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 『アーちゃん』『マーちゃん』などと言う、よく分からん呼び合いを聞き続けていた。決して他人が聞いてはいけない会話トップ10があるなら、ぶっちぎりでランクインするだろうレベルだ。今、何をしているのだろう……? 生きているのか、死んでいるのか、わからん状況で俺は……。


 しばらくして、謎の呼び合いの声は聴こえなくなった。俺は、ホッと肩を撫で下ろし、とんでもないモノを聞かされたダメージから回復させるため、気持ちを落ち着かせようとしていると、突然――

 

『バババババァァァンンン!』


 と、俺の鼓膜には、けたたましい爆発音が駆け巡った。


 な、なんだこれ? うるせー! 耳を塞ぎたいが、身体が動かない……。 アイツ何をやってるんだ!?


 騒音の苦情に怒鳴り込んでやろうとしていると、突如、例のマーちゃんの声が聞こえてくる。


「お疲れ様です、魔王様。今回の勇者は、いかがでしたか?」 

「ん? なんじゃ? よう聞こえんな?」


 と、かなり不機嫌そうな声で返答するアルフ。そんなヘソ曲がりとの対応に慣れきっているマーちゃんは、一度咳払いし、言い直す。


「ゴホンっ! ア、アーちゃん、今回の勇者は、どうだった?」


 機嫌のバイオリズムが変わったことが、声の高さでモロわかりのアルフは、


「ふふーん! まぁ、余裕じゃったぞ! 例の如し、一撃じゃったからのぅ。アレ、本当に勇者じゃったのか? ただの村人が、間違えて来たとかじゃなかろうな? 余は嫌じゃぞ、間違えてなんの罪も無い村人を倒したってことになるのは」

「いえいえ、本物の勇者ですよ! こちらの将軍もやられてますし、れっきとした勇者ですから安心して下さい。そもそも、村人が魔王城に迷い込むことなんてありえませんので……」

「はぁ……、それにしてもじゃ……。まぁ、最近しょっちゅうしょっちゅう勇者が来るのぅ……。勇者っていうのは、人間たちで言う最強の者ではなかったのか? 倒しても倒しても、次から次へと、新しい勇者がやってくるではないか。勇者って、そんなにゴロゴロいるものなのか?」

「い、いや~。そんなはずはないのですが……。昔から伝わる見聞ですと、魔王と勇者は相対する存在とされてまして、お互い一人ずつのはずなのですけどね……」

「魔王は余しかおらんのに、アッチは何じゃ? ズルいぞ! 蝗の群れのようにワラワラと群がってくるではないか! それによぉ、アイツら一人で来れば良いのに、毎度毎度、何人か誰か連れてくるじゃろ? あれは何だ? 余が友達いないことへの当てつけなのか? あー! イライラするのじゃ! 絶対、余のことを噂して笑っておるのじゃ! どうせ、影で『魔王いつも一人だなぁ』とか『アイツ友達いないんだぜ(笑)』とか言っておるのじゃ! ヒドイのじゃ……。う、うぅぅぅ……」 

「ほらまた、悲観的になってますよ。勇者たちは、そんなことを言ってませんって。勇者がお供を連れているのは、魔王様に対して恐れを持っているからですよ。それに、アーちゃんには、私がいるじゃないですか! 元気を出してっ!」

「マ、マーちゃんっ!」

「アーちゃんっ!」

「マーちゃんっ!」

「アーちゃんっ!」

 ・・・

 ・・

 ・


 ちょ、ちょっと待って! えっ? また始まるの? ループは勘弁してくれよぉぉぉ!

 っと、俺の頭が爆発しそうになった瞬間だった。


 『ガチャッ!』


 っと、扉を開ける音がしたかと思えば、


「た、大変です! 魔王様っ! と、と、とんでもない勇者がきましたっ!」


 と、今まで聞いたこともないドスの利いた声で、その新キャラは話を続けた。


「勇者は、すでに魔王城に侵入しており、防衛にあたった四天王様を一瞬で倒し、今まさにココに迫っています! 魔王様、お気を――っ!! うぐぅ――、ぐぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 『ビシャ……、ビシャ……。ドサッ……』

 

 魔王に報告を続けていた新キャラは、突如、とてつもない叫びをあげる。その後、地面に垂れる液体の音、続いて倒れるような音が鳴り響く……。


 何事か大変なことが起きていることはすぐに分った。突然のことに俺の後頭部は、ドクドクと血液が流れる感触を感じていた。何も見えない俺は音だけを頼りに耳を傾ける。

 

「んもぉ~、ヤダ汚いっ! だから魔物って嫌いなのよ! あっ! いたいた! 魔王みつけたよ~!」


 聞こえてきた声は、初めて聴く若い女性の声だった。

 その後、ガシャガシャと複数の足音がその後に続く。


「『ルン』は潔癖症なのです! 魔物との戦いで、体液が付くことなどしょっちゅうなことなのです。そんなこと気にしていては話にならないのです!」


 そして、また違う女の声が聞こえてきた。


「ちょっとっ! 『クリス』! 体液って言わないでよ! もうホントキモいんだから!」


 最初に声をあげた女が答えると、


「ちょっと貴方たち、魔王との戦闘の前よ。少しは緊張感を持ちなさい!」


 またまた、違う女の声が聞こえてきた。

 さっきから、何人もの女が登場してきたが、何がなんだか分からない。

 その後も、知らない女たちの会話が続く。


「『ミキ』姉は堅物なんだから! もっとリラックスしようよ! どうせ『ユウタ』が瞬殺するんだから!」

「その通りなのです! 緊張する必要などないのです! 『ユウタ』がいれば安心なのです!」

「全くもう……、貴方たちは、いつもいつも『ユウタ』に頼りきっちゃって……」


 そんな女どもの会話を遮るように、またもや新キャラの男の声が響く――


「魔王か? 俺の名は『ユウタ』、お前を倒すためにやってきた勇者だ!」


 その男の言葉は、嘘偽りのない真っ直ぐな言葉であり、とても正義に満ち溢れた気持ちを言葉にしていることは伝わってくる。




 そして、聞いた俺は――


 ――正直、イラついた。



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