45
突如、急激に増えた登場人物に混乱し、すぐには気づけなかったが、『ユウタ』って名前……。コ、コイツ、俺の世界の人間じゃねぇか! さっきから聞こえてくる女達は、コイツの仲間か……? ほぉ、随分、頼られているみたいじゃねぇかよ! クソッ! ほら見ろ、やっぱり異世界転生したヤツらは、順調にハーレムを作れるんだよ! そのはずなのに、俺ときたら……。
べ、別に羨ましくないもんと、心の中で言い聞かせていると、マーちゃんが驚いた様子で声を上げた。
「き、貴様ら! よ、よくも我が同胞を! 許さんぞ! 魔王様、こ奴らに真の恐怖をお与えて下さい!」
そうだそうだ! っと、マーちゃんの発言に同調した俺は、アルフの活躍に期待した。しかし――
「ちょっと、ちょっと! あーあ……、なんで、そんなところで戦うかなぁ、床ビチャビチャになっちゃってるじゃん! もおっ! ココ、余の部屋なの! 掃除するの、余なのっ! ちゃんと戦う場所あるのに、なんでココで始めるのじや!」
期待に対してアルフは、勇者を目の前にして斜め上を行く反応であった。
「ま、魔王様……、そんなこと言っている場合ではないです! 勇者パーティーが目の前にいるんですよ!」
「そんなことどうでもいいっ! 早く拭き取らないとシミになってしまうのじゃ……。マーちゃん雑巾どこ?」
「いやいやいや! 掃除は後にして、勇者の相手しましょうよ!」
「はあ? このままにしてシミが残ったらどうするのじゃ? お気に入りのカーペットなのじゃぞ! あっ! 雑巾こんなところにあった!」
その後、ガチャガチャと鎧の擦れる音が鳴り続けていた。たぶんアルフが雑巾がけを始めたことは、安易に想像できる。すかさずマーちゃんの声が飛ぶ――
「魔王様っ! お止めください! 勇者たちの前で雑巾掛けをなさるのは! 魔王の威厳がなくなりますよ!」
「うるさいのじゃ! 魔王の威厳より大事なことがあるのじゃ!」
魔王の威厳よりカーペットの方が大事らしい……。俺が呆れていると、存在を忘れられている勇者がやっと口を開いた。
「お、俺たちを前に随分余裕だな……、ま、魔王……」
その声のトーンは、先程までの名乗った時の覇気はなく、テンションだだ下がりの様であった。
あれ? ユウタ引いてる? おい! アルフ! お前の意味不明な行動のせいで、勇者ドン引きしてるぞ!
勇者とは対象的に、魔王は焦るような声で応える。
「余裕じゃと? 余裕なわけなかろうが! ぜんぜん、このシミが落ちんのじゃ! あーもう!」
勇者とはではなく、シミと戦い続ける魔王……。なんだこれ? っと、呆れていると勇者の仲間であろう、チャラそうな女ルンの声が聞こえてくる。
「ねぇ、ユウタ? これ、どういうこと? なんで魔王が雑巾がけしてるの?」
「いや、わからん……。俺が想像していた魔王とは、イメージが違いすぎて付いていけてない……」
そう勇者が答えると、ルンは続けて提案する。
「もうさぁ、このまま斬っちゃえば? どうせコイツ魔王なんだし」
「いやいやいや~! こんな状態で斬るのは卑怯すぎるだろ! ちゃんと対峙した状態じゃないと……」
さすがの勇者も、こんな状態の魔王に気を使わずにはいられない様子である。そんな勇者ユウタの発言に、他のメンバーたちの声が飛び交う。
「さすが、ユウタなのですっ! こんな状態の魔王に斬りかかれとは、ルンは最低なのですっ!」
「たしかにな、いくら魔王でも正々堂々と戦わなけば、勇者ユウタの名が汚れる。ルン少しは自重しなさい!」
幼そうな声クリスが発言し、大人びいた落ち着いた女性の声ミキが続いた。
なぜだが知らないが、ルンが悪者になる流れが出来上がってしまった。
そんなルンは――
「ちょっと! なんで私が悪者みたいになってるのよ! 敵は今、雑巾がけしているコイツでしょ! ふんっ! どうせ二人共、私がユウタとデキているから、僻んでいるんでしょ?」
このルンの発言で、この場の空気が一気に悪くなる。
最初に反応したのは勇者だった。
「ちょっ! ルン、な、な、な、何を言い出すんだ?」
慌てふためいた声を上げる。
魔王は頑固なシミと闘い、勇者は別の闘いが始まろうとしていた……。




