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 俺は死んだのか?


 気が付くと、目の前は真っ暗、音もなく匂いもない虚無の世界。いつの間にか、体の痛みもなくなっている。声を上げようとしても声が出ない。身体も動かせない……。

 こ、これは――、


 あーあ、これ完全に死んでるわ。死んじゃったよコレ……、あーもう! 異世界に来てまだ初日だぞ! クソッ最短記録だろどうせ! もうなんなの! 女神も鼻で笑うレベルですわ! 誰だよ、アルフには倒す手段があるって言った奴は! ただキレて突っ込んで行っただけじゃねぇか!


 このように一人で悶ていると、どこからか声が聞こえてくる。


「嫌じゃ!」


 その声は、聞き覚えのある女の声だった。


「だから、余は魔王なんかになりとうない!」

「アルフ様、ワガママを言わないで下さい。意図的ではなくとも先代魔王様を倒してしまったのですから」


 アルフ? アルフの声か! ア、アイツ生きてたんだ!


 なぜか俺は、心の底から安堵した。それにしても誰と話しているんだ? 勇者でも魔王でもない聞き覚えのない男の声だ。そして、その話し声は続いた。


「違うのじゃ! 魔王様に遊んでもらおうと、かる〜く肩パンしだけなのじゃ!」

「なんで遊んでもらうのに肩パンするんですか? アルフ様の力は強大なのですよ、常々気をつけてくださいと申しておいたじゃないですか!」

「魔王様は最強なのじゃろ? だから大丈夫かと思ってのぅ。だって……、余と同じ歳の奴ら、ちっとも肩パンさせてくれんのじゃ……」

「アルフ様に肩パンされたら皆、死んでしまいますよ! はぁ……、とにかく、アルフ様もお辛いと思いますが、ここは一つ我慢して魔王になるしかありません」

「嫌じゃ嫌じゃ! 魔王なんてなったら、誰も余と肩パンしてくれぬではないか!」

「どんだけ肩パンしたいんですか! それに魔王にならなくてもできませんから!」


 な、なんだ? この会話は……。う〜ん、全く意味がわからない。分かったことは一つ『アルフは肩パン好き』だけ。なんじゃそら! う〜ん、何かがおかしい。そもそも、あの魔王ゴウマとの戦いからこんな話になるのが不自然すぎる……。


 この先も何も見えないまま、声だけが聞こえ続けていた。その会話は、アルフと知らない男の会話で、突如始まったと思えば突如終わるといった感じ、一つ一つの会話に何の脈絡のない会話だった。


 今度の会話は、男の声から始まった。


「魔王様、いつ頃人間たちの国に攻め込むつもりですか? 我が軍は、かつてないほどの戦力にもなりました。今こそ、人間たち全滅させる好機です! オニゴロシ将軍もシビレを切らし始めてますので、そろそろ具体的な時期を決めたほうが良いと思われます」

「あー、えーと、そのことなのじゃがな……。昨日、オニゴロシ将軍は死んだ……」

「えー!? ど、どういことですか? オニゴロシ将軍といえば過去に勇者パーティーを二度も全滅させた豪傑。だ、誰にやられたのですか? 勇者の子孫ですか?」

「あ、あのなー。言いづらいのじゃが……」

「ど、どうしたのですか? そんなに手をモジモジさせて」

「以前、相談したことあったじゃろ? オニゴロシ将軍が気になるって……」

「あーそんなこともありましたね。気になるってことは、謀反の恐れを考えてらっしゃると思い調べましたが、そのようなことはないとご報告したと思いますが」

「いや、気になるって、そう言う意味じゃないのじゃ……、お、男として気になるって意味なのじゃ……」

「えぇぇぇぇぇ!」

「それでのぅ……、人間たちの雑誌を読んだら、気になる男子には、さり気ないボディタッチが有効って書いてあってのぅ……」

「ま、まさか……」

「う、うん……。昨日、呼び出してさり気なくボディタッチしたら死んでしまったのじゃ……」

「ちょっ! ちょっと何やってるんですか! 人間倒さないで将軍倒してどうするんですか!」


 と、いう会話だった……。なんともコメントしづらい内容である。しかし、会話を聞き続けて分かったことがある。この会話は――アルフの記憶だ。

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