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「ま、ま、魔王様……、勇者たちが大変な事になっております!」
勇者パーティー内の揉め事に、マーちゃんの声が上がる。
「ふぅーん……、そうみたいじゃの……。はぁ……、そんなことよりカーペットに付いたシミを落とすのじゃ……、はぁ……」
推し声優に恋人発覚した直後の俺のような声を上げるアルフ、そんな意気消沈気味な大魔王に対して心配そうな声でマーちゃんは尋ねる。
「どうしました? 元気がないようですが?」
「べ、べつに……。何でもないのじゃ……」
「ん? 何か怒ってます? そんなにこのカーペットが大事だったのですか? それなら、コレ以上のカーペット私がみつけてきますから元気出して下さい!」
壊れてしまったおもちゃに落ち込んでいる子を親が元気づけるように、親ポジのマーちゃんの励ましに対して、子供ポジのアルフは――
「カーペットなんて、どうでも良いのじゃ……」
「えっ? それならなぜ、落ち込んでいるのです?」
「だって、だって……、なにやら勇者たち楽しそうだからじゃ……。余は……、余は羨ましいのじゃ!」
「えぇぇぇ……。あんなヒドイ状況を見て、羨ましくなるポイントあります?」
「余はのぅ……、ずっと……、ずっと……、ああいうのに憧れていたのじゃ……。『あの女はなんなのよ』とか『アナタを殺して、私も死ぬ!』とか言い出すようなドロドロした恋愛をしてみたいのじゃ!」
「ま、魔王様……?」
ドン引きしているマーちゃんの姿が安易に想像できたのは、声のトーンで丸わかりである……。モノをも言えない状態の俺から一言いわせていただけるなら――、『何言ってんだコイツは?』だった……。
その後、魔王による訳のわからないこと言い始めた――
「もぉ~ええのぅ! イチャイチャええのぅ! 余だって、あんなことしたいのぅ…… ええのぅ……、あの女戦士、孕まさせられて他の女にいかれておるのじゃ! ええのぅ……、寝取られ……、ええのぅ……。もうひとりの女僧侶を見てみるのじゃ、目がイっておるぞ! ええのぅ……、ヤンデレええのぅ……、余も病むほど恋したいのぅ……。う、う、うぅ……、うぇぇぇぇぇん!」
何を言っているか分からないことを言い続けたと思えば、アルフは急に泣き出した。お前は十分に病んでいるよ、と思っていると慌てた様子のマーちゃんが声を荒げる。
「ま、ま、ま、魔王様……? 急にどうしちゃったんですか?」
「うぅ……、うぅ………、だって……、だって……、だって、余は一生あんなことができないと思うと悲しいのじゃ……。余は生まれつきの力のせいで魔族の男どもは近づいてこんし、恋愛もすることができない……。更に、この鎧のせいで余の顔を見てもらうことも一生できんのじゃ……、人間たちのように嫉妬したり、揉めたりすることも一生できんのじゃ……、うっ……うぅ……」
「魔王様……泣かないでください……。無責任なことは言えませんが、きっと……きっといつか……、アナタに抱きしめられても潰れない、力に耐えうる男が現れます! アルフ様は魔王なのですよ、叶わない願いなんてないのです! だから、泣き止んでください! 私は、いつまでもアルフ様のお側におりますから、辛かったらいつでもお話ください!」
「ま、ま、マーちゃんっ! マーちゃん! うぅ……、うぇぇぇぇぇん! ずっと一緒にいてたもぅ! 一緒にいてたもぅ! うぇぇぇぇぇん!」
ここまで信頼し合う二人の関係から疑問が残った、アルフよ……、マーちゃんでいいじゃないかと……。目の前に、お前が求める恋人になるべき者がいるじゃないかと……。しかし、この疑問に対しての答えはすぐにやってくる。
「マーちゃん……、マーちゃん……、マーちゃんが『猫』じゃなければ良かったのに……、全ての魔法覚えても、猫を魔族にする方法がないとか……、魔法とは不便なものじゃ……」
「ま、まぁ、それは仕方がないことなんですよ……、喋れるようにしてくださっただけでも感謝しておりますから!」
ちょいちょいちょい! マーちゃん猫だったんかーい! えっ? ってことは、今までの会話、全て猫としてたの……? アルフ……お前……。
それにしても……あぁ……。魔王サイドもまた、勇者との対決前とは思えない会話をしている……。女問題で修羅場化する勇者サイド、猫にガチ悩み相談している魔王サイド、改めて思うが……俺は何を黙って聞いているのか……。もっと……もっと真面目にやってくれよぉ……勇者と魔王の戦いをさ――。




