこの人なんて……完全に笑ってるよね……?
こ、こいつら……いちいち『大事な大事な』言いやがって……逆にルンが不憫過ぎるだろ……! こいつら仲間を仲間として思っていない……。
大魔王アルフのくしゃみにより、女戦士ルンは戦死した。
――しかしながら、くしゃみの衝撃で死ぬって……、仮にも最終戦でもある魔王城までやってきた、勇者パーティーに参加しているメンバー、それなりの強さなのではないのか……?
突如、始まってしまった勇者と魔王のバトル――
今までアルフの記憶を聴き続けて、勇者との対決は何度かあった、しかし全て事後の様子しかなかった。ここまで、相手でもある勇者たちの状況が分かったのは、今回が初、どんな戦いを繰り広げるのか気になるところ、更に俺の興味を騒がせる要素の一つ、俺と同じ世界からやって来た転生者、尚かつ俺の夢を実現させた男……、そして、こいつら全員気に入らねぇ! さぁ、聴かせてくれアルフ! 忌々しい勇者たちを倒すところ!
気が付けけば俺のテンションは、鰻の滝登りばりに上がりまくっていた。今まで貯め続けてきた妬みによるストレスのせいだ。
現状は、勇者パーティーの一人を瞬殺した魔王アルフ。
さらなる恐怖を与えることを期待した俺は耳を傾ける。
しかし――
「えぇぇぇ……、も、もしかして、余のくちゃみで……、その女……、死んだの……? えぇぇぇ……、嘘じゃろ……? えぇぇぇ……、わざとじゃないのじゃ……、な、なんか、わるかったのぅ……」
と、スカイダイビングするテンションのような声で言った。
――こっちが『えぇぇぇ』だわ! 何言ってんの、コイツ?
今の気持ちを代弁するかのように、慌てた様子のマーちゃんが、
「ちょっ! ま、魔王様っ! 何、謝っているのですか! 相手は、勇者たちですよ! 倒していいんですっ!」
ごもっともな正論に対して、魔王のテンションは水中を潜り続けるかのような声で――
「はぁ……。いやいやいや……、いくら敵だからって、さすがにダメじゃろ……。さっきの女も言っておったが、戦闘態勢もとっておらぬ者を殺してしまったのじゃ……、はぁ……、それにじゃ、あの女……、子を身籠っておったのじゃ……、余は……、余は……、うぅぅ……、産まれてくる前の子を……、余はなんて事してしまったのじゃ……、死をもって償う以外ないのぅ……」
「ま、ま、ま、魔王様! 何を言い出すのですかっ! 魔王が自決するなんて前代未聞てすよ! これは、戦争なのです、よく考えて下さい、今までどれだけの同胞が殺されたと思っているのですか! そ、それにですね……、仲間に恵まれなかった不憫でならない死んだ女戦士の名誉を傷つけるみたいで嫌ですが、私のレアスキル『透視』で彼女の体内を調べましたが、子は宿ってません。あれは、彼女の嘘です……」
「えっ?」
と、猫でありながら優秀過ぎるマーちゃんによって、真実が明かされた。
その新事実を聞いていた、ある者の声があがった――
「はああああああ? マジかよ! あのアマふざけんなよぉぉぉぉぉ!」
それは、勇者ユウタの声であった……。
先程の発言はなんだったのか、コイツは本当に勇者なのか、おかしな方向に話が進んでいく――。




